「これも彼女が必要とする距離にピントが合っていないことが原因でした」(同)

 この母親の場合も、至近距離にピントを合わせるよう矯正したことで解決した。ではなぜ、視力の問題が心や体に症状を引き起こすのか。実は目と自律神経には深い関係がある。

「人間は、遠くを見るときは交感神経が優位に、近くを見るときは副交感神経が優位になります。遠方の敵や獲物を見つける必要があった生物の進化の中でそうなったのです。ところが、仕事でパソコンやスマートフォンを多用するようになったことで、脳や体は交感神経優位なのに、手元を見ることで目のピント合わせは副交感神経が優位になっている。その結果、自律神経のバランスが乱れてしまうのです」(同)

 近視の人の多くは「よく見えるようになりたい」と眼鏡やコンタクトレンズで矯正している。それがなぜ過矯正になるのか。筑波大学病院眼科教授の大鹿哲郎医師は、こう説明する。

「何より、“視力1.5や1.2はいい目”“遠くが見えるほうがいい目”という固定概念がよくありません。近視は病気ではなく、身長が高い、低いと同じように個性の一つなのです」

 日本人の場合、小中学校で実施する視力検査の影響もあり、“視力の数字が高いほうがいい目”と思い込んでいる。実はその考え方が誤った視力矯正をもたらしていたのだ。

 そもそも、レンズの役目をする水晶体の調節力は、20代ぐらいまでは高く、近くも遠くも瞬時にピントを合わせられる。だが、20代を過ぎたあたりになると加齢により水晶体が硬くなり、水晶体の厚さを調整する毛様体筋の筋力も落ちる。

「大人の視力矯正は、ライフスタイルに合わせることが大切。『視力1.0ぐらいほしい』などと希望されますが、それより『どの距離を見えるようにしたいのか』が重要。現代においては、近くをしっかり見られるほうが理想的というケースも多いのです」(大鹿医師)

 生活シーンでピントを合わせたいときに便利なのが「累進(るいしん)屈折力レンズ」と呼ばれるものだ。1枚のレンズのなかに場所によって異なる度数が配置されているもので、「遠近」「中近」「近近」などのタイプがある。手元のメモとパソコンをしっかり見たい、少し離れた場所とパソコンを見たい、テレビを見るときと運転するときによく見えるほうがいいといったニーズに応えることができる。

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