厚生労働省の難病指定を受けている炎症性腸疾患は、患者数が約19万人にも上る。若年層での発症が多く、患者数は増加傾向にあるという。症状を抑える治療に、高い効果が期待される分子標的薬が加わり、患者のQOL(生活の質)は改善されてきた。

 炎症性腸疾患は、小腸や大腸の粘膜に炎症が起こる慢性疾患だ。おもなものに潰瘍性大腸炎とクローン病がある。患者の多くは下痢や腹痛を訴え、症状が治まる「寛解」と、またぶり返す「再燃」を繰り返す。原因は不明だが、免疫機能や腸内細菌などが関与していることがわかっている。

 千葉県在住の会社員、堂内保彦さん(仮名・44歳)は3年前、腹痛と下痢が2、3日続いたあと、血便が出た。近くの消化器内科クリニックで大腸内視鏡検査を受けたところ、潰瘍性大腸炎と診断された。

 潰瘍性大腸炎は、下痢や血便、腹痛などを起こす大腸の炎症だ。以前は20代、30代での発症が多かったが、最近は20~50代と発症年齢の幅が広がっているという。

 直腸から発症することが多く、粘膜の炎症は表面的だが、腸管内をぐるりと一周し(全周性)、連続して腸の奥のほうに広がっていく。

 堂内さんの炎症はそれほどひどくなかったため、抗炎症作用のある内服薬メサラジン製剤で症状は治まった。その後、仕事が忙しく服薬を忘れる日が増えてきた。約1年後、再び激しい下痢にみまわれたため、担当医は、より専門的な治療を受けられる東邦大学医療センター佐倉病院を紹介した。

 堂内さんを診た同院消化器センター教授の鈴木康夫医師は、次のように話す。

「潰瘍性大腸炎は軽症や中等症の場合、多くはメサラジン製剤を用いた治療で症状が治まります。しかし、症状がなくなっても粘膜の炎症が治癒していないと、再燃してしまうのです」

 近年は、症状を治すのではなく、炎症を治すことが治療の目標になっているという。

週刊朝日 2015年1月16日号より抜粋