「キヌア」を知っているという人は、かなりの食通だろう。聞きなれないこの穀物、欧米では生活習慣病や美容などによいと愛用者が増えている。さらに、その特性から世界の食糧事情と飢餓の解消に大きな役割を果たすと期待されているというのだ。一体どんな食材なのだろうか。

 キヌアとは、直径1、2ミリ程度の粒で、いわゆる雑穀の一種だ。日本でいえばキビやアワなどの粒を想像すれば近いだろう。1千年以上前からペルーやボリビア、エクアドルなど南米で食されてきたキヌアは、NASAが理想の穀物として評価、将来の宇宙食として研究を始めたこともあり、近年、欧米を中心に注目されるようになった。

 では、キヌアの何がそれほど優れているのか。一つが作物としての適応力。マイナス8度の氷点下から38度の酷暑の気温変化にも対応でき、干ばつや高塩分濃度の土壌にも耐性があるなど、非常に頑健な植物だということだ。さらに、やせた土壌にも適応し、高地や低地でも栽培が可能なうえ、大量に実をつけるので収穫量が多い。つまり、キヌアの消費量が増すことで、世界各地の貧困を抱えた厳しい栽培環境で生産が増えるというサイクルを生みだし、貧困対策として期待されているのだ。

 もう一つは、栄養価の高さである。主にキヌアと、同じ南米産雑穀のアマランサスの食品栄養学的研究をしている大阪市立大学大学院生活科学研究科の小西洋太郎教授が説明する。

「他の雑穀に比べて、まずタンパク質の含有量が多いうえに、私たちの体に不可欠な必須アミノ酸組成が優れていることが挙げられます。またカルシウムやマグネシウム、鉄、亜鉛などの必須ミネラル、食物繊維が多いのも特徴です。そのことから血中と肝臓のコレステロールの低下作用や抗酸化活性、血圧上昇の抑制作用が認められています。こうしたことから、アンチエイジングや動脈硬化、高血圧の予防が期待されているわけです」

 生活習慣病のリスクを高める肥満や高血圧対策に雑穀が有効であることは、最近の研究でわかってきているが、その一因は全粒で食べるからだ。たとえば米の場合、精白することで食物繊維やミネラル、抗酸化物質も取り去ってしまっている。それがキヌアのように全粒で食べることで、有用な栄養素を多くとることができるのだ。

 また、小麦アレルギーの人や、小麦や大麦に含まれるタンパク質のグルテンによって引き起こされる自己免疫疾患であるセリアック病の患者食としても優れている。セリアック病患者は特に欧米に多いことから、注目度も高いのだろう。

週刊朝日  2014年3月21日号