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『ピラミッド3/ピラミッド』
『ピラミッド3/ピラミッド』
ピラミッド3/ピラミッド 5年の歳月を経て再始動「70年代ジャズ・クロスオーヴァーへのオマージュ」 PYRAMID3 / PYRAMID  ファン待望の再始動だ。高校時代のバンド仲間だった3人が、鳥山の呼びかけにより2003年から活動。オーケーボーイズのバンド名をPYRAMIDに改称して、2005年にアルバム・デビューを果たしてから本格的なキャリアがスタートした。  ギタリストとして数多くのセッションに参加し、アレンジャー、プロデューサーとしてもJポップ、クラシカル・クロスオーヴァー、アニメーション等、幅広く活躍する1959年生まれの鳥山雄司。80~90年代にザ・スクエアに在籍し、アコースティック・ジャズにも情熱を燃やしてきた58年生まれの和泉宏隆。カシオペアのオリジナル・メンバーとしてバンドの屋台骨を支え、ドラムス1セットだけで行うワンマン・オーケストラという画期的なスタイルを開発し、世界中にその名を轟かせる59年生まれの神保彰。Jフュージョン界の歴史を作ってきたヴェテラン3人のスーパー・ユニットは、翌2006年には第2弾をリリースし、大きな話題を呼んだ。しかしその後は諸般の事情によって、事実上活動休止の状態が続く。そして5年の歳月を経て、ようやく登場したのが第3弾の本作というわけである。  今回のテーマは「70年代ジャズ・クロスオーヴァーへのオマージュ」。このコンセプトを体現する象徴的なトラックが#2だ。ジョージ・ガーシュウィンが書き、多くのジャズ・ミュージシャンがカヴァーしてきた名曲を取り上げるにあたり、PYRAMIDは73年のデオダート・ヴァージョンを参照。オーケストラが入ったデオダート版に比べるとかなり少ない5人の演奏は、少人数で最大の効果を発揮したコピー・ヴァージョン、ではなく、そこにクラシック曲のフュージョン化でのパイオニアとなったデオダートへの敬愛が感じられるのがいい。葉加瀬太郎のヴァイオリンをフィーチャーしたアイデアも、彼らの独自性の表現だ。  75年のハービー・ハンコック『マン・チャイルド』からの#7は、原曲に入っていたサックスがいない代わりにギターが主役となって大暴れ。アジムス79年の#5はNHK-FMの番組「クロスオーヴァー・イレヴン」のテーマ曲として広く知られており、多くの音楽ファンにとって青春時代が甦るナンバーを、原曲とは趣を変えてアコースティック主体の心地よいサウンドに仕上げた。3人はほぼ等分に自作曲を提供。すべてがカヴァー曲に劣らぬ出来ばえで、それが作品のクオリティを高めている。  現在50代初めの3人が作り上げた本作は、特に同世代のフュージョン好きなら共感すること間違いない。 【収録曲一覧】 1. Whenever You Want 2. Rhapsody In Blue 3. Nuuanu No Kaze 4. Love Infinite 5. Fly Over The Horizon 6. Ticket To Ride 7. Hang Up Your Hang Up 8. Scaly Foot 9. Night Stream 10. Time Line 11. Ray Of Hope PYRAMID (allmusic.comへリンクします) 和泉宏隆:Hirotaka Izumi(p,key) 鳥山雄司:Yuji Toriyama(g) 神保彰:Akira Jimbo(ds) 2011年作品
2013/05/01 00:00
『コモン・グラウンド/ゲイリー・バートン』
『コモン・グラウンド/ゲイリー・バートン』
Common Ground 7月に来日公演を行うバートンのピアノレス・クァルテット Common Ground / The New Gary Burton Quartet  ゲイリー・バートンは両手に2本ずつ持つ4本マレット奏法を発展させたことで、ジャズ史にその名を刻むヴィブラフォン奏者だ。1971年にバークリー音楽院の教員に就任してからは、教育者としてもジャズ界に顕著な貢献を果たしている。  バートンは優れた才能の若者と日常的に接するアドヴァンテージを、自身の音楽活動に生かしてきた。小曽根真(p)やトミー・スミス(ts)の他、特にギタリストにその傾向が認められる。60年代のラリー・コリエルを振り出しに、70年代のミック・グッドリックとパット・メセニー、90年代のウォルフガング・ムースピールと、バートン・グループを去来したギタリストは実力者が占めており、バートンの確かな慧眼を再認識させられるのだ。  この最新作の原題を見ると、ファンならば誰もが思い出す作品がある。73年の『ニュー・クァルテット』(ECM)だ。グッドリックが参加した同作は、その後のバートンの活動における雛型となった原点と言っていい。以降バートンはメセニーとの再会作となる『クァルテット・ライヴ』等のピアノレスの4人編成によるアルバムを多数制作してきた。  近年は企画色の濃い作品に関わって来たバートンが、わざわざ“ニュー・クァルテット”とクレジットした新作をリリースした心意気が見逃せない。編成はお察しのように、ギター入りのピアノレス・クァルテット。キー・メンバーになるのがギタリストのジュリアン・レイジだ。バートンが出会った時のジュリアン(1988年生まれ)はまだ12歳の少年だったが、早くもライヴ・バンドのメンバーに起用。2004年の『ジェネレーションズ』、2005年の『ネクスト・ジェネレーション』と、バートンのリーダー作に連続参加し、未成年が実力者ぶりを印象づけたのだった。スコット・コリーはニューヨーカーの中では今最も引っ張りだこのベーシストで、ドラムスのアントニオ・サンチェスはパット・メセニー・グループに在籍しながら様々なバンドで活動する多忙な男だ。  今作の特色はメンバー全員が作曲家としても貢献していること。大きなビート感の中で各人が存在感を発揮する#2、ヴィブラフォンとギターのユニゾン・テーマが躍動する#3、スロー・テンポにバートンらしさが滲む#4、師と自身の美点を生かすレイジの書法が見逃せない#5、ファンキー&スウィンギーな曲調が興奮を呼ぶ#7と、オリジナル中心の選曲に、このタイミングで新四重奏団をお披露目したバートンの自信がうかがえる。ラストの#10は40年前のキース・ジャレットとのダブル・リーダー作収録曲の再演。結局バートンはキースではなくチック・コリアを長年のパートナーに選んだ事実を重ねると、この曲は味わい深い。バートン4はベーシストを替えた編成で7月下旬に来日公演を行う。 【収録曲一覧】 1. Late Night Sunrise 2. Never The Same Way 3. Common Ground 4. Was It So Long Ago? 5. EtudeLast Snow 6. Did You Get It? 7. My Funny Valentine 8. Banksy 9. In Your Quiet Place ゲイリー・バートン:Gary Burton(vib) (allmusic.comへリンクします) ジュリアン・レイジ:Julian Lage(g) スコット・コリー:Scott Colley(b) アントニオ・サンチェス:Antonio Sanchez(ds)
2013/05/01 00:00
『セレスチャル・サークル/マリリン・マズール』
『セレスチャル・サークル/マリリン・マズール』
Celestial Circle 新鮮なライヴ情報と共に本作の魅力を伝えたい Celestial Circle / Marilyn Mazur  7月6日から9日に開催されたノルウェーの《コングスベルク・ジャズ・フェスティヴァル》を取材してきた。2003年以来8年ぶり、2度目の再訪は、前回建設中だった教会前の広場に2つの野外ステージが設置され、子供からお年寄りまで楽しめるフリー・コンサートが提供されるなど、規模が拡大していた。  徒歩圏内にある14ヵ所の会場でプログラムが最も充実していたのが、丘の上のコングスベルク教会。ジョシュア・レッドマン&ブラッド・メルドー、チャールス・ロイド4tet、そしてマリリン・マズール“セレスチャル・サークル”を堪能した。マズールはグループ名と同名のECMデビュー作をリリース直後、というタイミングでの出演。4日間のフェスティヴァルの最期を飾る、深夜0:00からのステージだった。  マズールはドラムセットと数多くの金属打楽器や壺を駆使し、ヴォイスも加える。英語詞のヴォーカルでは具体的に楽曲の世界を描写し、ヴォイスでは4番目の楽器として機能したヨセフィン・クロンホルム。美声はジャズ・クラブやコンサートホールとは異なる教会ならではのアンビエンス(空間の雰囲気と音響)を得て、魅力的に広がった。教会の効果と言えば、ジョン・テイラーのピアノの美しさも特筆もの。まるでオスロのレインボー・スタジオで聴いていると錯覚するほど、ECMライクなサウンドに感動を覚えたのである。終盤に進み、バンドの躍動的な演奏がグルーヴを生んだ場面が、当夜のハイライトになった。  本作は同じメンバーが7ヶ月前にオスロで吹き込んだもの。ちなみにオスロとコングスベルクは電車で1時間という距離だ。NYで生まれ、幼少からデンマークを拠点にしてきたマズール、ECMとの関係が長く深い英国人のテイラー、スウェーデンの代表的ベーシストであるアンデレス・ヨルミン、スウェーデン出身でデンマーク在住のクロンホルムと、北欧コネクションが成立背景にある。  教会ライヴでは最後に演奏した#1を皮切りに、即興性の強い#4、10や、器楽的歌唱とインストが溶け合う#3、8、12など、全体的には静かな雰囲気が支配する内容。ライヴを観てわかったのだが、アルコ・ベースで始まり、マズールが木箱に見える楽器をマレットで叩くとマリンバのような音が出る#9は、マズールの作詞・作曲としても興味深い1曲だ。来日の可能性が低いユニットだけに、新鮮なライヴ情報と共に本作の魅力を伝えられればと思う。 【収録曲一覧】 1. Your Eyes 2. Winterspell 3. Kildevaeld 4. Gentle Quest 5. Secret Crystals 6. Temple Chorus 7. Antilope Arabesque 8. Chosen Darkness 9. Among The Trees 10. Color Sprinkle 11. Tour Song 12. Drumrite 13. Oceanique 14. Transcending マリリン・マズール:Marilyn Mazur(ds,per,vo) (allmusic.comへリンクします) ジョン・テイラー:John Taylor(p) アンデルス・ヨルミン:Anders Jormin(b) ヨセフィン・クロンホルム:Josefine Cronholm(vo) 2010年12月オスロ録音
