80年代アイドル カルチャー ガイド (洋泉社MOOK) 監修・馬飼野元宏
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80年代アイドル カルチャー ガイド (洋泉社MOOK) 監修・馬飼野元宏
昭和歌謡ポップスアルバムガイド 1959-1979(シンコーミュージックエンターテイメント)  監修・馬飼野元宏
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昭和歌謡ポップスアルバムガイド 1959-1979(シンコーミュージックエンターテイメント)  監修・馬飼野元宏
日本の男性シンガー・ソングライター(シンコーミュージックエンターテイメント) 監修・編集/馬飼野元宏
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日本の男性シンガー・ソングライター(シンコーミュージックエンターテイメント) 監修・編集/馬飼野元宏
東京女子流「5つ数えれば君の夢」(DVD)
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東京女子流「5つ数えれば君の夢」(DVD)
斉藤由貴「卒業」(シングル)
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薬師丸ひろ子「セーラー服と機関銃」(シングル)
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吉永小百合「リサイタル」(アルバム)
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安田成美「安田成美」(アルバム)
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浅田美代子「ゴールデンベスト」(アルバム)
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大場久美子「スーパーベスト」(アルバム)
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松田聖子「裸足の季節」(シングル)
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清竜人25「PROPOSE」(アルバム)
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<その4 「うまけりゃいい」ってものではない。「かわいい」とか「好きだ」と思えたら、それでいいんですよ>

 音楽評論家・歌謡曲研究家である馬飼野元宏さん&真鍋新一さんと、わたくし原田による3世代アイドル・ファンの座談会も、いよいよ今回が完結編。碩学なふたりが、今度はどんな方向に話を拡げてくれるのか。ぜひとも、わくわくしながら読み進めていただければ幸いだ。

■映画の開始5分で、東京女子流の顔と名前を覚えた

―― 現役の女性タレントで、真鍋さんがとくに注目しているのは?

真鍋 この機会にぜひ言っておきたいんですけど、東京女子流の映画「5つ数えれば君の夢」(2014年3月公開)がすごく良かったんですよ。「グループ名しか知らず、曲も聴かずに観るのはちょっと申し訳ないな……」と思いながら観たんですけど、これがとんでもない大傑作で。映画を観始めてたった5分でメンバー全員の顔と名前を覚えてしまった。それって、ビートルズの時代から続くアイドル映画の伝統でありセオリーですよね。監督はインディーズ出身の若手監督(山戸結希さん)ですけど、インディーズ独特の尖った雰囲気を持ちながら、各メンバーの個性を際立たせるオーソドックスなアイドル映画としてもきちんと成立している。最近、アイドル映画がインフレの状況が続いているでしょう。井口昇監督が撮っているノーメイクスの「キネマ純情」(16年3月公開)とか、ゆるめるモ!の「女の子よ死体と踊れ」(15年10月公開、朝倉加葉子監督)とか。「ファンが観てくれればいいや」というのではなく、映画としてきちんとしたものにしようという仕掛ける側の意気込みを感じさせるものが素晴らしいですね。そのなかでも「5つ数えれば君の夢」は飛びぬけて素晴らしかった。女子流、今は4人になっちゃいましたけどね(小西彩乃が15年末に脱退)。少し残念です。

馬飼野 女子流の映画で思ったことは、「ここまでやるなら、別にアイドルであることを打ち出さなくてもいいんじゃないか」ということです。

真鍋 確かに仕掛ける側が狙っている層が多様化しすぎて「すごいと思うけど、誰に受けたくて作っているのだろう?」と思うことはありますけどね……。

馬飼野 でもアイドルっていうことで多くの人に見てもらえることがあるんだろうな、と思います。今はいろんなジャンルに、アイドルが必要とされる時代なんだと思う。昔はアイドル・ポップスと呼べるものがあったけど、今は「アイドルがやるR&B」、「アイドルがやる渋谷系」、「アイドルがやるロック」とか、そういう作りになってるのかなという認識です。

真鍋 「アイドルがやる演歌」も。去年の末のレコ大(「輝く!日本レコード大賞」)で初めて見たこぶしファクトリーのパフォーマンス、僕は感動しましたよ。グラドル方面では、篠崎愛や吉木りさも歌が上手くていいですね。

馬飼野 もっとピン(=ソロ)の人を見たいというのはありますね。ピンがたくさん出てきたら、アイドル界はもっと面白くなるんじゃないかな。

―― 現役の女性タレントで、馬飼野さんがとくに注目しているのは?

