「問題が起きたときに困難事例として聞き取り調査をするべきなんです。利用者がなぜそんな行為に及んだのか、原因は何か、どう対処すべきかなどを共有しないと、質の高い介護に結びつかない。運営側はヘルパー確保に追われて、人材の育成・教育まで手が回らないのかもしれません」

 今井容疑者が勤めていた積和サポートシステムは、北海道、東京、神奈川で、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)など25施設を展開し、入所者は約1100人に及ぶ。高齢化を背景に、老人ホームは異業種からの参入も多く、14年までの10年間で約10倍に。同社も介護業者と住宅メーカーが出資した参入組だ。

 Sアミーユ川崎幸町では、男性職員4人による入所者虐待事件も明るみに出た。前出の中坪取締役に一連の問題をただすと、

「今井容疑者はクレームもなく、良くも悪くも感想がないんです。今となっては問題があったことは否定できませんが、人間としての今井を見極められなかった。人となりを把握できるシステムが必要だったと今さらながら思います」

 介護現場には、その成果と報酬が結びつかないジレンマもあるようだ。関東地方でデイサービスを営む会社社長は、介護事業の難しさについてこう嘆く。

「介護が必要とされる方は、重度から軽度まで5段階に分かれている。最も重度の要介護5の利用者さんをケアした場合、月に40万円くらいの売り上げ、要介護1だと月10万円くらいと思ってください。要介護4の利用者を必死にサポートして、立てるようになった、歩けるようになったと、仮に要介護3になったら、月に10万円くらい売り上げが減る。だから手厚い介護よりも目先の収益に走るケースが多い」

 軽井沢のバス転落事故と同様に、劣化のひずみは立場の弱い人たちにつけとして回される。3人が転落死してようやく明るみに出る現実。社会がその痛みに気づくことができなかった。無念でならない。

週刊朝日 2016年3月4日号より抜粋