カビの中には海外に限られた地域に生息して感染症を招くものがある。それが旅先で感染し、帰国後に発症する「輸入真菌症」で、健康な人も感染する。

 とりわけ注意すべきカビは「コクシジオイデス」だ。米国カリフォルニア州やアリゾナ州、ネバダ州、ユタ州のほか、メキシコ西部、アルゼンチンやベネズエラの一部に生息する。乾燥した土地を好み、強風などで空中に舞った胞子を吸い込むことで肺に感染する。

 順天堂大学総合心療科(感染症・細菌学)先任准教授の菊池賢医師は、「きわめて感染力が強い危険なカビで、元気な若者がごく少量の菌を吸い込んでも感染する危険がある。肺から全身に回った場合は死亡率が非常に高いのです」と話す。

 米国疾病対策センター(CDC)はバイオテロに使用されうる危険な病原微生物としてリストアップし、日本の感染症法も、移動を厳しく制限する最も危険な真菌に分類する。

「感染しやすさや感染した場合の危険性が、人種によって違う。白人は耐性があるので風邪程度で済むことが多いが、黒人はかかりやすくて感染すれば重症化し、死亡率も格段に高い。黄色人種はその中間です」(菊池氏)

 ちなみに日本人感染者は年々増加傾向にあり、今年6月1日までの5カ月間で4人が報告された。「流行地域には、グランドキャニオンなどの世界的観光地も多い。渡航後1カ月以内に咳や発熱、胸の痛みなどが出た場合は正確な診断に基づく治療が大事ですが、多くの医師が輸入真菌症の知識がない。感染症の専門医を受診し、必ず渡航歴を告げてください」(菊池氏)。

 もうひとつ、怖いのが「ヒストプラズマ症」だ。米国中央部のミシシッピ渓谷からオハイオ渓谷にわたるミシシッピ川流域の風土病で、現地では毎年50万人が感染する。

 ヒストプラズマは土の中にいるカビだが、コウモリや一部の鳥の糞の中に多く、コウモリの生息する洞窟の探検や撮影に出かけたメンバーが集団感染したケースも。インフルエンザのような症状から始まり、全身に回ると死亡率は一気に高まる。日本でも渡航歴がない人に発症したケースがあり、今後、国内での感染者増加が心配されている。

週刊朝日  2013年7月12日号