馬飼野 タレントというか女優さんですが、橋本愛がすごく好きなんですよ。デビュー当時から取材しているんですけど、だんだん品格みたいなのが出てきて、落ち着かれて、女優として楽しみだなと思いますね。熱愛報道があっても、仕事も途切れてないし、上品なひととして存在しているというか……妙に大女優感というか風格まで出てきた。斉藤由貴もそんなところがありますよね。いまも普通に作品に出て、品格を保っている。それが大女優の証ですよ。斉藤さんにはとっても東宝的な、清純派的な雰囲気がある。ご自身は「そうじゃない」と否定してましたけど。

―― 斉藤さんの歌を初めて聴いたときは、ほかのアイドルと違う唱法だと思いました。讃美歌を歌うような感じで、クリスチャンであるということも関係あるのかなとも思うのですが……

馬飼野 あれは薬師丸ひろ子とか吉永小百合とか、清純派女優の伝統的な歌い方だと思います。そういえば薬師丸の《セーラー服と機関銃》が出たときに平岡正明先生が言ってましたよ、「お薬師様の聖歌合唱隊みたいだ」って。

―― 「山口百恵は菩薩である」の平岡さんですね。斉藤さんは今も機会をみて、歌い続けています。

真鍋 松本隆さんの45周年記念コンサート「風街レジェンド2015」(15年8月開催)での歌も素晴らしかったです。

馬飼野 《卒業》を歌ったんですが、とても高貴な感じがしましたね。

―― 安田成美さんも出演されたとききました。

馬飼野 あのシーンはすごく盛り上がりましたね。

真鍋 興奮しましたよ。コンサート全体の演出として、まず最初にスクリーンに歌詞の一部が出てきて、その後にシングル盤のジャケットが出るとともに演奏が始まるんです。だから歌詞が映った瞬間、次に誰が出てくるのか、会場が一瞬クイズ大会のようになる。

馬飼野 お客さんがどよめいて、会場に緊張感が走った。「本当に歌うの?」、みたいな。出てきた瞬間、大拍手だったんだけど。

真鍋 すぐ静かになって聴き入って、1番が終わって大拍手。

馬飼野 1番と2番の間で拍手が起きたのは、たしか安田さんが最初です。

―― 夢ですよね、あのヴォーカルがライヴで聴けるなんて。

馬飼野 うまいへたを超えた個性ですよ。浅田美代子にしろ大場久美子にしろ……。

―― 3人とも僕の大好きなシンガーで、今も復刻盤をよく聴きます。

馬飼野 うまけりゃいいってもんじゃないから。

真鍋 「かわいい」とか「好きだ」と思えたらそれでいいんですよ。

■今のアイドルは、テレビを通さなくて全然OKになったのかも

―― 70~80年代のゴールデンタイムに流れていた歌番組やバラエティ番組ではアイドルが必需品だったと思います。TVコマーシャルもアイドルだらけだった。だけど今、アイドルの出る地上波の番組はほとんど深夜に放送されている。これはちょっと寂しいなとも思うんです。リリイベや公開放送に足を運べない地域の、明日、学校のある、早起きしなければならない少年たちに、もっと“擬似恋愛”してほしいと思います。

馬飼野 アイドルってテレビと緊密な世界でしたよね。70~80年代はライヴよりもテレビ出演中心の時代で、ファンも振り付けをテレビで見て覚えた。あとはコマーシャルで、その名前を知るとかね。(松田)聖子ちゃんの名前も、デビュー曲の《裸足の季節》が使われたTVコマーシャルで知った。そのコマーシャルに出てる人はモデルさんで別人なんだけど、みんな最初はその人が松田聖子なんだと勘違いしていた(笑)。でも今はインターネットで振りを覚えて、ライヴに行くパターンでしょうね。テレビを通さなくても全然OKになったともいえます。

―― このあたりで、今後の新刊プロジェクトについて教えていただけますか?

馬飼野 制作中のものが2冊ありまして、ちょっとまだ発表できないんですが。映画の本も年内に数冊編集します。

―― 「ディスク・コレクション 日本の男性シンガー・ソングライター」も面白かったです。今をときめく星野源や清竜人もしっかり掲載されている。

馬飼野 2年前に出した本ですね。当時の最新のところまでしっかり入れたかった。僕の大好きな清水翔太とか。

真鍋 清竜人は今、アイドルと一夫多妻制ユニットをやってますよね(清竜人25)。すごいことを考えるなあ……。

馬飼野 この本は、すでに「日本の女性シンガー・ソングライター」が出ていて、その男性版を作りませんかという依頼から始まっています。僕も世代的に山下達郎、浜田省吾、佐野元春、尾崎豊のライヴは見ていますし……。

真鍋 「男性シンガー・ソングライターとは何か」という定義を決めるのは大変でしたけど、ユニークな1冊になっていると思います。

―― おふたりの、今後のますますのご活躍を楽しみにしております。これからも「歌謡曲の魅力」を伝導してください! [次回5/23(月)更新予定]