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「原発事故報告書」の真実とウソ
だれがどう考えたって「事故報告書」なんていう代物が、おもしろいわけはないのである。しかし、おもしろくないからこそ、だれかが精読しなくちゃいけないわけで、「そのうちワシが……」という野望がないわけでもなかった。でも、塩谷喜雄『「原発事故報告書」の真実とウソ』という報告書の報告書を見てわかった。私には無理でした。 著者は冒頭で慨嘆(がいたん)する。〈出そろった4つの事故調の報告書を前にして、私の内心に噴き出してきたのは、素朴な疑問と大きな怒りだった。「なんで事故調が4つもあるんだよ」〉 ですよね。いや、多様な視点を導入するという点からいえば事故調の3つや4つあってもいい。が、ほとんど同じ証言とデータを解析しながら中身にばらつきがあることをどうしてくれる。その面倒くさい判定を本書は見事にやってのけた。誤解を恐れずにいえば「おもしろい」のだ。 観点は主として3つ。まず事故の原因は地震だったのか津波だったのか。炉心溶融に至るまでの現場の対応は適切だったのか。そして官邸の対応は適正だったのか否か。 結論だけをいうと、地震と津波問題では、津波到達時刻を厳しく検証し「津波ではなく地震が全電源喪失の原因だ」と結論した国会事故調(黒川清委員長)の圧勝。現場の対応に関しては、批判を浴びた官邸の動きに一定の評価を与えた民間事故調(北澤宏一委員長)の勝ち。 総合点は5ツ星満点で、事実の検証には圧倒的な力を見せるも「今度の事故は人災だ」という言葉でウケねらいに走った国会事故調が3ツ星半。人の動きは精査するも事実の検証は甘い民間事故調が3ツ星。無難にまとめた(だけの?)政府事故調(畑村洋太郎委員長)は3ツ星。そして保身に徹した東電事故調(山崎雅男委員長)は論外の黒星1ツ。 慇懃(いんぎん)に書くだけが能ではない。批評はなべてかくありたい。全原発が再稼働した場合、重大事故を起こす確率は10年に1度だという恐ろしい指摘にもゾッとしていただきたい。


