小林麻央さん (C)朝日新聞社
小林麻央さん (C)朝日新聞社

 小林麻央さんの命を奪った乳がん。最後の数カ月、どんな苦しみと闘って過ごしたのだろうか。

 乳がんの場合、骨や肺などに転移が起こりやすく、痛みや息苦しさといった身体症状が出てきやすい。

「特に骨転移は強い痛みに襲われることが多い」

 と話すのは、長年、在宅医としてがんの終末期医療などにかかわる、新田クリニック(東京都国立市)の新田國夫医師だ。事実、麻央さんのブログには、骨からくる痛みやつらさが包み隠さず書かれている。

「昨日の夜中は久しぶりに痛みのレスキュー(緊急避難的な痛み止め)を飲むために起き上がりました」(4月10日)

 4月22日、麻央さんは入院。輸血や点滴などの治療を受けて1カ月と1週間ほどで退院した。麻央さんは、自宅に帰ることを強く望んでいたと、病院の関係者は証言している。

 医療者がいない環境で過ごすことをためらう患者もいるが、麻央さんの場合、在宅医が薬の量を調整したようで、ブログには「心強い」と書かれている。

 今の在宅のケアについて新田医師は説明する。

「今は病院レベルの緩和ケアが、在宅でも可能。例えば、痛みにはオピオイド(医療用麻薬)を使いますが、飲み薬、貼り薬、座薬、持続点滴などいろいろな投与法があり、患者さん自身が自分の症状に応じて薬の量を調整できます」

 プライベートな空間はベッド周りしかない入院と比べると、在宅医療は、好きな時に好きなことができて、家族にも自由に会える。

「生活の匂い、家族、自分の空間に戻るというのは、がんがあっても“最後まで生ききりたい”という患者さんの意思の表れです」

 と新田医師は話す。ブログでも「我が家は 最高の場所です。(中略)子供達はもうすぐ公園から帰ってくるようです。早く会いたい」(5月29日)と強い思いがつづられている。

 自宅で過ごすことががん患者にもたらす利点は、筑波大や神戸大の研究でもわかっている。病院よりも自宅で過ごしたほうが、生存期間が長く、体に負担のかかる治療をしなくても、寿命は変わらなかったのだ。

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