緊迫する米朝関係。ジャーナリストの田原総一朗氏は、米国は「尋常ならぬ決意」を示していると分析する。

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 4月6日、トランプ政権の米国はシリアのアサド政権が禁じ手の化学兵器を使ったとして、シリアの空軍基地をミサイル攻撃した。攻撃の理由はいろいろ挙げられているが、何より指摘しておかなければならないのは、中国の習近平国家主席とフロリダ州のトランプ大統領の別荘で初会談を行っている最中にシリア攻撃があったということだ。

 トランプ氏はそのことを、いま攻撃をした、と直接、習近平氏に伝えたという。

 首脳会談のテーマは中国が南シナ海につくった人工島について、巨額の対中赤字をいかにして解消するかなどで、いずれも難題であり、両首脳の激しい対決が予測されていた。

 だが当然ながら、話題は北朝鮮に集中した。習近平氏との会談中にシリア攻撃をしたということは、トランプ氏は北朝鮮に対し行動をいとわない姿勢を示したということだ。両首脳は「北朝鮮の核開発は深刻な段階に達した」との認識で一致したものの、それでは北朝鮮の核開発をやめさせるため両国が具体的にどのような方策をとるかという論議がされたかは明らかになっていない。

 トランプ氏は従来の政権と異なり、北朝鮮に軍事行動を含む「すべての選択肢」を検討していると習近平氏に伝えた。そして中国側に協力を求め、協力が得られない場合には、米国は独自に対応するという意向を習近平氏に示したようだ。

 それに対し、中国側は会談後に王毅外相が中国メディアで、習氏は米朝双方の自制を求め、在韓米軍の高高度防衛ミサイル(THAAD)配備にも反対の姿勢を示したと述べた。

 トランプ氏は、米国による武力行使まで幅広く意見を戦わせたが、結局は平行線に終わり、具体的合意に達しなかったようだ。そのためか、会談後に共同記者会見も共同声明の発表もなかった。

 ところで、今年の4月15日は金日成国家主席の生誕105周年にあたり、11日からさまざまなイベントが開催され、世界から100人近いメディア人が平壌に派遣された。5年前には金日成生誕100周年記念式典が行われたが、やはり世界から多くのメディア人が集まった4月13日朝に「人工衛星」と称して弾道ミサイル(テポドン)が発射された。だが、これは失敗で、北朝鮮は大きな恥をかくことになった。

 
 そして今年、金正恩の北朝鮮は、世界から多くのメディア人が集まる105周年の記念式典の前後に、6回目の核実験を行うのではないかという予測が強まっている。

 金正恩の北朝鮮は、まるで米国を挑発するように70発のミサイルを発射し、3回の核実験を敢行しているのである。3月6日の4発のミサイルの同時発射は、実は在日米軍基地を狙ったのだということだ。

 そして米国は、尋常ならぬ決意を示すように、シンガポールからオーストラリアに向かう予定だった原子力空母「カールビンソン」やイージスシステムを搭載したミサイル駆逐艦2隻、ミサイル巡洋艦1隻を朝鮮半島沖に向かわせている。

 それに対し北朝鮮側は「暴力には暴力で対抗するしかなく、我々にはその覚悟ができている」という強気の反応を繰り返している。北朝鮮は米国の圧力をはねのけ核実験を敢行するのか。その場合、米国はどのような攻撃をするのか。日本、韓国はもちろん世界中が強い危機感を抱きながら注目している。

週刊朝日 2017年4月28日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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