来年のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)へ動くサムライジャパン。西武ライオンズの元エースで監督経験もある東尾修氏は、投手陣を不安視する。

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 来年3月の第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に向けての強化試合の4試合をテレビで見ていた。投手陣が4試合で29失点か……。はっきりいって、同じような形で本番も点を取られたら、勝ち抜けない。まだ、滑るWBC使用球への対応途上とはいえ、各投手が、自分の一番得意な球を操れていないことが気になった。

 千賀であれば、フォークボールの制球がほとんどついていなかった。これだと直球でカウントを取らなきゃいけないし、自分本来の組み立てはできない。すべての球種を日本の統一球同様に操るように、とは言わないが、自分の軸になる球は操れるようにしないと、本番でも同じことが起きてしまう。

 テレビを見ていて、捕手が1球ごとにベンチを見ているのが気になった。権藤投手コーチから配球のサインが出ているようだったが、サインを出すことは問題ない。だが、その割合が問題だ。個人的な見解だが、WBC使用球への対応を試合の中でどうするかを確認するのが、今強化試合の主眼の一つだったと思う。ならば、投手に投げたい球を投げさせることが前提だ。もし、ベンチからサインを出すのであれば、絶対に選択ミスを犯してほしくない場面に限るべきではないかと考える。

 今はデータがそろい、他国の選手の映像も入手しやすくなっている。それでも、春先の大会で一番重要なことは、選手のコンディションの見極めである。メジャー選手が相手チームにいたからといって、調整不足なら過度に恐れる必要はないし、無名だからといって、マークを怠ると痛い目に遭う。だからこそ、バッテリーが感じたことを最優先すべきではないか。もし、ベンチからサインが全球出ている状況であるなら、すぐに修正すべきであろう。それが理由で投手がリズムに乗れなかった可能性もある。

 
 それにしても、大谷翔平の使い方が一気に難しくなったな。今回は打者としてのみの出場だったが、存在感はずば抜けていた。彼が打つと、球場全体が活気づいた。一振りで球場の雰囲気を変える存在であることを証明した。だが、国際大会は先発投手の勝敗に対する比重が高まるし、1次ラウンド、2次ラウンドで1試合ずつ、球数制限いっぱいまで投げてもらいたい。この強化試合の投手の出来を見たら、大谷が投げる試合で必ず勝つことが求められる。

 東京ドームで行われる1次ラウンド、2次ラウンドの日程を見ると、2013年の前回大会以上に過密日程だ。各ラウンドともに3試合を戦って、2勝1敗や1勝2敗で勝敗が並んだ場合は、2位と3位でプレーオフを行うという。各ラウンド5日間で4試合を戦う可能性がある。小久保監督は「先発、第2先発を4組」と考えているようだが、それだけでは弾力性は生まれない。

 私は3月7日の開幕・キューバ戦に、大谷を先発、そして2番手に菅野、もしくは則本のエース格2枚を投入すべきだと考える。初戦を落とすとプレーオフのことまで考える必要があるし、球数制限もある大会では、よい投手から出さないと、投げる前に大会が終わってしまうこともある。大谷の後に投げる投手は2イニング程度で、次は短い登板間隔で万が一のプレーオフに準備する──といった戦略も大事になってくる。

週刊朝日 2016年12月2日号

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東尾修

東尾修

東尾修(ひがしお・おさむ)/1950年生まれ。69年に西鉄ライオンズに入団し、西武時代までライオンズのエースとして活躍。通算251勝247敗23セーブ。与死球165は歴代最多。西武監督時代(95~2001年)に2度リーグ優勝。

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