「腰痛改善のカギを握るのは、『腹横筋』です」

 こう話すのは、早稲田大学スポーツ科学学術院教授で、整形外科医の金岡恒治さんだ。オリンピック帯同スポーツドクターであり、腰痛研究を専門としている。

 腹筋といえば、六つに割れたスポーツ選手のおなかを思い浮かべる人もいるだろう。あれは腹直筋で、腹横筋はその内側にある。おなか周りをグルリと取り囲み、コルセットのように腰を支えている筋肉で、“インナーマッスル”や“コアマッスル”とも呼ばれる。思い切り笑ったときや走ったときにおなかが痛くなる、あの部分だ。

「腹横筋が使われると腹圧が高まって、腰やお尻がギュッと引き締まる。それによって腰椎を安定させることができます。腰痛に悩んでいる人は、この腹横筋がうまく使えていないことが多い。腰を支える力が弱いため、腰骨や腰の関節に負荷がかかり、痛めやすいのです」(金岡さん)

 先に挙げたような椎間関節性腰痛などは、骨盤の傾きが原因で起こる。例えば、背中が丸まった姿勢の人は骨盤が後ろに傾いており、背骨の前側(おなか側にある椎間板)に負荷がかかる。反対におなかを突き出すような姿勢の人は、骨盤が前に傾いているので背骨の後ろ側(背中側にある椎間関節)に負荷がかかる。こうした腰痛では、まず傾いた骨盤を正しい位置に戻すことが重要で、その際に腹横筋が必要になるのだ。

 では、どうすれば腹横筋を“うまく使う”ことができるのか。金岡さんは「ドローイン」と「ハンド・ニー」という深部筋トレーニングを勧めている。やり方は次のとおり。

【1】ドローイン あおむけに寝て膝を立てた状態で、息を吸っておなかを大きく膨らませる。ゆっくり息を吐きながら、おへそをぐっと内側に引っ込めていく(お尻の穴をすぼめるような意識)。このときに背中が床から離れないよう密着させる。

【2】ハンド・ニー 四つんばいになり、ゆっくり息を吐きながらおへそをぐっと内側に引っ込め、腰を安定させてから、右手を前に上げる。体が安定したら、その状態のまま左足を上げる。これを反対側も行う。足を上げたときにふらついて、バランスがとれなければ、手だけでもOK。背中が反りやすいのでできるだけ平らにし、手や足を上げたときに骨盤が傾かないように気を付ける。

 回数などは特に決まっておらず、空いた時間にちょっとずつ続けるとよい。

 今までの腰痛体操とは一味違う深部筋トレーニングだが、この効果について、金岡さんらが慢性腰痛の患者を対象に行った検証では、1カ月後には痛みの強さがほぼ半分になり、6カ月後には腰痛がほぼなくなったという。

「ドローインもハンド・ニーも腰の手術をしたその日からでもできる、効果的で安全性の高いトレーニング。実際のリハビリにも取り入れられています」(同)

 より効果的に行うポイントは、“腹横筋を意識すること”だ。腹横筋は腹直筋と違って見たり触ったりできないので、腰の内側に意識を集中して行わないと効果は上がりにくい。また、正しい姿勢で行うことも大切。初めは家族などにチェックしてもらおう。

「このトレーニングで腹横筋が意識して使えるようになったら、日常生活のなかにも取り入れていきましょう。立ったり座ったりするときに意識するだけでも、だいぶ違います。腰痛が改善されるだけでなく、再発予防にもなります」(同)

(本誌・山内リカ)

※週刊朝日2017年10月27日号