ぼくがいま、死について思うこと
好奇心の赴くまま辺境の地へ出かけては馬で駆け、カヌーや筏に乗り、車を走らせ、夜になれば、仲間たちと焚き火を囲んで酒を飲む。そんな生活を長年送りながら大量の連載原稿を書き、写真を撮り、映画を作ってきた作家、椎名誠が自分の死について考えた一冊。 きっかけは、67歳で受けた人間ドック後に主治医が発した、「あなたは自分の死について真剣に考えたことはこれまで一度もないでしょう」という問いかけだった。小馬鹿にされていると感じながらも、そのとおりだったからしょうがない。椎名はまず家族や友人の死の記憶をたどり、日本の墓石や納骨方法の特殊性にふれ、それから世界各地の葬儀や墓に関する知見をくわしく紹介する。 チベットの鳥葬、モンゴルの風葬、ラオス山岳民族のジャングル葬、ネパールとインドの水葬などは、椎名自身が現場に足を運んでいるだけに、その実態がよくわかる。他にも、アメリカの実状やイスラム教の事例を調べたり、イギリス、フランス、韓国、沖縄、さらにはゾロアスター教の戒律と日本の習俗の類似点などにも言及。いわば「椎名誠による死生観の比較文化論」的な内容が、終盤まで展開する。 椎名がようやく「自分の死」についての考えを書くのは、この後だ。身辺に起きた変化をまじえて思いを綴るのだが、その思索の核心は、〈友よさらば──少し長いあとがき〉にまとまっている。20歳のときに自死した親友への忸怩(じくじ)たる思いを吐露し、いじめによる子どもの死について、自身の苦い体験も添えながら〈死ぬしかない、と思いつめないでほしい〉と訴える。尊厳死にもふれて深く共感の意を表明、いざとなったら自分も選択したいと本書を通じて家族に伝えていた。 ところで、椎名は今も毎日、ヒンズースクワット300回、腹筋200回、腕立て伏せ100回、背筋20回をこなすらしい。現時点で、死からもっとも遠い69歳である。
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