さまざまな不調や病気に悩む女性にとって、漢方は強い味方になる。女性を悩ます病気「冷え症」に対する漢方処方を、漢方治療に精通した「名医」に聞いた。

「ひえしょう」は、「冷え性」とも「冷え症」とも書く。帯山中央病院本)院長で漢方専門医の渡邉賀子医師はこう解説する。

「『冷え性』は冷える性質、『冷え症』は冷える症状ですから、意味するところは同じではありません。冷えは治療対象なので、私は『冷え症』を使うべきだと思っています」

 冷えを自覚する女性は約半数にのぼる。冷える人と冷えない人の違いはどこにあるのだろうか。

 一つは、熱をうまくつくれるかどうか。熱は飲食した物を材料におもに筋肉でつくられるため、しっかり消化吸収してくれる胃腸を持ち、筋肉も十分にあることが大事だ。

 もう一つは、熱をうまく配れるかどうかだ。熱を運ぶのは血液なので、血が滞る瘀血(おけつ)や血が不足する血虚(けっきょ)は冷えを招く。漢方医学では、体を構成する3要素である「気」「血(けつ)」「水(すい)」が互いに影響しあって体を巡っていると考えるが、ストレスなどで気の巡りが悪いと血や水の循環も障害され、冷えの原因になる。

 渡邉医師は冷えを4タイプに分けている。タイプ別に特徴と処方例の一部を紹介する。

 
 まず、新陳代謝低下型。胃腸虚弱で食が細いため気が不足し、熱をうまくつくれないタイプで、下腹部を押すと簡単にへこむ。このタイプは、まず真武湯(しんぶとう)や六君子湯(りつくんしとう)、人参湯(にんじんとう)などで胃腸を丈夫にしてから、冷えの治療に進む。生命エネルギーが低下している腎虚(じんきょ)は、八味地黄丸(はちみじおうがん)や牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)で元気をつける。

 次に、血流障害型。血の不足や停滞により熱を配れないタイプで、顔色が悪い、目の下のくまなどが特徴だ。腹部はおへその下が硬く、多くの場合、便秘がある。第一選択は当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)で、桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)や温経湯(うんけいとう)、水毒(すいどく)もある場合は当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)も有効だ。

 冷えむくみ型は、体を冷やす水が偏在し、下肢のむくみのほか、舌の縁についた歯形などの特徴的な所見がある。当帰芍薬散や五苓散(ごれいさん)、苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)などを処方する。

 ストレス型は、うつ系とイライラ系があり、混合している人も少なくない。うつ系はおなかが張るなどの症状があり、半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつばれいとう)、桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)などが適している。腹直筋の緊張などがあるイライラ系には、抑肝散(よくかんさん)や抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)などを用いる。

「冷えがあると疲れやすくなるほか、若い世代では頭重感やめまいなど、更年期世代では多汗、ほてり、イライラ、閉経後は寝汗などの症状を伴いやすくなります。日常生活で冷えないよう注意し、漢方も使って治していきましょう」(渡邉医師)

週刊朝日  2014年4月11日号