2013/04/30 00:00
『アデランテ/ジョヴァンニ・ミラバッシ』
『アデランテ/ジョヴァンニ・ミラバッシ』
アデランテ/ジョヴァンニ・ミラバッシ ヨーロッパで最も著名な1970年生まれのピアニストは? Adelante / Giovanni Mirabassi  世界で最も著名な1970年生まれのピアニストは・・・ブラッド・メルドーである。ではヨーロッパではどうか。イタリア、ペルージャ出身のジョヴァンニ・ミラバッシが、ふさわしい実績を残している代表格と言えよう。  ミラバッシはアルバム・デビューから現在に至るまで、日本のレコード会社と深い縁を築いてきた。この点では非常に安定した道を歩んできた幸運の持ち主だ。99年のデビュー作『Architectures』を皮切りに、澤野工房が映像作品を含めて2010年までに、実に14タイトルをリリース。この事実だけをとっても、いかに澤野が力を入れていたかが明らかである。ミラバッシは日本でのヨーロッパ・ジャズを定着した澤野のラインアップで、最大級の貢献をしたアーティストだ。  2008年は節目の年だった。ミラバッシの拠点がビデオアーツ・ミュージックへと移動。トリオ作『新世紀』でステージ・アップすると、2010年4月には世界で最高というほどお気に入りのブルーノート東京にトリオで出演。そのステージは同年12月に『ライヴ・アット・ブルーノート東京』としてアルバム化された。  同作から1年が経たないタイミングで登場する本作は、原点回帰と言うべき内容だ。ミラバッシの出世作となった2001年リリース作『Avanti』の続編と位置付けるのがふさわしいピアノ独奏作。10年間のインターバルをはさんだことも、ファンには感慨深い。両作に共通するのは、反戦曲集というアルバム・コンセプトである。アーティストとしてのキャリア・アップの過程で、原点を強調せずに活動を重ねてきたミラバッシが、このタイミングで敢えてシリアスなテーマに取り組んだことに注目したい。選曲との結びつきをイメージさせる写真を含むブックレットを収納した『Avanti』の重厚なプロダクションとは趣が異なるが、本作は各曲の選曲理由をミラバッシが語った解説付きなので、演奏内容をより深く理解できる手助けになるはずだ。  ミラバッシには各国の反戦歌を伝えたい気持ちがあった。しかしそのテーマをシリアスに徹するのではなく、予備知識のないリスナーにも受け入れやすい形でのプロダクトを企図した。その帰結は、リスナーに好きなメロディーを探すチャンスを与えるという楽しみ方を提案したのだと思う。ぼくはミリアム・マケバがモザンビーク独立戦争を戦う人民に捧げた#4の美旋律に魅了された。トリオの成功に安住せず、ハードルの高いテーマに挑んだミラバッシに拍手を送りたい。 【収録曲一覧】 1. L’Internationale 2. Hasta Siempre 3. The Partisan 4. A Luta Continua 5. Le Deserteur 6. La Estaca 7. Lili Marleen 8. La Carta 9. Gallo Rojo Gallo Negro 10. Assentamento 11. Libertango 12. Yo Me Quedo 13. Graine d’Ananar 14. Le Temps du Muguet 15. Uno de Abajo 16. Le Chant des Canuts 17. Gracias a la Vida 18. L’Affiche Rouge 19. Razor de Vivir ジョヴァンニ・ミラバッシ:Giovanni Mirabassi(p) (allmusic.comへリンクします) 2011年5月 ハバナ録音
2013/04/30 00:00
『バブーン・ムーン/ニルス・ペッター・モルヴェル』
『バブーン・ムーン/ニルス・ペッター・モルヴェル』
バブーン・ムーン/ニルス・ペッター・モルヴェル フューチャー・ジャズの中心的トランペッター Baboon Moon / Nils Petter Molvaer  海外の知人からメッセージが届くのはいつも嬉しい。昨日スティアン・ヴェスタルフースから「ハッピー・バースデイ」のメールを受け取り、11月23日に日本盤がリリース予定の本作を、急遽前倒ししてレビューする次第である。  ノルウェーのジャズに明るい向きなら、90年代後半に顕在化し、世界中へと広がったフューチャー・ジャズの中心的トランペッターがモルヴェルだと認識しているはずだ。今世紀に入って自主レーベルSulaを立ち上げ、大手ユニバーサルからのディストリビュートという体制を確立。妥協のないクリエイティヴィティの姿勢を保ちながら、経済的な安定感も担保する、ミュージシャンにとって理想的な活動を継続してきた。  本作はSulaでの制作はそのままに、ユニバーサルを離れて同じく大手のソニー・ミュージックと契約した第1弾である。気分一新の意味もあったに違いなく、メンバーを刷新。アイヴィン・オールセット(g)、オードゥン・クライヴ(ds)、ヤン・バン(sampling)といったレギュラー・ミュージシャンが退いて、ヴェスタルフースとアーラン・ダーレンが加わった3人編成になった。  モルヴェルが人数的には少数精鋭に再編した理由を探ると、最大の理由がヴェスタルフースを獲得できたことだと思える。一昨年ベルゲンの《Nattjazz》で観たステージがそうだったように、過激なギター・ソロ・パフォーマンスを得意としながら、日本の野外フェスティヴァル出演で人気を博すノルウェーのスーパー・グループ、ジャガ・ジャジストの一員としても活躍。本作では各種ギターのみならず、電気鍵盤やアタッチメントを駆使し、1人で数人分の役割を演じているのが大きい。  ドラマーのダーレンはハーモニウムやパーカッションも兼務して、バンド・サウンドに貢献。前述の《Nattjazz》で観たマティアス・アイク5とアイヴィン・オールセット“ソニック・コーデックス”の2組は、偶然にもツイン・ドラムスの編成で、いずれにもダーレンが参加していた。フューチャー・ジャズの流れを汲む2つのバンドに、同時に起用された事実で、自分の頭には要注目ドラマーとインプットされており、モルヴェルの新バンドで繋がったのである。  サウンド面ではこれまでのモルヴェルの作品に親しんできたリスナーには、驚くほどの劇的な変化は感じられないだろう。ただしビート感を強調したテクノ~ファンク的な場面は減り、アコースティックギターが入った静かで叙情的な#4が際立つあたりは新展開と言える。最後のタイトル・ナンバー#9は厳かな雰囲気の中、トランペットが主旋律を吹奏し、轟音ドラムスを合図にギターと女声が加わると、ぞくぞくする程の快感と共にクライマックスが訪れる。バンド再編の狙いはこの3人で世界中のどこでも、本作を再現できることにもあったのだ。 【収録曲一覧】 1. Mercury Heart 2. A Small Realm 3. Recoil 4. Bloodline 5. Sleep With Echoes 6. Blue Fandango 7. Prince Of Calm 8. Coded 9. Baboon Moon ニルス・ペッター・モルヴェル:Nils Petter Molvaer(tp,vo,loops,b-syn)(allmusic.comへリンクします) スティアン・ヴェスタルフース:Stian Westerhus(g,syn,per,key,vo) アーラン・ダーレン:Erland Dahlen(ds,per,vo) 2011年作品
2013/04/30 00:00
『フラクタル/ピープル・アー・マシーンズ』
『フラクタル/ピープル・アー・マシーンズ』
