天皇陛下の腕につかまるように、皇后さまは陸上自衛隊のヘリコプターを降りた (c)朝日新聞社
天皇陛下の腕につかまるように、皇后さまは陸上自衛隊のヘリコプターを降りた (c)朝日新聞社

 天皇、皇后両陛下は、死者の魂に祈りを捧げ、悲しみに沈む人たちを励ます。スリッパを履かず、床にひざをつき、同じ目線で話を聞く姿勢は変わらない──。5月19日、地震の被災地訪問に同行した朝日新聞記者・島康彦(宮内庁担当)が、被災地に寄せるおふたりの思いを書き留めた。

*  *  *
「こちらが学生が亡くなったアパートです」

 騒音や振動で会話がままならない自衛隊ヘリコプターの機内。フリップの説明で示されたのは、東海大学の学生が亡くなった南阿蘇村のアパートである。

 窓際に座った天皇陛下は体を傾けるようにして小さな窓の外を見つめ、隣に座る皇后さまと、おふたりで黙祷(もくとう)を捧げた。

「両陛下はとてもお悼みになられている様子でした」

 同乗した宮内庁幹部はそう明かした。

 5月19日、両陛下は熊本地震の被災者を見舞うため、日帰りで熊本県を訪れた。長崎県の雲仙・普賢岳噴火(1991年)、阪神・淡路大震災(95年)、新潟県中越地震(2004年)、そして東日本大震災(11年)。災害が起こるたびに、現地に駆けつけ、被災者を励ましてきた。

 今回も「一日でも早い訪問を」と、希望していた。だが、余震が収まらず、復旧作業も困難を極めるなか、日程調整は容易ではない。

 5月は叙勲受章者の拝謁(はいえつ)が続き、多忙を極める。18日まで叙勲関連行事が入っていた。さらに、19日から22日まで静岡でのご静養が内々に検討されていた。

次のページ