2年半前に「目と心の健康相談室」を立ち上げた、井上眼科病院名誉院長の若倉雅登医師は、いつまでも同じように見えると考えず、自分の状態の「特性」を知ることが大事と話す。

「不調が加齢によるものなのか、経済状況の悪化による不安からきているのか。何が目を不調にしているのか、自ら考えて分析すべきなのです」(若倉医師)

 見え方の変化は、目そのものに原因があるとは限らない。目から入ってくる膨大な情報を整理する脳の“フィルター”は、加齢や病気によって変化し、見え方も変わる。目が見えていても、脳がぼんやりしていたらモノは見えていない。脳のフィルターが機能していないからだ。

「私の視力は1.2ですが、20年前と今とで見え方は違っています。逆光から人が歩いてきたときなどすぐにわからないことがある。これは余分な光を整備する脳のフィルター機能の低下によるものです」(同)

 別の診療科で処方された薬が原因で、目のトラブルを引き起こすこともある。 例えば、若倉医師の元に眼瞼痙攣の治療に訪れた50代の女性のケース。眼瞼痙攣は50代以上の女性に多く、原因の3分の2が加齢や体質・心身のストレスが関係し、3分の1が薬剤性とされる。この女性の場合、不眠のために飲んでいたベンゾジアゼピン系の安定剤が原因だった。依存性の高い薬だが、初期だったため、離脱ができ、目の症状も改善したという。

 ベンゾジアゼピン系の安定剤は認知症を引き起こすこともあり、7年前には国連の国際麻薬統制委員会が日本の過剰処方を指摘。もし不眠改善にと処方されている人は気をつけよう。

 目が見えづらくなると、えたいの知れない不安に襲われがちだが、自ら勉強し、自分の状態に関心をもつこと。処方される薬剤も医者と一緒に考えていくぐらいの気持ちで医者と向き合えば、治療のゴールもおのずと明確になるだろう。(本誌・大崎百紀)

週刊朝日  2017年11月17日号