フラクタル/ピープル・アー・マシーンズ 平均年齢がまだ20代という北欧の若手クァルテット Fractal / People Are Machines  平均年齢がまだ20代という北欧の若手クァルテットを紹介したい。すでに一枚看板で知名度を高めているメンバーが在籍しており、見逃せない本邦デビュー作である。  始まりは2004年秋だった。コペンハーゲンのリズミック音楽院に通う学生仲間であるスウェーデン出身の3人とノルウェー出身の1 人がグループを結成。ピープル・アー・マシーンズ(PAM)という一風変わったバンド名をつけ、学業と並行して活動をスタートさせた。最初に転機が訪れたのは2007年で、デビュー作『People Are Machines』(Calibrated)をリリース。テナー・サックス+ピアノ+ベース+ドラムスのアコースティック・クァルテットは、全曲メンバーのオリジナルを揃え、気合の入った全員のアグレッシヴなプレイが圧巻の演奏だ。PAMは同年10月にスペインの《ゲチョ・ジャズ・フェスティヴァル》に出演。バンド・コンテストのファイナリスト4組に勝ち残り、審査員賞と観客賞のベスト・グループをダブル受賞した。またピアノのマグナス・ヨルトは最優秀ソロ・アーティストにも輝いている。スペインの人々を熱狂させた同祭でのステージは、第2弾のライヴ・アルバム『Jazz Getxo』(Errabal)で体験可能だ。PAMは他にもノルウェーのタレント・コンペティション「ジャズイントロ」で第2位を獲得。北欧各国やロシアのジャズ祭への出演実績がある。  冒頭の話を続けると、ヨルトは個人名義で2作品を発表した後、2009年の初来日公演をきっかけとして日本との関係を深め、3枚の国内リーダー作を制作。6月の東京公演も盛況だった。マリウス・ネセットは2005年にジャンゴ・ベイツのビッグバンドに抜擢され、ベイツ、アントン・イーガー参加の2011年発表リーダー第2弾『Golden Xplosion』(Edition)が、欧州の専門誌で高い評価を得ている。  PAMの第3弾となる本作は全員が2曲ずつ持ち寄ったオリジナル集。ペーター・エルドがエッジの鋭いピチカートでビートを刻む#1、ジョン・コルトレーンからマイケル・ブレッカーまでを吸収したネセットのプレイが逞しい#2、確かなテクニックでヨルトがヨーロピアンの洗練を発揮する#3、複雑なリズムをこなしながらイーガーがバンドを鼓舞する#4と、バランスのとれた4人のスキルが一体となって大きなエネルギーを生み出しているのがPAMの魅力だ。アメリカのメインストリームを踏まえた北欧ユニットは、ライヴでも体感したいと思わせる音楽性に溢れている。 【収録曲一覧】 1. 8-Bit Moments 2. 21/8-27/8 3. Seeding 4. The Rapport 5. Far Away 6. Zoodiakk 7. Catch This Cat 8. Aud Lhoc ピープル・アー・マシーンズ:People Are Machines(group) マグナス・ヨルト:Magnus Hjorth(p) ペーター・エルド:Petter Eldh(b) マリウス・ネセット:Marius Neset(ts,ss) アントン・イーガー:Anton Eger(ds) 2008年12月コペンハーゲン録音
2013/04/26 00:00
『ザ・ロスト・アルバム・フィーチャリング・ウォーターメロン・マン/ザ・J.B.'s&フレッド・ウェズリー』
『ザ・ロスト・アルバム・フィーチャリング・ウォーターメロン・マン/ザ・J.B.'s&フレッド・ウェズリー』
ザ・ロスト・アルバム・フィーチャリング・ウォーターメロン・マン/ザ・J.B.'s&フレッド・ウェズリー ザ・J.B.'sのリーダーによる見逃すべきではない1枚 The Lost Album featuring Watermelon Man / The J.B.’s & Fred Wesley  1960年代末、“ゴッドファザー・オブ・ソウル”ことジェイムス・ブラウンのバック・ミュージシャンに起用され、70年代にザ・J.B.'sのリーダーとしても活躍。そんなフレッド・ウェズリーがジャズ界に本格進出したのは、90年代初頭だった。  ザ・J.B.'sの同僚でもあるメイシオ・パーカー(sax)もほぼ同時期にジャズ・ファンにアピールするアルバムをリリース。JB関係者2人が台風の目として、一躍ジャズ・シーンに躍り出た。あの時のインパクトは20年を経た今も、新鮮な記憶として残っている。  本作は72年に吹き込まれながら、お蔵入りしていた貴重な音源を含む初CD化作である。 事情はこうだ。JBの肝いりで72年にフル・アルバムの完成を見据えて、数回のスタジオ・レコーディングが行われた。同年にオージェイズが放ったヒット曲#11<裏切り者のテーマ>と#12がシングル第1弾で登場。続いて初期ハービー・ハンコック60年代の出世曲#1と、ギルバート・オサリヴァンの72年全米第1位曲#10のカップリング・シングルがリリースされた。しかしアルバムは品番が決定していながら、発売をキャンセル。シングルに関しても、上記第1弾の前に#9&#7のカップリング盤が同年11月の発売予定だったものの中止となり、その後イギリスのみでレコード化されたという経緯がある。当初予定されたアルバム収録曲#1~9のうち、シングルで出た3曲を除く6曲が世界初登場となる。 本作中、最後のレコーディング・セッションからの唯一のナンバー#1は、JBがドラマーで参加したThe J.B.'sの演奏。ハンコックのオリジナル・ヴァージョンがファンキーなピアノを主体とした音作りだったのに対して、こちらは6人編成のホーン・セクションによる主旋律とアンサンブルを柱とする。9曲目までのアルバム本編のうち、ザ・ J.B.'s参加曲はこれだけで、72年9月録音の#2~9はジャズとフュージョンのスタジオ・ミュージシャンを起用。実はジャズ好きのウェズリーのために、JBがプロデューサーを買って出てセッティングしたのが真相である。マイケル・ブレッカーとロン・カーターが存在感を光らせるウェズリーの自作曲#2、ランディ・ブレッカー、ジョン・ファディス(tp)、スティーヴ・ガッドの技が冴えるスタンダード曲#3、編曲者としても貢献するデイヴ・マシューズ作曲のビッグ・バンドらしい楽しさに溢れる#4等々、ジャズ作としても立派な仕上がり。ソウル/ブラックの仕分けだからといって、ジャズ・ファンが見逃すべきではない1枚だ。 【収録曲一覧】 1. Watermelon Man 2. Sweet Loneliness 3. Secret Love 4. Seulb 5. You’ve Got A Friend 6. Transmograpification 7. Use Me 8. Get On The Good Foot 9. Everybody Plays The Fool 10. Alone Again (Naturally) 11. Back Stabbers 12. J.B. Shout 13. Funky & Some フレッド・ウェズリー:Fred Wesley(tb) ランディ・ブレッカー:Randy Brecker(tp) マイケル・ブレッカー:Michael Brecker(ts) ロン・カーター:Ron Carter(b) スティーヴ・ガッド:Steve Gadd(ds) 1972年録音
2013/04/26 00:00
『キンドレッド・スピリッツ/ゾエ・ラフマーン』
『キンドレッド・スピリッツ/ゾエ・ラフマーン』
キンドレッド・スピリッツ/ゾエ・ラフマーン 強烈な個性を発揮する日本では無名の女性ピアニスト Kindred Spirits / Zoe Rahman  前回に引き続き、日本では無名の女性ピアニストを紹介したい。イングランド南東部チチェスター生まれのゾエ・ラフマーンは、普通の英国人として育った。  王立音楽院で学んだ10代に、譜面を見ずに音楽を作るジャズの魅力に惹かれ、次第に傾倒してゆく。オックスフォード大学ではクラシックを専攻しながら、ビル・エヴァンスを研究。ジュリアン・ジョセフ(p)の勧めでオスカー・ピーターソンやジョアン・ブラッキーンを聴いて、ジャズへの愛を強め、米バークリー音大に入学する。  2001年にデビュー作をリリースすると、BBCジャズ賞の新人部門とマーキュリー賞にノミネートされ、注目を集めた。その後は2009年までに合わせて4枚のリーダー作を世に送り、コートニー・パインのグループに抜擢されて、順調にキャリアを重ねてきた。  5枚目となる本作のコンセプトが生まれたのは、2009年の父親の入院がきっかけだったという。ベンガル人(注:ベンガルはもと英国領のインド北東部で、現在はインドとバングラデュにまたがる)の父は家庭内で母国の音楽をかけなかったため、ゾエがそれらに接することのないまま成長したのだが、古いカセットを父のためCDにコピーしてあげた時に、初めてベンガルの音楽を聴いて自己のルーツに目覚めた。一方イギリス人の母親を持つゾエは、母方の祖母がアイルランド人であることに以前から関心を抱いており、2011年のアイルランド・ツアーを成功させて新作の制作に取り掛かっている。  本作で重要な創造の源となっているのがラビーンドラナート・タゴール(1861~1941)だ。詩人、思想家、ノーベル賞受賞者で、インド国歌とバングラデシュ国歌の作詞・作曲者でもあるタゴールは、2011年が生誕150年の節目で、アイルランドとの関係も深かった。これらがゾエにとっての大きな制作動機に作用したのである。  #1を聴けば誰もが衝撃を受けるだろう。バークリーで師事したジョアン・ブラッキーン譲りのスケール感でピアノを鳴らす技術と、アフロビートを吸収したダイナミックなトリオ・サウンドに、ゾエの豊かなポテンシャルを体感する。パインがアグレッシヴなフルートで助演した#2も、アルバムの勢いを加速。10代のゾエがジャズ好きになった貢献者でもある実弟アイドリスが4曲に参加しており、タゴールの楽曲をカヴァーしたメドレー#4ではクラリネットがエキゾチックなメロディを奏で、ピアノと共に妖しく燃え上がる。表現者としての意思の強さが止むに止まれぬ音楽衝動に繋がり、強烈な個性を発揮するゾエ。本作でただならぬ才能を知ったぼくは、ゾエの過去4タイトルをすぐにオンラインで発注した。 【収録曲一覧】 1. Down To Earth 2. Conversation With Nellie 3. Maya 4. Forbiddance (Mana Na Manili)/My Heart Dances, Like A Peacock, It Dances (Hridoy Amar Nache Re) 5. Butlers Of Glen Avenue 6. Outside In 7. Imagination (Hridoy Amar Prokash Holo) 8. Rise Above 9. Fly In The Ointment 10. Contusion ゾエ・ラフマーン:Zoe Rahman(p,harmonium) アイドリス・ラフマーン:Idris Rahman(3.4.5.:cl, 7.:b-cl) コートニー・パイン:Courtney Pine(a-fl) 2011年2、3月録音
