脳血管の血栓まで到達させたカテーテルの先端部に折りたたまれている、ネット状の金属(ステント)を広げ、血栓を包み込み、そのまま引き抜いて回収する。すべてX線画像で確認しながらおこなう。

 血栓が残った場合、回収は合計3回まで実施できるが、水谷さんは1回の治療で完全に回収できた。詰まった脳血管が、発症から3時間後には再開通した。

「局所麻酔でおこなうため、患者さんの反応により治療効果や副作用などを確認できます。水谷さんの場合、血栓回収後、すぐに意識レベルとまひの改善が確認でき、会話も可能になってきました」(吉村医師)

 術後、リハビリのために1週間ほど入院。自宅療養を経て職場に復帰した水谷さんは、倒れたときに迅速に対応してくれた仲間に感謝しつつ、生まれ変わった気持ちで再び仕事に打ち込んでいるという。

 日本で血栓回収療法が始まったのは10年。現在の主流となっているステントによる回収は14年に始まった。吉村医師は、

「16年までに、ヨーロッパを中心にした海外の七つの大規模な研究でいずれも、急性脳梗塞に対する血栓回収療法の有効性が示され、この治療法の科学的根拠が確立したといえます」

 と強調する。一方で、どんなに優れた治療法があっても、病院到着が遅れては本来の治療効果が得られない。吉村医師はこう訴える。

「軽いまひなどに気づいても『疲れかも』などと、ひと晩放置してしまいがちです。まひと言語障害に気づいたら、様子を見てはいけません。とにかくすぐに救急車を呼んでください」

週刊朝日 2017年4月7日号より抜粋