111.68点で1位となったショートの得点を見て、人さし指を立てて「1」をつくった羽生 (c)朝日新聞社
111.68点で1位となったショートの得点を見て、人さし指を立てて「1」をつくった羽生 (c)朝日新聞社
フリーの演技後、感極まった表情で天を仰ぐ羽生 (c)朝日新聞社
フリーの演技後、感極まった表情で天を仰ぐ羽生 (c)朝日新聞社

 ケガを乗り越え、見事な復活、そして五輪2連覇を果たしたフィギュアスケート男子の羽生結弦。ジャーナリストの田村明子さんが現地からレポートする。

【写真】まさに胸キュンの瞬間!表彰式後にファンを見上げる羽生結弦

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 月並みな言い方だが、超人というのはこういう人のことを言うのかと改めて思った。2月16日の男子ショート、翌日のフリーで、見事な演技を見せた羽生結弦のことである。

 昨年11月にNHK杯の公式練習で負傷をしてから2月11日に五輪会場となる江陵入りをするまで、沈黙を保ってきた羽生だった。12日に初の公開練習をしてから本番の16日まで、ひたすら慎重にスケーティングに集中し、跳んでみせたジャンプは数えられるほどだった。

「調整段階なのでまだまだやっていないジャンプやエレメントがたくさんあるんですけれど、計画にそって臨機応変に自分のピークを作っていきたいと思っています。試合までに数えられるだけの時間があるので、それを賢く使って個人戦にピークが合うようにしたい」

 2月13日の会見で羽生がそう語った。ボランティア通訳として隣に座った筆者の目からは、久々に会う羽生は心なしか少しだけやつれて見えた。

 時間があるといっても、この会見から本番まで彼が出た公式練習はわずか3回のみ。どうやって調整をしていくのだろう。

 ショートの前日には、囲み取材で日本選手団がまだ金メダルをとっていないことについて訊かれ、こう宣言した。

「誰がとろうが自分もとります」

 なかなか日本人のメンタリティで言えることではないことを、堂々と言って様になるのも羽生ならではだ。ところが本番当日の朝になって、公式練習で4サルコウの調子が崩れた。曲かけの最中に体が途中で開いてしまい、その後も何度かサルコウを繰り返し失敗。本人が少しあせっている様子も見えて、観客たちもさぞハラハラしたに違いない。だがここで一歩も引かないのが羽生結弦である。その数時間後の本番では、練習で苦戦していた4サルコウも含め、すべてのジャンプを完璧に降りた。まったく3カ月のハンディなど感じさせない、みごとな演技で111.68点を獲得しトップに立った。

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