2013/04/26 00:00
『セカンド・リポート・フロム・アイアン・マウンテン・USA /DCPRG』
『セカンド・リポート・フロム・アイアン・マウンテン・USA /DCPRG』
セカンド・リポート・フロム・アイアン・マウンテン・USA /DCPRG 実は好きだったラップの導入 SECOND REPORT FROM IRON MOUNTAIN USA / DCPRG  昨年9月リリースの前作『ALTER WAR IN TOKYO』の時と同様、この新作に合わせてリーダーの菊地成孔にインタヴュー。立ち上げて間もない新宿の新事務所「ビューロー菊地」で楽しく話を聞いた。  ユニバーサルミュージックとの契約は2タイトルで、前ライヴ作の発売前からこのスタジオ録音の制作は決定事項だった。  わずか半年間という短いインターヴァルながら、内容は前作にはない新しいアイデアが盛り込まれており、DCPRGが急速に進化した印象だ。その背景には2007年の活動休止を経た2010年の新始動で、継続参加の3人を除いてメンバーが若返った11人に再編成されたことが挙げられる。それに伴って菊地はバンド名の変更も考えていたが、今作に至ってようやくオリジナル名称のデート・コース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデンの略称を正式表記とした。  何と言っても特筆すべき新機軸はラップの導入だ。菊地のレコーディング・キャリアにおいて、ラッパーやトラック・メイカーとコラボした実績はない。つまり一般的なイメージとして、菊地とヒップホップは無縁だったのだが、実は好きな音楽ジャンルは   1)ジャズ   2)ヒップホップ   3)ポップス  の上位に来るほどのヒップホップ・ファンということを知った。  リスナー歴も年季が入っていて、内外の事情に精通している。菊地がどれほどこのジャンルを愛し、自分の中で機が熟したこのタイミングでアルバムに取り入れたのだと、共感を抱きながら理解できたことが、今回の取材における最大の収穫となった。  参加ラッパーは3組。#1はラジオ番組から生まれた菊地&大谷能生のJAZZ DOMMUNISTERSと、ボーカロイドの兎眠りおんが日本語ラップでマイク・リレーをする、類例のないアイデアを披露。  本作最大のフックとなるSIMI LABは近年、相模原アンダーグラウンド・シーンに登場したヒップホップ集団で、昨秋リリースしたデビュー・アルバムが各方面で高い評価を受けた斯界の注目株だ。ビートが揺れるというヒップホップにはなかった手法で菊地を驚嘆させた彼らは、#4、6の2曲にフィーチャーされており、アフロポリリズムを音楽性の柱とするDCPRGとの初共演でありながらも親和性を示している。  アミリ・バラカの朗読、というよりもアジテーションと呼ぶべきスピーチを使用~加工した#7を、アルバムの最後に置いた点も見逃せない。これをラップと捉えた時、30年以上前のバラカが最もエネルギッシュで強度が高い事実に、広く黒人音楽/文化を探求し続ける菊地のスタンスが重なる。再演となった菊地雅章の#2がある意味、平和で牧歌的に聴こえるのも菊地の企図だったのだろうか。 【収録曲一覧】 1. Catch 22 feat. JAZZ DOMMUNISTERS & Tone Rion 2. Circle/Line 3. Ta-Te Contact & Solo Dancers 4. Microphone Tyson 5. Tokyo Girl 6. Uncommon Unremix 7. Duran feat. “DOPE” (78) by Amiri Baraka 菊地成孔:Naruyoshi Kikuchi(cond,CDJ,key)(allmusic.comへリンクします) 坪口昌恭:Masayasu Tzboguchi(key) 津上研太:Kenta Tsugami(sax) 類家心平:Shinpei Ruike(tp) シミラボ:SIMI LAB(rap) 2011年10月~2012年2月、東京録音
2013/04/04 00:00
『リアル・タイム・ライヴ・イン・コンサート 1992/リチャード・ティー』
『リアル・タイム・ライヴ・イン・コンサート 1992/リチャード・ティー』
リアル・タイム・ライヴ・イン・コンサート1992~イン・メモリー・オブ・リチャード・ティー 他界してから19年になリチャード・ティーのライヴ Real Time Live In Concert 1992 / Richard Tee (VideoArts Music)  リチャード・ティーが1993年7月にガンで他界してから、早いもので19年になる。49という享年を自分が超えてしまったことに、リアルタイムで追いかけていたかつてのファンとしては、不思議な思いが交錯するばかりだ。  43年にブルックリンで生まれ、クラシック音楽を習得。65年にモータウンのスタジオ・ミュージシャンとして活動を始め、マーヴィン・ゲイ、キング・カーティス、アレサ・フランクリン、ロバータ・フラックら、ソウル系のアーティストをサポート。74年にゴードン・エドワーズが発起人となったスタジオ・ミュージシャン集団“エンサイクロペディア・オブ・ソウル”に参加し、76年には“スタッフ”としてデビューしたのは有名なエピソードだ。折からのフュージョン・ブームにあって、スタッフはテクニックを追求するのではなく、ソウルフルな歌心をバンド・コンセプトにしたことで他のグループと差別化を図り、日本でも大きな人気を集めた。第1弾は「Stuff」のロゴがCI効果を生んだことで、優れた内容と共にバンドの認知に絶大な効果を果たしたのだった。  人気絶頂の79年にティーは初リーダー作をリリースする。ボブ・ジェームスのレーベル、タッパン・ジーの制作による『ストローキン』は、スティーヴ・ガッドとの最上のコラボを記録したタイトル・ナンバーを含む内容。翌年にはガッド、エリック・ゲイルのスタッフ・メンバーと、ラルフ・マクドナルド、トム・スコットらが連続参加した第2弾『ナチュラル・イングリーディエンツ』が制作され、洗練されたセンスとヴォーカリストとしての魅力をアピールした。ティー+ガッド+マクドナルドは、時代の最先端のサウンドを作ったチームであり、その最高の成果がフュージョン史上に輝く傑作『ワインライト/グローヴァー・ワシントンJr』だ。83年にスタッフが解散すると、ガッド率いるガッド・ギャングをサポート。その後、80年代に日本のレコード会社から2枚のリーダー作をリリースした。  92年9月、結果的にはティーの遺作となる『リアル・タイム』が、本邦新レーベルOne Voiceから登場。そして翌月、ゲイルを除く中心的なレコーディング・メンバーにより、新宿「インディゴ・ブルー」で記念コンサートが開催された。本作は20年を経て日の目を見た、そのステージのライヴである。ピアノが強力にドライヴする#4を聴いていると、ティーがすぐそこにいるように感じてしまう。当たり曲#9でのガッドとのミュージシャンシップには、わかっていてもやはり胸が熱くなる。ファンにはたまらない発掘作だ。 【収録曲一覧】 1. That’s The Way Of The World 2. The Way 3. My Funny Valentine 4. Strokin’ 5. In Real Time 6. Send One Your Love 7. Changes 8. It’s Time 9. Take The A Train 10. Bridge Over Troubled Water リチャード・ティー:Richard Tee(p,key)(allmusic.comへリンクします) ジョン・トロペイ:John Tropea(g) ウィル・リー:Will Lee(el-b) スティーヴ・ガッド:Steve Gadd(ds) ラルフ・マクドナルド:Ralph MacDonald(per) ロニー・キューバー:Ronnie Cuber(bs) 1992年10月、東京録音
2013/04/04 00:00
『ビューティ・オブ・サドネス/シーネ・エイ』
『ビューティ・オブ・サドネス/シーネ・エイ』
