
1960年、東京都生まれ。92年『龍は眠る』で日本推理作家協会賞(長編部門)、99年『理由』で直木賞、2001年『模倣犯』で毎日出版文化賞特別賞、02年司馬遼太郎賞、芸術選奨文部科学大臣賞(文学部門)、07年『名もなき毒』で吉川英治文学賞、08年英訳版『ブレイブ・ストーリー』(『BRAVE STORY』)でThe Batchelder Awardを受賞した。大型時代小説『荒神』と、挿絵と書き下ろし文章で構成された『荒神絵巻』(絵と文・こうの史代)が好評発売中(撮影/遠崎智宏)

数々の名作を世に送り出している作家の宮部みゆきさん。同じく作家の林真理子さんとの対談で、小説を書く難しさを明かした。
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林:それにしても、宮部さんはずーっとベストセラーを出し続けてるからすごいですよ。
宮部:リーマンショックのあとは半減ですよ。
林:宮部さんでも?
宮部:ガクンと落ちました。それに私は気が多くて、いろんなジャンルのものに手を出してしまったので、しょうがないですね。あるところから旬は過ぎちゃったという感じです。
林:何をおっしゃいます。
宮部:私、20世紀と21世紀で別の作家になっちゃったような気がして。20世紀に書いていたようなものは、もう書けないなって思います。
林:『火車』や『理由』など、大ベストセラーになった社会派のミステリーですね。
宮部:今の社会が私には難しすぎて。もともと、社会問題を書こうと思っていたわけではなくて、自分にとって切実に怖いことを書いてたんですね。今は問題自体が拡散してしまって、私が怖いと思うことを書いても、読者はそうは思わないんじゃないかと。
林:おっしゃること、わかります。現実に起きている事件や問題が複雑になりすぎてますから。
宮部:私なりに想像はできますけど、たぶん事実は違うと思うので。手を出せないんですよ。
林:ノンフィクションの方にやっていただいたほうが、いいかもしれない。
宮部:私もそう思います。今ノンフィクションの書き手が元気じゃないですか。出版事情は大変ですけど、皆さんいいものをお書きになってるから、そういうものはジャーナリズムにおまかせしようと思っているんです。
林:宮部さんがミステリーを書かれていたころ、私は宮部さんを「松本清張の長女」と言ってましたけど、それから時代小説もファンタジーもお書きになるようになって。何を書いても非常にレベルが高くて、かつ売れるという、ちょっと稀有な存在ですね。
宮部:ほんとにありがたいお言葉なんですけど、私は調べものをして書くのがすごく苦手なんですよ。
林:そういえば、「江戸時代はいつも下町しか書かない」っておっしゃってましたね(笑)。
宮部:それから、架空の藩をつくっちゃったり。でも、『荒神』の最後のチェックをしてるころ、ゲームをやっていて思いついたお話があるんです。それは戦国時代の実在の合戦場や武将を出したほうが絶対おもしろくなるので、調べなきゃならないんです。どうしよう(笑)。
林:戦国って難しいですよね。ファンが多いし、みんなよく調べてるんですよ。
宮部:在野の研究家も多いし、専門の時代小説作家の方でも「戦国は大変だよ」とおっしゃる。ただ、確たる史料がなくてわからないことも多いし、研究家によって定説も分かれてたりするから、「自由に書いていいんだよ」とおっしゃる方もいるんですよね。
※週刊朝日 2014年9月19日号より抜粋