東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝
東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝
仮にソフトバンクの指名がかなえば、王会長は清宮(写真左から2人目)にどんな指導を施すだろうか……(c)朝日新聞社
仮にソフトバンクの指名がかなえば、王会長は清宮(写真左から2人目)にどんな指導を施すだろうか……(c)朝日新聞社

 10月26日に迫ったプロ野球ドラフト会議」。西武ライオンズでエースとして活躍し、監督時代には2度のリーグ優勝を果たした東尾修氏は今回の“最大の焦点”について語る。

【写真】複数球団による争奪戦が必至の早実・清宮

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今年のドラフト会議は一人のスター候補生を指名するか、回避するかが、最大の焦点となる。早実の清宮幸太郎のことだ。近年、なかなかこれだけの注目を集める選手はいないのではないかな。

 ポジションは違うけど、私が西武の監督時代に抽選で1位を引き当てた1998年ドラフトの松坂大輔(現ソフトバンク)以来だと思う。あの時も当日のスカウト会議で5~6球団くらい来るというスカウト情報だったが、フタを開けたら横浜(現DeNA)と日本ハムの3球団だった。少なくてラッキーという思いは正直あったよ。

 当たり前の話だけど、全球団に近い数が清宮のクジに参戦するのなら、たとえ外れても「外れ1位」に逸材が残っている。しかし、3~4球団に終わった場合、他の球団は1位指名しているのだから、その数は減る。すでに清宮からの撤退を表明しているのは、広島くらいか。スカウト会議直前まで腹の探り合いにはなるだろう。

 面談を行い、各球団の育成方法も伝えられたと思う。ただ、一番大事なのは指導者がどれだけスケール感を持って教えられるかだろう。おそらく期待と現実のはざまで壁に当たる時は来る。その時にどんな指導ができるのか。逆に「何も言わない」ということも駄目。どうしても、結果を求めるとこぢんまりとしがちだから、常に目を光らせる必要がある。起用する監督からすれば、周囲やファンから何を言われようとも、ぶれない信念が必要になる。

 私も大輔にはとにかく、スケール感を大切にした。若くしてまとまるな、捕手のミットを抜けてバックネット裏に突き刺さるような感覚を磨いてほしい……などだ。日本ハムの栗山英樹監督も大谷翔平を預かってきた5年間、一度も信念を曲げなかった。ほめたコメントもほとんど見たことがない。「世界一の選手になってもらいたい」という思いで選手と寄り添ってきた結果だろう。

 私は大輔を監督室などに呼び出して2人きりで話した覚えはほとんどない。特別扱いととられることがとにかく嫌だったからだ。だけど、栗山監督は逆に「4番・投手」としての起用もそうだし、1軍の試合の中で調整させるなど「常識」を覆す形で寄り添った。覚悟を感じ取れたよね。

 近年、いきなりプロの世界で活躍できる高卒選手が増えた。ひと昔前は一部の優れた投手くらいだったが、今は西武の森友哉みたいに1年目から打線の主軸を張れる野手も出てきている。高校生の体作りへの取り組みであったり、食事方法だったり、進歩していると感じるよ。以前は高卒野手をドラフト指名する時に「即戦力」という意識は完全に捨てていたけど、今はそんな意識はなくしていいと思う。野手の進歩はめざましいものがある。

 だからこそ、だ。「3年後に……」とか「体ができてから」といった、野球界に染みついた固定観念はまったく捨て去って指導に当たってもらいたい。個人的には、もしソフトバンクが清宮を引き当てた場合、王貞治球団会長がどういった指導をするのかを見たい。

 日本シリーズ開幕2日前に開催されるドラフト会議。どんなドラマが待ち受けているか、私も注目している。

週刊朝日 2017年10月27日号

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東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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