ビューティ・オブ・サドネス/シーネ・エイ デンマークの若手女性歌手ではピカイチの実力者 The Beauty Of Sadness / Sinne Eeg (VideoArts Music)  タイムリーな来日記念盤である。今回《富士通コンコード・ジャズ・フェスティヴァル》に出演するシーネ・エイの追加プログラムを、5月25日にTokyo Tucで観た。  フライヤーにはシーネとブルース・ハマダの名前が大きくクレジットされている。ファースト・セットはまずシーネを除くカルテットが演奏。中盤までは“ハワイの歌うベーシスト”と呼ばれるハマダのヴォーカルもフィーチャーした。その後ようやくシーネが登場すると、映画音楽のスタンダード・ナンバーを中心に進行。リーダー作収録曲「春の如く」は少しテンポを落として、じっくりと表現したのが印象的だった。東京では初めてシーネを観るファンも多いと思われ、アルバムのイメージと変わらない歌唱力をすべての人々が堪能したはずだ。特にヴォーカリストの場合、ライヴでがっかりさせられる場合もあるのだが、シーネはデンマークの若手女性歌手ではピカイチの実力者であると断言できる。  昨年プロモーションのために来日した時にインタヴューを行い、ミニ・ライヴを観て、シーネの魅力を改めて実感した。まず歌がしっかりしている。母国の音楽院で学び、サラ・ヴォーン、ベティ・カーター、ナンシー・ウィルソンといった米国黒人歌手から影響を受けて、基礎体力を養ったことは大きい。邦人女性歌手も取り上げる名曲も、シーネが歌うとやはりモノが違うなと感じられるのだ。昨年リリースの前作『ブルーな予感』では北米のオーガニック・シンガーに通じるポップな感性も認められ、作詞・作曲の才能も発揮した。  この新作は、スモール・グループにデンマーク国立室内オーケストラが加わって、シーネのヴォーカルを輝かせている。#1はシーネが以前、ビートルズのトリビュート・コンサートで歌ったことがある楽曲。スキャットを交えた表現力豊かな歌唱に魅了される。シーネの自作#2は2003年のデビュー作収録曲の再演。ピアノ・トリオをバックにした初演に対して、ここでは曲調は同様ながらよりじっくりと歌い込んでおり、声には重ねてきた経験が表れている。自作曲の再演と言えば、2007年リリース作のタイトル・ナンバー#4もそうだ。実体験を基に書いたラヴ・ソングを、ストリングスを得た歌唱によってコクの深い味わいに仕上げた。初期のレギュラー・ピアニストだったマーティン・シャックの楽曲にシーネが歌詞をつけた#5も、起伏に富んだシーネの歌唱テクニックが素晴らしい。カヴァー曲ではジミー・ロウルズの#7で声域の広さを印象付け、ミシェル・ルグランの#9で歌詞世界をドラマティックに描写する。全体を通じて優れたアレンジが感動を呼ぶストリングスの起用は、シーネの意図がずばり奏功。ヴォーカリストとしてステージ・アップした充実の新作だ。 【収録曲一覧】 1. Strawberry Fields Forever 2. Silence 3. So Now You Know 4. Waiting For Dawn 5. The Beauty Of Sadness 6. I Have The Feeling I Have Been Here Before 7. The Peacocks 8. Love Is A Time Of Year 9. The Windmills Of Your Mind 10. With Or Without You シーネ・エイ:Sinne Eeg(vo)(allmusic.comへリンクします) ヤコブ・クリストファーセン:Jacob Christoffersen(p) ピーター・アースキン:Peter Erskine(ds) 2012年作品
2013/04/03 00:00
『アナザー・カントリー/カサンドラ・ウィルソン』
『アナザー・カントリー/カサンドラ・ウィルソン』
アナザー・カントリー/カサンドラ・ウィルソン ジャズ・ヴォーカル界における女王の移籍後の新作 Another Country / Cassandra Wilson (eOne Music)  カサンドラ・ウィルソンが長年在籍したブルーノート・レコードから離れた。1993年の『ブルー・ライト・ティル・ドーン』から2010年の前作『シルヴァー・ポニー』まで8タイトル。この間、現代ジャズ・ヴォーカル界における女王の座を不動のものにしている。  この新作の発売元である米eOne Musicは近年のジャズ/フュージョン作に限っても、ジャック・ディジョネット、グレゴア・マレイ、マイルス・エスパニョール、ソフィー・ミルマン、ポール・テイラーと、急速に市場で存在感を増しており、また1人、著名ミュージシャンを傘下に収めたとのイメージを抱く。  レーベルの移籍と共に、共演者を刷新し、新しいコンセプトで制作に臨んだ。カサンドラの音楽には欠かせないレギュラー・メンバーのマーヴィン・スーウェル(g)や、ジェイソン・モラン、ロニー・プラキシコ、レジナルド・ヴィール、ハーリン・ライリーといった近作のメンバーは不参加。代わって最重要人物に浮上したのは、カサンドラと共同プロデューサーも兼任するギタリストのファビリッツィオ・ソッティ。日本では無名だが、グレゴア・マレイ、ミノ・シネル、サム・バーシュ(元アヴィシャイ・コーエン・トリオ)が参加したリーダー作『Inner Dance』を、2010年にeOne Musicからリリースしており、カサンドラの移籍にも一枚絡んでいる可能性は否定できない。他はシネルや連続参加のレカン・ババロラ(per)らで、アコースティック楽器を主体としたサウンドが特徴だ。  前作が古いスタンダードやビートルズ曲を収めたスペインのライヴ&ニューオリンズ録音で、前々作『ラヴァリー』がラヴ・ソングの名曲集だったのに対し、本作はソッティとの共作を含めて10曲中7曲をカサンドラのオリジナルが占める。  カサンドラがアコースティック・ギターを弾き歌う#1から順に聴き進めると、ドラムスを入れずに2名のパーカッションをリズムに充て、アコーディオンが絶妙な味付けをするカサンドラの、音作りの意図が浮き彫りになる。環境が変わってもカサンドラはやはりカサンドラなのだが、ボッサ風の#5では、ソフト・タッチの歌唱が印象的だ。唯一のカヴァー曲にカンツォーネの名曲#3を選んだのは、パートナーのソッティがイタリアンだからか、あるいは録音地がフィレンツェだからか。原曲のナポリ民謡に従ってナポリ語で歌ったのは、カサンドラの新境地と言えよう。  今年3月には出身地のミシシッピー州ジャクソンに開店したライヴ・ハウスをプロデユース。キャリアを重ねても守りに入らない姿勢に共感できる秀作だ。 【収録曲一覧】 1. Red Guitar 2. No More Blues 3. O Sole Mio 4. Deep Blue 5. Almost Twelve 6. Passion 7. When Will See You Again 8. Another Country 9. Letting You Go 10. Olomuroro カサンドラ・ウィルソン:Cassandra Wilson(vo,ac-g)(allmusic.comへリンクします) ファビリッツィオ・ソッティ:Fabrizio Sotti(g) ユリエン・ラブロ:Julien Labro(accordion) ミノ・シネル:Mino Cinelu(perc) 2012年作品
2013/04/03 00:00
『スラヴ・トゥ・ザ・リズム/ファーマーズ・マーケット』
『スラヴ・トゥ・ザ・リズム/ファーマーズ・マーケット』
スラヴ・トゥ・ザ・リズム/ファーマーズ・マーケット オスロからのおすすめ盤 Slav To The Rhythm / Farmers Market (Division Records)  7月4日から7日まで開催されたノルウェーの《コングスベルク・ジャズ・フェスティヴァル》に行ってきた。2003年、2011年に続く3度目の取材である。  20以上のジャズ・フェスが活況を呈する同国で、2番目に長い歴史を誇る同祭は、現在の代表的アーティストと新人を紹介するショーケース的なプログラムを提供。ノルウェーの最新ジャズ・シーンをチェックするには最適のフェス、との評価が定着している。  成田を発ち、アムステルダム経由でいつも通り夕方にオスロに到着。一泊した翌日午後に、バスでコングスベルクへ向かったのだが、その前にオスロの中心的なジャズ・スポットである“Bare Jazz”に立ち寄った。日本では入手できない新譜をチェックするために、必ず訪れるショップだ。運良く店主でテナー奏者のボディル・ニスカがいたので、オススメ盤をピックアップしてもらう。そこで購入したのが、このファーマーズ・マーケットの新作というわけだ。  1991年にスティアン・カシュテンセンの呼びかけでクインテットを結成。ジャズ、ロック、ポップス、ブルガリア伝統音楽を取り入れたハイブリッドなサウンドで、これまで4枚のアルバムをリリース。多彩なノルウェーのシーンにあって、独自のポジションを築いてきた。ノルウェー・ラジオ・オーケストラ、スタバンゲル交響楽団、トロンハイム交響楽団、クリスティアンサン交響楽団といったノルウェーのオーケストラとの共演経験も豊富で、《モルデ・ジャズ祭》ではマイケル・ブレッカーに認められ共演ステージが実現した実績もある。昨年の《東京JAZZ 2011》で野外ステージに出演し、観客を沸かせたたことも記憶に新しい。  通算5枚目となる新作は、まずファーマーズ・マーケットがさらにパワーアップしたことを印象付ける。変拍子と東欧音楽の旋律を盛り込んでエネルギッシュに仕立てた#1からそれは顕著。