加藤さんは20歳のときに結核を発症。その後、再発を繰り返すうちに多剤耐性結核と診断され、近畿中央胸部疾患センターに転院してきた。治療が難航したため、当時始まったばかりのデラマニドの臨床試験へ参加を希望したという。

 加藤さんの場合、効果が望める抗結核薬がいくつか残っていたため、その薬にデラマニドを上乗せして内服。半年後には排菌が陰性化したため、その後は弱い薬だけを現在に至るまで2年近く飲み続けている。肺の病巣はきれいになり、咳などの症状も全くない。

 普通の結核は半年で治癒と判断できるが、多剤耐性結核の場合は、排菌が止まってからおおよそ2年間症状が出ない場合に治癒と見なされる。加藤さんも、そろそろ治療を終了できそうだという。

「加藤さんを含め、当院では7人全員、排菌が陰性化して治癒に結びついています。多剤耐性結核自体の治療成功率は6~7割と言われているので、新薬の効果は大きい。まれに心臓の異常を起こすことがありますが、それ以外で薬を続けられなくなる副作用はほとんどなく、使いやすい薬です」(露口医師)

 しかし、いい加減な使い方をすれば、この新薬の耐性菌を生むことにもなりかねない。そこで日本結核病学会とデラマニドを開発した大塚製薬が協力。「高精度の感受性検査が可能」「多剤耐性結核の知識と豊富な治療経験を持つ医師がいる」といった基準をクリアした施設を登録し、なおかつ患者ごとに投与の是非を厳格に審査するシステムを整えた。露口医師はこう話す。

「審査の結果、耐性菌を作るだけなので投与できない、残念ながら効果は見込めない、というケースもあります。多くの人を救える可能性のある新薬だけに、使い方を慎重に見極めていく必要があると考えています」

週刊朝日 2015年9月4日号より抜粋