「世界中にある“隠し資産”を全部持って北朝鮮に帰れ、と言われていた。身の危険を感じた正男氏は一時すごい警備を付けていた。本人は亡命も検討していたようだ。『なぜ兄がこんな目に遭わなければならないのか』と嘆いていた」

 暗殺犯は男女6人のグループとみられ、実行犯の女性2人は15、16日、マレーシア警察に逮捕された。

 女性2人のうち、爆笑を意味する略語「LOL」と書かれたTシャツを着ていたベトナム人のドアン・ティ・フォン容疑者(28)は、インターネットアイドルを自称。取り調べに対し、見知らぬ男たちから「乗客にいたずらを仕掛けよう」と持ちかけられたと供述しているという。インドネシア人のシティ・アイシャ容疑者(25)も「100ドルでいたずら映画への出演を持ちかけられた」などと話し、犯行動機は見えてこない。

 だが、警察は17日夜、北朝鮮籍のリ・ジョンチョル容疑者(46)を逮捕した。マレーシアの労働ビザを所有していたという。

「クアラルンプールで女性たちと接触し、信頼関係を結び映画撮影の話を持ちかけた。リが現場の指揮役だが、本当の首謀者は別にいるようだ」(捜査当局)

『独裁国家・北朝鮮の実像』(朝日新聞出版)の共著者の一人、関西学院大学国際学部の平岩俊司教授はこう指摘する。

「今回の事件で国際社会が北朝鮮に対し、表立って非難する事態にまでは発展しないと思う。正男氏を保護してきた中国の怒りを買うとの報道もあるが、中国はそんな甘い国ではない。正男氏といえども手ごまの一つとしか考えていません」(本誌取材班)

週刊朝日 2017年3月3日号