サックス、ギター、鍵盤の絡みには、亡きジョー・ザヴィヌルが晩年まで追求した音楽の発展形さえ認められて興味深い。ハードロックとワールドミュージックが融合した好例を示す#2、フィリップ・シメオノフ(cl)の技巧が光る#3、ブルガリアの女性コーラスを起用して、伝統への意識を強くアピールした#5と、バンド+ゲストで多彩なサウンドとバンドのパワーアップを目論んだコンセプトが奏功している。リーダー格のスティアンを昨年2月に北極で観ていて、ノルウェー語のMCで終始観客を笑わせていた光景に複雑な思いを抱いた。彼らの本領を体感できるのは、現地でのノルウェー語を解した状況だとわかった上で、これは彼らの魅力を十分に楽しめる作品だと言える。 【収録曲一覧】 1. Slav To The Rhythm 2. You’re The Prototypical 3. Friend 4. Dusty Traditions 5. Replace 6. Shiny Happy Gizmos 7. Old Stuff Still Does The Trick 8. It’s Not Always True 9. Machines Rule 10. And Thus 11. Man Is Ancient History スティアン・カシュテンセン:Stian Carstensen(g,banjo,el-sitar,ocarina,accordion,vo)(allmusic.comへリンクします) ニルス=オラフ・ヨハンセン:Nils-Olav Johansen(g,vo) ヤーレ・ヴェスペスタ:Jarle Vespestad(ds) 2010~2012年録音
2013/04/02 00:00
『テイキン・イット・ゼア/グラハム・デクター』
『テイキン・イット・ゼア/グラハム・デクター』
Takin' It There 26歳のテクニシャン Takin’ It There / Graham Dechter (Capri)  26歳のギタリストである。カート・ローゼンウィンケルやギラッド・ヘクセルマンが注目を集める中、モダン・ジャズ主流派のファンには嬉しいオーソドックスなテクニシャンだ。  音楽家の両親のもと、父親のレコード・コレクションからデューク・エリントンやカウント・ベイシーを聴きながら、LAで育った。クラシックのヴァイオリンと作曲を学び、高校の即興演奏クラスでベーシストのマーシャル・ホーキンスに師事したことが、今日への進路を導いている。そしてイーストマン音楽院での1年目を修了した時に、早くも大きなチャンスが訪れた。19歳の若さでクレイトン=ハミルトン・ジャズ・オーケストラに抜擢されたのだ。以降、欧米、アジアのツアーに帯同して腕を磨き、米国屈指の楽団員であるメリットを活用して数多くの著名ミュージシャンと共演。昨年はアルバムとライヴでマイケル・ブーブレ(vo)をサポートするなど、順調にキャリア・アップを図って現在に至る。  2009年には同楽団のリズム・セクションの協力を得た初リーダー作『Right On Time』をリリース。スタンダードと自作曲の他、デューク・エリントン、サド・ジョーンズ、レイ・ブラウンといったジャズマンのマニアックな楽曲にも着目しており、ジャズ・ファンの側面を反映した点も好感を抱く。  同作から3年を経たデクターのリーダー第2弾は、前回とまったく同じ顔ぶれが揃ったカルテット作だ。オープニングにウェス・モンゴメリー最晩年作のタイトル曲#1を持ってきたのは、デクターの自信の表れだと受け取れる。そして確かにそのギター・プレイは、ウェス譲りのオクターブ奏法が全開で痛快。ピアノとのコンビネーションが効いたアレンジと合わせ、歌心たっぷりな王道ジャズ・ギターの魅力がいきなり極まって、期待が高まる。ジョン・クレイトンとジェフ・ハミルトンがハマリ役を演じる『ポール・ウィナーズ・ライド・アゲイン』収録のバーニー・ケッセル曲#2、ギター・ソロがバンドを躍動的に牽引するアントニオ・カルロス・ジョビン曲#3、ジョージ・コールマンの隠れ秀作『At Yoshi’s』からの選曲にセンスの良さを感じるミディアム・テンポの楽しくスインギーな#6、リー・モーガンの原曲よりも高速にテンポ・アップして全員が一丸となる#8と、ミュージシャン作曲のカヴァーはどれもジャズ愛に溢れているのがいい。デクターのバンド仲間でライナーノーツを寄稿しているピアニストのジョシュ・ネルソンが、本作のために提供した#5は、各メンバーの持ち味を引き出したブルージーなマーチ。新感覚派ギタリスト好きにも敢えて薦めたい1枚だ。 【収録曲一覧】 1. Road Song 2. Be Deedle Dee Do 3. Chega De Saudade 4. Together & Apart 5. Takin’ It There 6. Father 7. Grease For Graham 8. Hocus Pocus 9. Come Rain Or Come Shine 10. Amanda/Every Time We Say Goodbye グラハム・デクター:Graham Dechter(g)(allmusic.comへリンクします) タミール・ヘンデルマン:Tamir Hendelman(p) ジョン・クレイトン:John Clayton(b) ジェフ・ハミルトン:Jeff Hamilton(ds) 2012年作品
2013/03/29 00:00
はて?どの曲をプレイする機会が多かったかな
はて?どの曲をプレイする機会が多かったかな
コロムビア TVアニメ・特撮主題歌全集3 ファンタジー(紙ジャケット仕様) セニョール・ブルース(紙ジャケット仕様) KING RE-JAZZ SWING  私がDJで登場するさいはオールドファンにはおなじみのアニメ『サスケ』のテーマに「ジャズは夜。夜はジャズなのだ」という立木冬彦さんのナレーションを乗せたジングル(出囃子)から始まります。出囃子が流れるというのは、例えば野球選手がバッターボックスに向かうとき、リリーフでマウンドに向かうときのようにそれは気合いが入ります。『サスケ』の出自がジャズか否かというのはさておき、あの哀愁のメロディと高らかに歌うトランペットのハイトーンの音色は私のジャズの原体験なんじゃないかなーなどとも思ったものです。どこか大人びて妖艶で刹那いあのメロディ。『死刑台のエレベーター』に近いある種のメンタリティを感じるといったら大げさか。いずれにしても自分のジャズ感覚はそもそも間違っているので無視して頂きたいのですが、その出囃子のあと、DJの機会一曲目というのはその頃のタイムラインで一番気に入ってる曲をプレイすることが多く、しかし同時にそれはオーディエンスに対する自分の所信のつもりなのです。とはいえ「はて?どの曲をプレイする機会が多かったかな」とあらためてレコードバッグを覗いてみた次第というのが今回の趣旨というわけで。  最近では『Harold Mabern Trio/Fantasy』(Venus)が思い出される。大阪の弟子DJがプレイしていたレコードを強奪(いけません!)したもの。おなじみE.W&Fの名曲カヴァーで、ピアノトリオとは思えないアグレッシブで性急なアレンジはフロアを一気にトップギアに持っていきます。掴みはOKってやつですね。途中に機知に富んだブレイク展開がありリット、曲全体のドラマチックな構成も見事なのですがいかんせんフロアではそこでリズムを止めることができません。そこであっさり次の曲をカットインしてしまいますが、それはそれでジャズファンには申し訳ない掛け方ということになります。同じヴァーナス産では『David Hazeltine Trio/Senor Blues』というホレス・シルバー集から<Sayonara Blues>もターンテーブルに乗せる機会も多い1曲。 2曲共にオリジナル曲が広く知られている強みがあるので、本来ダンスミュージックとしては難しいジャズの食いつきにはそういった要素が有り難い。  少し前になると「和ジャズ」ムーブメントの啓発という意味も込めて『白木秀雄クインテット/プレイズ・ボサノヴァ』<デュー・ステップ>から入ることが多いようでした。テンポが早いのでそこからトライバルなハウスミュージックへ展開するとか色んな選択肢が取れた。特に大きな箱でプレイする時はモーダルな曲をじっくり聴いてもらえるような雰囲気ではないからそういう「求められている」場面に最適でしたし。そしてこの時代のキング・レコードの高い音質の技術力も特筆すべき。  残念ながら昨年鬼籍に入られてしまったエスビョルン(p)率いる『Esbjorn Svenson Trio/Spam Boo Limbo』もかなり活躍した。プレイするジャンルがジャズになって10数年、誰も知らないような旧譜を探すのに血道を上げる中、初めて夢中になったコンテンポラリーのジャズグループ。専門誌などではあまり語られる機会がなくて残念だったな。でも実は僕らが主戦としていたダンスミュージック誌などでは一部で高い評価を得ていて、作品がリリースされるたび特集なども組まれていましたよ。ドローン含む音響系、ミニマルなテクノ等ともリンクする指向が時代と合致した双方向性の音楽性故かと思いますが。本来CDしかリリースされていないのでこのアナログは、大阪のダブプレート製作会社に依頼して一枚だけ作ってもらったもの。 取材の機会にお会いしたさい本人達もびっくりしていたし、ちゃっかり3人のサインももらってしまった。世界に一枚しか存在しない大切なレコードです。
2013/03/29 00:00
第4回 レッド・ツェッペリンを生で聴いたことがありますか?
