今シーズン、ここまで20勝26敗2分(6月17日時点)と苦しい戦いが続く巨人。その原因は打撃陣の大不振だ。セ・パ交流戦で巨人の負け越しが決まった6月14日、4番を務めたアレックス・ラミレス外野手は不振の打開策を問われ、
「ボールを替えれば大丈夫」
 と自嘲気味にぼやいた。

 20年来の巨人ファンという男性(40)もこう憤る。

「とにかく点が入らないから、展開が重くてつまらないんですよ。去年までなら『入ったー』というような当たりでも、フェンス手前で明らかに失速する。野球に詳しい"通"ならロースコアの投手戦も楽しめるんでしょうが、初心者には難しい。これじゃあ、新しいファンが増えない。ボールを元に戻せと言いたいね」

 今季導入されたミズノ製の「統一球」は、選手だけでなくファンからもブーイングを浴びせられている。このボールは、中心のコルク芯を覆うゴム材がより低反発の素材に変わり、表面の牛革もやや滑りやすい革質になった。縫い目の幅や高さも微妙に変わり、「従来よりも飛距離が約1メートル抑えられる」(ミズノ広報宣伝部)というものだった。

 しかし、実態は1メートルといった程度の違いではない。プロ野球史に残りそうな「超投高打低」現象が起きているのだ。

 6月17日時点の各球団の打撃成績を年144試合に換算して昨季と比較すると、本塁打数と打率が著しく落ちていることがわかる(下表)。特に顕著なのが、パ・リーグではオリックス、セ・リーグでは巨人と阪神だ。

 オリックスは打率を前年より3分6厘落とし、本塁打も146本から69本に激減する。巨人も本塁打は半数以下に。阪神は打率が4分6厘も下がるうえ、本塁打も100本近く減る。昨年、甲子園を沸かせた「ダイナマイト打線」は見る影もない。

 20年以上プロ野球を取材してきたスポーツジャーナリストの渡辺勘郎氏は統一球の効果をこう分析する。

「統一球はスライダーのような横の変化球がよく曲がる。ソフトバンクの杉内俊哉(防御率1・43)のように、そうした特性をうまく利用している一線級の投手が、ズバ抜けた成績を残しています。打撃技術が向上している中、防御率1点台の投手が両リーグで11人もおり、各投手の本来の技量以上のものが出ているように感じます」

 実際、リーグの平均防御率はパが2・72、セが3・25と、昨季より格段に良くなっている。特に日本ハム投手陣はここまでチーム防御率2・08。シーズン通してこの水準を維持すれば、1962年に阪神が残した2・03以来の"快挙"となる。50年前の野球にタイムスリップするわけだ。

 こうした超投高打低の原因は、統一球だけではない。昨季まで別々だったパとセの審判が統合された影響も大きい、というのが専門家の共通した見解だ。

「ストライクゾーンはもともとセのほうが広く、今回の統合でパのストライクゾーンもセに合わせて広くなったと言われています。ただでさえパのほうが力のある投手が多いのに、ストライクゾーンまで広がれば投高打低になるのは必然です」(スポーツ紙記者)

『プロ野球解説者の嘘』(新潮新書)などの著書のあるスポーツ・アナリストの小野俊哉氏は、今季の特徴として、4番打者が特に打てていないことを挙げた。

◆統一球を打ってファン呼びこめ◆

「長打力を求められる4番は統一球の影響をモロに受けてしまっています。西武の中村剛也や横浜の村田修一のように、例年並みかそれ以上の成績を残しそうな打者もいないわけではありませんが、いまや例外的な存在。広島は今季、新外国人トレーシーと栗原健太が4番を務めていますが、2人合わせた本塁打はたった2本です。チームの顔である4番打者が打てないと、ファンもガッカリしますよ」

 今季の観客動員数は1試合平均でパが2万3139人(昨季2万2762人)と微増、セが2万6782人(同2万8491人)と落ちている。球団経営に詳しい大坪正則・帝京大教授は「大健闘」と話す。
「セの観客動員の落ち込みは、東日本大震災による消費マインドの低下が大きな要因でしょう。サービス業全体が落ち込んでいるなか、この程度の減少で済んでいるのなら、むしろよく頑張っていると言えます」

 だからといってこのままでいいというわけではない。小野氏が言う。

「こんなに迫力がなくなってしまったら、いずれファンから見放されます。統一球を導入した結果、多くの主力打者のメッキがはがれました。ボールのせいにするのでなく、どうやって打てばいいのか、数年かけてでも取り組む覚悟を見せてほしいですね」

 そもそも統一球を導入したのは、WBCなどの国際大会で使われる国際球に近いボールに普段から慣れておこうという趣旨からだ。飛ばないからといって以前のボールに戻しては、元の木阿弥だ。

「国際試合で勝つためという本来の趣旨を考えれば、各チームがもっと足を積極的に使ったスピーディーな野球を目指すべきで、そこにこそ日本の野球のおもしろさがある。このボールを乗り越えてこそ、日本野球界の将来が開けるのではないでしょうか」(渡辺氏)

 統一球は野球の国際化の第一歩だ。このボールを使ってワクワクするような野球を早く見せてほしい。 (本誌・田中裕康)

■昨季と今季のチーム成績比較
 チーム     本塁打数    打率       防御率
ソフトバンク 134→104 .267→.266 3.89→2.19
日本ハム   91→ 99 .274→.257 3.52→2.08
オリックス  146→ 69 .271→.235 3.97→3.22
西武     150→119 .271→.241 4.19→2.88
ロッテ    126→ 67 .275→.247 4.10→2.79
楽天      95→ 68 .265→.233 3.98→3.15
パ・リーグ  742→526 .270→.246 3.94→2.72
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ヤクルト   124→107 .268→.252 3.85→3.44
中日     119→ 94 .259→.228 3.29→2.54
巨人     226→105 .266→.226 3.89→2.84
阪神     173→ 78 .290→.244 4.05→3.12
広島     104→ 42 .263→.243 4.80→3.70
横浜     117→ 96 .255→.242 4.88→3.79
セ・リーグ  863→522 .267→.239 4.13→3.25
※今季の本塁打数は6月17日までの数字を144試合換算にして算出。打率と防御率は昨季年間と17日現在との比較

■各チーム主力打者の昨季と今季の成績比較
選手(チーム)   本塁打数      打率       打点
カブレラ(ソ)    24→17 .331→.190  82→ 58
小谷野栄一(日) 16→ 6 .311→.256 109→ 45
T‐岡田(オ)    33→23 .284→.254  96→115
中村剛也(西)   25→44 .234→.230  57→100
金泰均(ロ)    21→ 3 .268→.250  92→ 43
山崎武司(楽)  28→21 .239→.278  93→ 71
畠山和洋(ヤ)  14→31 .300→.299  57→ 95
和田一浩(中)  37→13 .339→.239  93→ 50
ラミレス(巨)   49→36 .304→.281 129→ 90
新井貴浩(神)  19→15 .311→.295 112→ 72
トレーシー(広)  /→ 3    /→.235   /→ 57
村田修一(横)  26→25 .257→.293  88→ 82
※今季最も4番打者としての打数の多い選手を主力打者とした。今季の本塁打数と打点は

6月17日までの数字を144試合換算にして算出。打率は昨季年間と17日現在との比較


週刊朝日