NTTドコモの「iモード」サービスを立ち上げ、現在はドワンゴなどの取締役を兼任する夏野剛・慶応大学特別招聘教授。作家・林真理子さんとの対談で、今のままの会社組織では「日本の携帯メーカーやPCメーカーは全滅する」と語った。

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夏野:ドコモに入ったのが1997年なんですけど、そのときに書いた構想ペーパーに「おサイフケータイ」があります。ビル・ゲイツさんが95年に『THE ROAD AHEAD』という本を書いたんですけど、そこに「将来、パソコンはもっともっと小さくなって、いろいろな機能が入って、ウォレットPCになるだろう」と書いてあるんです。それを読んで、「おっ、もしかしたらビル・ゲイツさんに勝てるかもしれない。俺はこれをやろう!」と思ったんです。で、勝ちました。

林:日本はちゃんと先取りしてたんですね。「日本のIT業界ガラパゴス化」とか言われていますけど。

夏野:そうですよ。「スマートフォンはiモードや日本のケータイを参考にしてつくった」ってグーグルの人もアップルの人も言いますから。

林:どうして日本は、そんなオイシイところを全部あちらにあげちゃったんですか。

夏野:先ほど言ったような、この10年で起こった三つの大きな革命のこと(注:1.飛行機の予約や株取引などがウェブ上でできるようになったこと、2.個人の情報収集能力が上がったこと、3.ソーシャル革命で個人が情報発信能力を持ったこと)を日本のリーダー層、経営者層が理解していないんです。あるいは頭でわかっていても、本気でわかっていない。ここが最大の問題なんです。もったいないです。

林:今のリーダー層って、年齢はいくつぐらいですか。

夏野:大企業の場合、60歳プラスマイナス5歳。個人の情報収集能力と情報発信能力がこんなに変わったのに、たとえば課長、部長、役員とかいう役職の階級は、15年前とまったく変わってないじゃないですか。新卒一括採用で30年間同じ釜の飯を食ってきた人たちだけで構成されている取締役会なんて、危ないと思いません? でも、危ないままなんですよ。昔は、上に行くほど情報を持って、社長がいちばん情報を持っていた。今は情報に差がないんです。にもかかわらず、その古い形の組織をまだ維持しようとしている。

林:それがアメリカに負けた原因ですか。今後はどうですか。

夏野:今年あたりが最後のチャンスでしょうね。ここで変われないと、10年後に日本の携帯メーカーは全滅します。PCメーカーもテレビメーカーも全滅します。だからどんどんいろんな種を入れていくことが必要で、生物学の世界でも、単一なものだけ食べてきた種は滅びやすいんです。いろんな人がいれば、何か病気がはやったって全滅しない。

※週刊朝日 2012年3月23日号