第4回 レッド・ツェッペリンを生で聴いたことがありますか?
永遠の詩(狂熱のライヴ) 祭典の日(奇跡のライヴ)  はっきり言おう、レッド・ツェッペリン(以下、ツェッペリン)を聴かずして、ロックを語るなかれ、これが、誰がなんと言おうと、わたしの考えだ! などと、偉そうに言うまでもなく、多くの方が、賛同してくれることではないだろうか。そして、今でも、彼らの音を求めるファンが世界中に数多く存在しているのも事実だ。  昨年2012年には、『祭典の日(奇跡のライヴ)』と題された新譜が発売されている。1980年、ドラマーのジョン・ボーナム(以下は生前の愛称、ボンゾ)の死によって、二度と活動できなくなったツェッペリンが、07年12月、アトランティック・レコードの創設者アーメット・アーティガンのトリビュート・コンサートのステージにたった一夜限り登場し、演奏した記録だ。  ドラマーは、映画『レッド・ツェッペリン狂熱のライヴ』で、ボンゾといっしょに写っていたご子息ジェイソン・ボーナム。父親譲りの力強いドラムを聴かせてくれた。  ツェッペリンは、8枚のスタジオ・アルバムを残している。ロック・ファンたる者、そのすべてに聴く価値があると思う。しかし、今回は、別の視点で彼らの歩みを見てみよう。  ライヴである。ツェッペリンは、68年10月からレコーディングと平行してライヴ活動を開始する。ライヴとレコーディングという活動は、80年、ボンゾが亡くなるまで、紆余曲折はあるにしろ続いていく。  今のリスナーが幸福なのは、ツェッペリンのツアーごとのライヴ音源、あるいは映像がリリースされているということだろう。リアルタイムで聴いてきたわたしたち世代には、76年に登場する映画とサントラとして発表された『永遠の詩(狂熱のライヴ)』(以下『永遠の詩』)以外、97年に『BBCライヴ』が発売されるまでの約20年間、正式なライヴ音源を聴くことはできなかったのだ。  今では、CDでは『BBCライヴ』が、69年と71年。『伝説のライヴ』が72年。映像では、『永遠の詩』73年。『レッド・ツェッペリンDVD』69年、70年、73年、75年、79年のライヴが納められている。おもなツアーの音や映像を楽しみ、その変化をたどることができるようになった。まだ、残されているのは、77年のツアーということになる。いつ、どのように出すのか、ジミー・ペイジが戦略を練っていることだろう。楽しみなことだ。  さて、そのそれぞれのツアーは、新譜の曲も含め、色合いが異なる。そのなかでも、ファンの間で人気の高いのが、73年のライヴではなかろうか。その一番の理由は、先ほどの映画『狂熱のライヴ』で、初めて動くツェッペリンを見ることができ、その姿をまぶたに焼き込んだためであろう。もう一つは、その次のツアーから、ボーカルのロバート・プラントの声に変化が出てきたということがあると思う。  さて、ここで、今回のライヴは、ツェッペリンのコピー・バンドの紹介である。  みなさんは、コピー・バンドと聞いて、さまざまな予想をすると思う。コピー・バンドにも、さまざまなコンセプトがあるからだ。過去にも、ツェッペリンの曲をレゲエで演奏したアルバムなどもあった。これは、コピーとは言わないかもしれないが。今回紹介する「ZOSO」は、73年当時のライヴを完全再現するというのがテーマである。噂によると、ジミー・ペイジのミス・タッチまで、再現するという。73年と言えば、映画『狂熱のライヴ』の録画場所ともなったマディソン・スクエア・ガーデンでのライヴをはじめとした大型会場での演奏が中心になっている。その時代の音をライヴ・ハウスで聴けるというのも、楽しい限りだ。  もう、一生、二度と、聴くことができないと思っていた、レッド・ツェッペリンのライヴを、楽しんでみたいと思う。 ■公演情報は、こちら http://clubcitta.co.jp/001/theledzeppelinexperience-zoso/
2013/03/27 00:00
第2回 今、ガールズ界が熱い!連載開始のごあいさつ(パート2)
第2回 今、ガールズ界が熱い!連載開始のごあいさつ(パート2)
アップアップガールズ(仮)のリスペクトーキョー/ストレラ!~Straight Up~ [Single, Maxi] アップアップガールズ(仮)のチョッパー☆チョッパー/サバイバルガールズ [Single, Maxi]  と書いてきたところで、もう夜もかなり深くなってきた。ぼくは明日から遠征するのだ。寝なきゃいけないのだ。初日は9nine(“ナイン”と読む)や東京女子流を見て、翌日はアップアップガールズ(仮)とLinQの共演を堪能する。充電が必要なのだ。アプガ、気がつくと今週に限っても3回は見ているのだが、「サバイバルガールズ」における驚愕のフォーメーション、「リスペクトーキョー」での斬新極まりない“棒ラップ”、「マーブルヒーロー」エンディング部分“シャキーン”における石川五右衛門の斬鉄剣のような切れ味、ポップで垢抜けたサウンドから盆踊りへと変化する「夕立ち!スルー・ザ・レインボー」など、もう困ってしまうほどの名曲ぞろいで困ってしまう。グループ内分担も「人間加湿器」「大声」「空手」「暑苦しさ」「侍魂」「KY娘」などバラエティに富んでいて、見ても聴いてもうれしさが止まらない。最近は「ドゥ・ザ・ハーレム・シェイク」という、まるでサム・クックかウィルソン・ピケットか、といいたくなるようなタイトルのパフォーマンスにまで取り組んでいてユーチューブで配信されて世界で11万だったかのひとに見られて国際的な見地ではアプガは“ハーレム・シェイクのグループ”として認知されていたりもする。  なぜ(仮)なのかについても、かいつまんで説明しておいたほうがいいだろう。アプガはいまのところ、メジャーのレコード会社からCDを出していない。すべてインディーズ・リリースだ。こちらとしては「それがどうした」という気もするのだが、アプガにとって目標のひとつがメジャー・デビューであり、それが実現した暁には(仮)をとりたい、というのが共通の意志らしい。「もし今年中にメジャー・デビューできなかった場合は?」という質問に、新井さんは、もうひとつ(仮)をつけてグループ名を「(仮)アップアップガールズ(仮)」にする、と、どこかの取材で述べていた。左右対称だしこれはこれでかっこいいが、身を削るライヴを毎日のように繰り返して猛烈にファンを増やしている途中のアプガである、メジャー・デビューは間違いないとしても、しかし、もしそれが実現したからといって(仮)をとる、というのは当たり前すぎゃしないか。 (仮)アップ(仮)アップ(仮)ガールズ(仮) もしくは (仮)ア(仮)ッ(仮)プ(仮)ア(仮)ッ(仮)プ(仮)ガ(仮)ー(仮)ル(仮)ズ(仮) なんてどうだろう。クールだと思うけれど。もっとも後者の場合、発音しきる前に舌が2、3枚ちぎれてしまいそうだが……。
2013/03/27 00:00
『カムバック・イン・ボストン』
『カムバック・イン・ボストン』
カムバック・イン・ボストン 帰ってきた帝王、ボストンでジャーン Comeback In Boston (Sapodisk)  あくまでもマニア主体の世界ながら、ブートレグが市民権を得、ごくごく日常的に話題に上るというか、あまりに当たり前すぎて逆に話題に上ることが少ないというべきか、ともあれそのような状況をいいことに「売り文句と内容がともなわないヤラセ盤」がまた目につくようになってきた。いわゆるブート初心者を狙い撃ち、あるいはマニアが「買うだけで聴かない人種」であることにつけこんでのトホホ商法、しばらく姿を消していたと思ったら、おいおい。かつてこの種のヤラセ盤はロック物と決まっていたが、昨年あたりからマイルス物も急増、注意を要する。最近ではフィルモア・ライヴ(70/3/6)がコンプリートと銘打って登場したが、すでに出ている音源をコピーしただけのもの。  また「別ソースで最高音質しかもプレス盤」「ピッチも正確」という触れ込みの音源が、じつは既発盤の速度を少しだけ落としたものとか、既発盤と演奏時間も音質もまったく同じものだったりと、そうとうに面倒なことになっている。前述した「マニアは買うだけで聴かない」ことを見抜き、しかも「他レーベルから出たものや既発盤といちいち比較して聴かない」したがって「ウソをついてもバレない」との読みからトホホなブツをリリース、こちらはこちらで困った物件が相次いでいる。この場合、とくに厄介なのは、そうしたブツをつかまされた被害者が自分が被害に遭遇したことに気づかないことで、うーん、悪いことを考える人間は後を絶たないということだろうか。  