そこで内科医院の紹介で同年10月に、名古屋第二赤十字病院を訪ねた。対応したのは第一移植外科部長の渡井至彦医師である。

 安永さんらは、移植内科医と移植コーディネーターによる説明を受け、改めて移植の意思を伝えた。その後、入院を含めて3カ月ほどかけて術前検査を受けた。

 渡井医師は通常、血液型が異なったり、ドナーに対する抗体をもったりするレシピエントには、手術の2週間前から入院してもらい、免疫抑制剤に加えて血漿交換もおこなって抗体を取り除いている。しかし安永さんはこうした治療は不要とされ、1週間前から入院して移植数日前からの免疫抑制剤による治療だけだった。

 そして16年6月に手術。腎不全で止まっていた尿が、移植したその日から十分に出るようになり、むくみやかゆみ、倦怠感もとれ、食欲も出てきた。最近では、ゴルフに夫婦旅行にと、毎日を楽しく過ごしている。

 渡井医師は、

「腎移植後は、いわゆる生活習慣病予防を徹底させる必要があります。腎不全に陥る人は糖尿病などで動脈硬化が進んだ人が多く、食生活や運動量など、従来の生活習慣のままでは新しい腎臓にも負担をかけて、結局、人工透析を受けることになりかねないからです」

 と、腎移植後の生活習慣の見直しの大切さを強調。

「移植前だけでなく、移植後にできる抗体(抗ドナー抗体)もあります。術後にできる抗体は免疫抑制剤の飲み忘れが引き金になりやすく、この抗体による拒絶反応にはまだ有効な治療法がありません」(渡井医師)

 として、術後も免疫抑制剤をきちんと飲み続けることを呼びかける。

 このように健康な日常生活が期待できる腎移植だが、実施医療機関やドナーが限られることなどから、実施件数は急激には増えていないのが現状である。

 渡井医師は移植を受ける際の病院選びでのポイントとして、こう述べている。

「事前に専門家がじっくり話を聞いてくれて、移植後の通院で服薬指導や生活習慣に関する指導をおこなってくれること。また、抗ドナー抗体の問題に対してもきちんと検査・治療してくれることも必須です。移植医だけでなく、多職種のチームで術後もフォローしてくれる病院を選んでほしい」(ライター・近藤昭彦)

週刊朝日 2017年10月13日号