古くから親しまれている甘酒。料理研究家の柳谷晃子氏は甘酒について次のように説明する。

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 日本の伝統的な甘味飲料である甘酒は、冬のイメージがありますが、実は夏の飲みものです。

 甘酒は「飲む点滴」と呼ばれます。その理由は甘酒の20%はブドウ糖でできていて、飲むとすぐに元気が出るからです。他にも必須アミノ酸やビタミンB類、酵素が豊富です。栄養満点の甘酒ですが「嫌い」という声をよく聞きます。その理由は、酒粕で作ったものを甘酒と勘違いしているからのようです。本当の甘酒を飲んでもらうと、おいしいとだれもが驚きます。

 甘酒の材料は、米と麹と水だけ。蒸した米と麹菌と適度な水分を合わせ、55~60度で一晩置くとできあがりです。昔はこたつに入れて作りましたが、炊飯器でも簡単に作れます。アルコール発酵する前のソフトドリンクなので、消化・吸収がよく、年齢に関係なく、どなたにも飲んでいただけます。

 江戸時代の庶民の暮らしや風俗を記した『守貞漫稿(もりさだまんこう)』には、「江戸京坂では夏になると市中に甘酒売りが多く出てきて、甘酒を売っている」と書かれています。農学博士の小泉武夫さんは、「江戸時代の平均寿命は46歳で、夏に亡くなる人が断然多かった。質素な食生活では夏の暑さで体調を崩してしまうため、高齢者や病人などに甘酒を勧める習慣が生まれたのだろう」とおっしゃっています。

 2011年の年末に夫婦で本県の断食道場に行ってみました。3泊4日の断食明け最初に出された回復食は甘酒でした。空っぽになった胃に心地よく浸みわたり、とてもおいしく感じられました。公立菊池養生園の竹熊宜孝さんに「一度ゼロになった体に入れるエネルギーには、甘酒がもっとも適している」と聞きました。とはいえ、お肉が好きな夫には苦行だったらしく、終了後の気持ちを書き留める色紙に「腹八分」と書いていましたよ。日ごろから気をつけるので、断食はご免こうむるということです。

 私は季節を問わず甘酒をいただきます。体の調子が悪いとき、食べ過ぎが続いたときに、おかゆ代わりにしています。おろし生姜を入れるのがお気に入りです。

 フルーツをたっぷり入れて冷やした甘酒フルーツポンチは、我が家に遊びに来る子どもたちに大人気です。キウイやパイナップル、ブドウ、柿など、ほとんどの果物が合います。知人のアメリカ人一家は甘酒が大好きで、スイカと一緒に食べているそうです。

 甘酒の利用方法には即席のべったら漬けや、水で溶いて生姜の千切りをからめたドレッシング、砂糖代わりなどが挙げられます。

週刊朝日 2013年8月9日号