あのマドンナに実力を認められ、バックダンサーに抜擢された日本人ダンサーがいる。TAKAHIRO(30)。2004年、英語もしゃべれないまま23歳で単身渡米すると、ニューヨークのハーレムにあるヒップホップの殿堂「アポロシアター」のアマチュアコンテストに挑み、いきなりダンス部門年間1位に。06年には同シアターのプロ部門で前人未到の9連覇を達成した。だが、彼がダンスを始めたのは大学に入ってからだったという。
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 僕のダンスはすべて独学なので、いわゆる「主流」からは外れています。カレーライスに例えると、ルーでもライスでもなく、福神漬けですかね(笑い)。でも、ダンスって、何もないところから何かを生み出すものだから、発想は自由でいい。「これだ!」と思ったら、アニメの曲だってゲームの曲だって使いますよ。観客の想像力を超えて、「驚き」を生むことがやりがいですから、型にはまる必要なんてありません。
 ただ、僕の独学ダンスは、国内ではいくらがんばってもコンテストの「特別賞」しかもらえません。日本で結果が見えているのなら、アポロシアターに挑んで、これまでの4年間を見てもらおうと、大学を卒業するときに思ったんです。たとえ門前払いでも、すがすがしい。きっと僕がおじいちゃんになったときに、孫にこの「冒険」を胸を張って語れるだろうってね。
 実際に現地に行くと、アポロシアターのオーディション受付の列に並んでいるのは、みんな黒人で、「あんた何しにきたの」って女の子にバカにされました。事実、僕の独学ダンスはヒップホップと呼べるものではなく、演技後、審査員たちに「なめてんのか」としかられました(笑い)。たった1人、女性の審査員が、「動きがおもしろい」と言って次へのアドバイスをくれた。その"奇跡"が起きなかったら、ぼくのダンス人生はおしまいだったんです。

※週刊朝日

 2012年4月20日号