描きたいのは人と人との関係性なので、そこにそんなにダイナミックな物語が必要だと思っていないんですね。連続ドラマなので来週も見てもらうための工夫はするんですが、一番大切なのはキャラクターを愛してもらうことだからそこに注力したい、という思いがありました。

 加えて、最初からストーリーが分かっていても楽しく見られる、と証明したかった思いもあります。例えばこの前坂元さんが書かれた映画の『花束みたいな恋をした』も、冒頭の別れのシーンからスタートし、過去にさかのぼって別れにたどり着くまでの物語なんです。結末が分かっていてもちゃんと一緒にハラハラドキドキして、感情移入しながら見ていけるところが物語や映像作品の持つ面白さだと思っているんですよね。毎話冒頭にとわ子の一週間のダイジェストを入れることは初稿でいきなり書かれていたんですが、坂元さんの意図は分かるし、なるほどと思いました。

──ご自身の気に入っている場面や台詞についてお聞かせください

 坂元さんのいわゆる名言はもちろん素晴らしいなあと思っています。一番ストレートにグッときたのは、オダギリ(ジョー)さん演じる小鳥遊大史(たかなし・ひろし)さんが、「時間は線ではなくて、同時に存在していて、今だって死んだ人に会える、亡くなった人を不幸だと思ってはならない、生きている人は幸せを目指さなければならない」と語るところですね。いろいろなことを許してもらえた気持ちになりました。

 一方で、私は坂元さんの書かれるもので、例えば「お茶博士」とか、そんなに注目されないちょっとした小ネタも好きですし、その両面を持っているところが坂元さんの書かれるものの素敵なところだなと思っています。坂元さんは名言製造機みたいに言われがちですが、本人が苦心しているのはどちらかというと「お茶博士」みたいなところだと思います。

 それ以外ですごくうまくいったなと思うのは、9話ラストの、こうあったかもしれない田中八作と大豆田とわ子の未来のシーンです。ずっとそういうことをやってみたかったっていうのもありますし、すごく素敵なシーンになったなあと思っています。

佐野亜裕美(さの・あゆみ)さん
2006年東京大学教養学部卒。TBSに入社後『99.9-刑事専門弁護士-』『カルテット』『この世界の片隅に』などのプロデューサーを務める。21年カンテレへ移籍し『大豆田とわ子と三人の元夫』を担当。

(文/東京大学新聞社・鈴木茉衣)