芸能にも造詣が深い心理学者の小倉千加子氏は、お笑いコンビ「オセロ」の一連の事件を通して「男性は黒が嫌い、白が好きの時代」になってきたという。

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 女性にとって身体とは何だろうか?

 京都の実家に戻っていた中島知子が靴も履かずに家を飛び出し、ヒッチハイクで西に向かおうとする姿を目撃されたという記事を先々週「女性セブン」で読んだ(「女性セブン」は女性週刊誌のみならず週刊誌全般の中でも有数の硬派である)。

 霊能者Iさんの住む大分を目指していたのではないかと書かれている。それから新幹線で東京に連れていかれた中島知子はそのまま病院に収容された。激しくIさんに会いに行こうとするのでベッドに拘束状態にされたという。

 家から突然森の中に走り出したのは画家の佐伯祐三もそうである。仲間たちといる緊張に堪えられなくなったのである。そこにはある事件が隠されていて死後明らかになっている。

 しかし中島知子について確実にわかるのは、病院で過ごした夜はさぞかし苦しかったろうということだけである。

 松竹芸能を解雇された中島知子は2年前から休養中だった。さらにその2年前には「激太り」になっている。本人は「激太り」の原因を「ただの食べ過ぎです」と語っていたが、身体のサイズが急に大きくなったり小さくなったりすると、女性の場合は人間関係の問題(たいてい失恋か女友だちへの妬み)で説明される。幼児期の母親との葛藤というのもある。

 いずれにしても、女性は激太りしたり、激痩せしたり、唐辛子を大量にかけて物を食べたりすると、「恋人がいない」「女友だちに裏切られた」「ずっと母親に虐待されていた」のいずれかと見なされるのである。

 実際のところ、何が原因なのかは本人にはわからないというのが正解ではないかと思うが、中島知子は「仕事上のこと」と言っていた。「オセロ」の時から、中島知子(黒)と松嶋尚美(白)とは単独での仕事の量に差があった。松嶋の方があちこちの番組に出るようになったのである。

 松嶋が笑福亭鶴瓶とトークをするのを聞いていると確かに面白いのである。馬鹿馬鹿しい面白さというか、まず自分の無知による行為を松嶋は「こんなことしてしもてんで~」と話した後で、こう言うのである。

「な、わかるやろ?」

 松嶋の笑いは自虐の笑いではなく二重肯定で取る笑いである。誰よりも松嶋的な存在に喜びを感じていたのは聴衆の女性たちではなく鶴瓶であった。

 男性には松嶋的は「白」のイメージとしてある。笑われるようなことをした自分とそれを笑う自分という分裂がない。「自分は間違っている」と、自分を批判する自分がない。要は自己意識が少ないのである。だから松嶋は他人も批判しない。

 中島知子が実際に「黒」の人だったとは思わない。が、「黒」のイメージが先行していて、そのことで男性は安心できないというか敬遠するだろうとは思う。

 笑いを生みだす能力はあっても、中島は松嶋と違って男性を「受容」してくれなさそうなので、「受容」されることも少ない。仕事の上でも私生活でも。中島知子はそのことだけでも、自分の居場所(というか基地)をまず見つけなければ安心できなかっただろう。

「男性は女性に関しては黒が嫌いで白が好き」という傾向はますます強まってきている。「白」は「客体の色」であり、主体(男性)の欲望に喜んで自分を捧げる者の色である。

 男性のエロス仕様に完全に自分の身体を作りあげた「異様なまでに白い」人、壇蜜の時代である。壇蜜の壇は仏壇の壇、蜜は仏様へのお供え物の意味である。仏教に基づいて自らつけた芸名である。

週刊朝日 2013年5月3・10日号