さてこのライヴは1981年11月4日、奇跡のカムバックをはたしたマイルスがカムバック・バンドとともにボストンはブラッドフォード・ホテルでくり広げたカムバック・ライヴを収録した2枚組。いささか"カムバック"という言葉を躍らせすぎたきらいはあるが、ファースト・セット3曲、セカンド2曲をドッカンと聴けば「やっと帰ってきた感」は天井知らずの勢いで盛り上がり、ついつい"シェーン"ならぬ「マイルス、カ~ムバ~ック」と叫んでみたくなる。もっともマイルスは叫ぶまでもなくこうして帰ってこられたわけですが。  冒頭の"ジャーン"からいつもの《バック・シート・ベティ》に突入するが、そこに至るまでのキーボード叩きがじつに雰囲気があってたまりません。オーディエンス録音なのだろうが、位置がよかったのか、音像もバランスもナマに近く、これは81年カムバック盤のなかでも上位に置いていい。マーカス・ミラーのガチガチ・ベースも怪しく、鮮明。 【収録曲一覧】 1 Back Seat Betty 2 My Man's Gone Now 3 Aida 4 Fat Time 5 Jean Pierre (2 cd) Miles Davis (tp, key) Bill Evans (ss, ts, fl, key) Mike Stern (elg) Marcus Miller (elb) Al Foster (ds) Mino Cinelu (per) 1981/11/4 (Boston)
2013/03/25 00:00
『マイルス・アット・バークリー』
『マイルス・アット・バークリー』
マイルス・アット・バークリー 「オーディエンス録音物は最初で放り出してはいけない」の典型盤 Miles At Berkeley (Sapodisk)  マイルスの新作ラッシュは今年の暑すぎる夏にも衰弱することなく、逆にますますヒートアップする始末。なんでも「暑い夏は熱いマイルスでもっと暑く」という標語が書かれた看板が一部地域の林道に立ったとか立たなかったとか。  今回ご紹介するのは、1985年9月19日、カリフォルニアにある有名なグリーク・シアターでのライヴ。最近登場するマイルスの新作は、前に出ていたような、まだ出ていなかったような、そのあたりの記憶が曖昧模糊となる音源が多いが、このライヴも、これまで出ているようで出ていなかったライヴ。どうもバークリーやらシアターやら、まぎらわしい表記の多発と年代集中型リリース状態が、そういった「奇妙な既視感」を抱かせる要因になっているのだろうと思う。  85年ということで、オープニングは《ワン・フォン・コール/ストリート・シーンズ》に《スピーク》の合わせ技、しかもこの時期特有のスロー・ファンクなグルーヴ感がたまらない。比較的ゆったりしたテンポにのって、マイルスが激しい高音をヒットし、しばらくしてテープで「オッオー」「ウィガッチュワンメイクホンコールウィガッチュ」と、『ユア・アンダー・アレスト』の1曲目で使われたテープがライヴに重なって聴こえてくる。タイミングもバランスもまったく関係なしといわんばかりのムチャな即興的オーヴァーダビングのルーズさが、圧倒的にすばらしい。  次に注意点を。このライヴ、スタート当初は、観客の話し声がかなりうるさく、イラッとさせられる。しかししばらく我慢すれば、話し疲れたのか、会話はやみ、理想的なシチュエーションが訪れる。そしてこのライヴ、オーディエンス録音ならではの広がりと奥行きがあり、音質もバランスもかなり良好な部類に挙げられる。  ここで教訓をひとつ。オーディエンス録音物は、最初で放り出してはいけない。まずはうるさい客のピーチクパーチクに耐えること。オーディエンス録音物を見極めるためには、最初の1分から3分をおろそかにしてはいけない。これまでいかに多くの人が、最初の雑音や騒音で放り出し、そのあとに待ちかまえている驚きのライヴを聴き逃してきたことか。  最後に業務連絡です。22日に『50枚で完全入門マイルス・デイヴィス』(講談社プラスアルファ新書)が出ました。よろしくお願いします。それから25日に出る雑誌ジャズジャパンでの連載のタイトルが「癒されないジャズ考現学」になりました。こちらもよろしくお願いいたします。それでは、残り少ない夏をマイルスでさらに熱く! 【収録曲一覧】 1 One Phone Call / Street Scenes-Speak 2 Star People 3 Maze 4 Human Nature 5 Something's On Your Mind 6 Time After Time 7 Ms. Morrisine 8 Hopscotch 9 Pacific Express Miles Davis (tp, synth) Bob Berg (ss, ts) Mike Stern (elg) Robert Irving (synth) Angus Thomas (elb) Vincent Wilburn (ds) Steve Thornton (per) Marilyn Mazur (per) 1985/9/19 (Berkeley)
2013/03/14 00:00
『ジャン・ピエール・ライヴ1982』
『ジャン・ピエール・ライヴ1982』
ジャン・ピエール・ライヴ1982 かつてこれほど長い《ジャン・ピエール》があっただろうか Jean Pierre Live 1982 (Cool Jazz)  いまにして思えば、復活した帝王が率いていたカムバック・バンドは、ハード・ロック(マイク・スターンのギター)やファンク(マーカス・ミラーのベース)や異国情緒(ミノ・シネルのパーカッション)等が混然一体となった「フュージョン・バンド」ではあったが、そのルーツに「ジャズ」があることが具体的に顕在化した、きわめて珍しいバンドだったのかもしれない。つまりマイルスの復活とは、トランペッターとしてのマイルス個人のジャズへの再接近にとどまらず、バンドを上げてのジャズ回帰だった。しかしながら、そのように聴こえなかったのは、前述したハード・ロックやファンクといったさまざまな要素が巧みに調合され、それまでどこにもなかった「新しいかたちのサウンド」として構築されていたからだろう。  カムバック・バンドはジャズだったという実態に近い仮説に立てば、この1982年カリフォルニア、バークリーにおけるライヴで、あのチャーミングというべきか間が抜けているというべきか《ジャン・ピエール》が30分を超える演奏になったことは不思議でも突発的なことでもなく、ジャズ・バンドとしての素顔がさらけ出された瞬間と考えていいだろう。演奏は即興的に展開し、あれよあれよというまに30分に達する。おそらくマイルス史上、最も長い《ジャン・ピエール》はこのヴァージョンではないだろうか。  以上、いつもとはちょっと違う「ジャズ評論家的文章」で攻めてみましたが、いかがだったでしょうか。内容に関しては特につけ加えるべきことはなく、オーディエンス録音ながら、音質も悪くないと思います。すでに大量に出回っているカムバック・バンドゆえ、ベストともマストともいいかねますが、まずは順当かつ平均点を軽く超えるアイテムであることは間違いありません。  ところで、このコーナーでは、ボブ・ディランより20年遅れてスタートしたブートレグ・シリーズの向上を目的に、定期的に企画を提案していますが、東西「フィルモア」のコンプリート化の次には、どうでしょう、カムバック・バンドのボストン「キックス」のコンプリートというのは。このときのライヴはすべてライヴ・レコーディングされ、加えて大半が撮影されたともいわれています。ライヴの一部は『ウイ・ウォント・マイルス』で聴くことができますが、とてもあの分量では満足できません。いや、これまでは満足してきましたが、もう限界です。連日連夜の白熱のパフォーマンスを完全版としてリリースしていただきたいと、ここで強くリクエストしておきたいと思います。それではまた来週。 【収録曲一覧】 1 Back Seat Betty 2 Ife 3 Aida 4 Jean Pierre Miles Davis (tp, synth) Bill Evans (ss, ts, fl, elp) Mike Stern (elg) Marcus Miller (elb) Al Foster (ds) Mino Cinelu (per) 1982/8/1 (Berkeley)
2013/03/12 00:00
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