NHKの連続テレビ小説「あまちゃん」による経済効果「アマノミクス」が、本家アベノミクスも真っ青の大旋風を起こしている。

 まずはドラマの主な舞台である岩手県。岩手経済研究所(盛岡市)は8月、「あまちゃん」による岩手県内の経済波及効果が、今年度だけで32億8400万円にのぼると発表した。

 試算に用いたのは今年の大型連休の実績だ。「北三陸市」のモデルである久慈市。メーンロケ地の小袖海岸には、連休中だけで通常の年間観光客数の2倍が訪れた。「あまちゃん」関連のグッズやウニ丼が売れに売れた。岩手県の達増(たっそ)拓也知事は「もう、じぇじぇじぇじぇじぇですね」と驚きの声をあげる。

「作品自体は、ヒットを超えてホームランになると思っていましたけど、岩手の知名度は全国的に決して高いとは言えません。久慈への観光客が爆発的に増えるとは楽観視していなかったですね」(達増知事)

 いまも久慈の町は、“じぇじぇじぇバブル”に沸いている。

「半分遊びのつもりでした。まさかこんなに売れるとは」。幸せな誤算をかみしめるのは、久慈市の中心街で印鑑専門店「清章堂」を営む鹿糠紀章さん。

「あまちゃんブームを見て、『じぇじぇじぇスタンプ』(税込み150円)を作ってみたところ、お盆は1日100個も売れましたね」

「じぇじぇじぇTシャツ」(税込み2100円)を販売しているのは、婦人服の「レディースショップミキ」。最低でも1日20枚、週末には100枚売れた日もあったという。

「もう、いままでの久慈とは思えない。生きてるうちにこんな経験ができてよかった」(オーナーの桑畑ひさ江さん)

 劇中の第三セクター「北三陸鉄道」のモデルとなっている三陸鉄道も、「あまちゃん」効果で快走中だ。北リアス線の久慈―田野畑駅間の7~9月の総乗降客数が前年比5割増、特別運行している「お座敷列車」は人気のため、当初9月までの運行予定を10月までに延長したという。

 もちろん経済波及効果は岩手県内にとどまらない。

 東京・東銀座にある岩手県のアンテナショップ「いわて銀河プラザ」。4月1日に「あまちゃん」が始まってすぐ、久慈の郷土料理である「まめぶ汁」に関する問い合わせが殺到。4月中旬からレトルトと冷凍の商品を売り出した。

「入荷即売り切れという状態が続いています。9月中旬に240個入ったのですが、翌日の夕方までには売り切れました」(ショップの担当者)

 意外なところでは、アキが北鉄の車両内でウニ丼を売る場面で首からぶら下げている、がま口財布。これは麻織物の生活雑貨を製造・販売する「中川政七商店」(奈良市)が昨年の秋・冬商品として販売したもの。同社の社員がフェイスブックに書き込んだところ大反響となり、5~7月の売れ行きは2~4月の約10倍にもなった。

 音楽業界も「アマノミクス」効果を享受している。劇中歌など15曲を収録したサントラCD「あまちゃん 歌のアルバム」は、朝ドラ史上初めてアルバムランキング1位となった。劇中では80年代の楽曲の数々が流れる。この影響で、劇中で流れなかった当時のヒット曲にまで注目が集まり、CDの売れ行きが伸びているという。

 これほどのブームはなぜ起きたのか。『AKB48の経済学』(朝日新聞出版)の著者で上武大学の田中秀臣教授(日本経済思想史)は、こう語る。

「ブームを牽引しているのは、30代後半から50代の人たちです。彼らは学校や会社などの場において、テレビの話題でコミュニケーション力を養ってきた。テレビを通して社会に接触していた最後の世代なのです。朝ドラの文化にも慣れていて、なおかつ80年代のアイドルブームも知っている。しかも社会の中核を担い、経済的にも影響力を持っている年代。この世代をがっちりつかんだのが勝因ですね」

 最後に、田中教授にトータルの経済波及効果をはじき出してもらった。

「同じくNHKで放送された韓国ドラマの『冬のソナタ』が約2千億円の経済波及効果があったと言われています。『あまちゃん』にも『冬ソナ』に匹敵するインパクトがあってもおかしくないと見ています」

 じぇじぇじぇじぇじぇ!

週刊朝日  2013年10月4日号