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LINE社が福岡へ移転? ホリエモンが語る
LINE社が福岡へ移転? ホリエモンが語る
 約1年9カ月の服役を経て“シャバ”に戻ってきた元ライブドア社長の堀江貴文氏。地元福岡の魅力について、こう話す。 *  *  *  最近、月に1、2回のペースで地元福岡を訪れている。以前よりも頻繁に行ってるかもしれない。  先日も、ネットマーケティング系のイベントでパネルディスカッションしてきたが、数千人の聴衆がつめかけるという前代未聞のイベントとなった。数千人って以前だったら考えられないこと。さらに、その後は九州大学のキャンパスや映画祭でもトークしたりと、福岡が盛り上がっていることは、どうやら間違いなさそうだ。  2年ちょっと前の大震災の時に全線開通した、九州新幹線は感動系のCMで話題になったし、インフラも少しずつ整ってきているのもある。もともと福岡空港は都心から十数分でアクセスできるという他の地域にはない優位性もある。  またエマージングなアジアにものすごく近い。韓国は1時間前後でアクセスできるし、台湾や中国の主要都市も2時間圏内だ、東南アジアも3、4時間でアクセスできる。これからはアジアの時代、実はこんなに利便性の高い都市はないかもしれない。  さて、そんな福岡に成長中のスマートフォン向けメッセージングツール運営企業のLINE社が新しい社屋を造るというニュースが飛び込んできた。ビルを借りるのではなく、自社ビルを建てるのである。  現在、“イケてる”会社の共通項にはデザイン重視の社風がある。アップルしかり、LINE社の親会社NHNもソウルに自社ビルがあり、トイレまで自社のデザイナーがデザインして造っているのだそうだ。  LINEの大ヒット商品であるスタンプも権利者側ではなく、LINEのデザイナーがコントロールして作っているという。だからクオリティーの高いスタンプが続々リリースされるわけだ。彼らが福岡にオフィスを構えるということは、大きな意味を持っているのではないか。つまり、アジアへ向けての拠点として福岡に本社機能を移すことまで視野に入れている可能性がある。  LINE社が、もし福岡に本社を移すとなればIT系の企業が大挙して押し寄せてくる可能性は高い。高島市長は改革派の市長として売り込み中だし、積極的に企業立地を推進していくはずである。もともとのインフラに加えて大震災が少ない土地であることも、今後の企業立地を考える上でプラスになりうる。  もちろんアジアが近いことは前述の通り。私は先日地元の西日本新聞の取材を受けた折に、壮大な構想を話してみた。日韓海底トンネルを造って、そこにリニアモーターカーを走らせ、ソウルと福岡を1時間程度で結ぶ。さらに北朝鮮を通って、中国・大連や北京まで延伸することができれば、商流が大きく変わることは間違いない。  資金調達が課題となるが、そのようなベンチャー企業を作ってファンドから調達して建設することは夢物語ではない。  結論として福岡は今ものすごいポテンシャルを秘めている。実は日本の地方都市の中で一番ポテンシャルが高いのではないか。そう思うのである。 ※週刊朝日 2013年8月2日号
LINE堀江貴文
週刊朝日 2013/07/29 11:30
『アカタマ・エクスピリエンス/ジャン=リュック・ポンティ』
『アカタマ・エクスピリエンス/ジャン=リュック・ポンティ』
アカタマ・エクスピリエンス/ジャン=リュック・ポンティ 名ヴァイオリニストが綴るサウンド・トリップ The Acatama Experience / Jean Luc Ponty  近年ではメジャー・レーベルを舞台に活躍するレジーナ・カーターや、ジャズ・オールスターズの新作をリリースしたナイジェル・ケネディの名前を目にするものの、ジャズ界におけるヴァイオリニストの人材は、他の楽器に比べると決して層が厚いとは言えない。  そんな状況にあって1960年代から活動を続けるフランス人のジャン=リュック・ポンティ(1942年生まれ)は、このジャンルの第一線を走っているトップ・ミュージシャンである。 ポンティというと一般に70年代に名声を高めたフュージョン・プレイヤーのイメージが強いと思う。しかし90年代に入ってアフリカ人を含む欧米混成バンドを結成し、新たな音楽性を獲得。この新作はチリ北部のアタカマ砂漠(パッケージ表記は“Acatama”)を訪れた体験を創作のモチーフとして生まれたものだ。自然をテーマにしているだけに、雄大で大らかなサウンドが全体を貫いており、テクニカルな部分を超えてヒューマンな温かさと躍動感のあるヴァイオリン演奏が魅力となっている。ゲストのアラン・ホールズワースとフィリップ・カテリーンも、聴けばすぐにわかるプレイでアルバムに貢献。「あの頃のポンティ」でイメージが止まっているジャズ・ファンなら、目から鱗が落ちること間違いなしの新鮮な音楽体験が保証できる。 【収録曲一覧】 1.Intro 2.Parisian Thoroughfare 3.Premonition 4.Point Of No Return 5.Back In The 60’s 6.Without Regrets 7.Celtic Steps 8.Desert Crossing 9.Last Memories Of Her 10.The Acatama Experience 11.On My Way To Bombay 12.Still In Love 13.Euphoria 14.To And Fro ジャン=リュック・ポンティ(vln,key): Jean-Luc Ponty (allmusic.comへリンクします) →ヴァイオリン奏者/1942年9月29日 William Lecomte(p,key) Guy Nsangue Akwa(el-b) Thierry Arpino(ds) Taffa Cisse(per) Allan Holdsworth,Philip Catherine(g)
2013/05/22 00:00
『ワン・ナイト・イン・タンペレ/トリオ・トウケアット』
『ワン・ナイト・イン・タンペレ/トリオ・トウケアット』
ワン・ナイト・イン・タンペレ/トリオ・トウケアット フィンランドが誇るメチャウマ・トリオのライヴ作 One Night In Tampere / Trio Toykeat  フィンランドにも他の北欧諸国と同じく、様々なタイプのジャズがあるが、国単位で見るとスウェーデンやノルウェーのような明確なカラーには欠ける印象が否めない。北欧人にヒアリングしたところ、シャイな人が多いとの情報を得た。それが理由の1つかもしれないが、今回ご紹介するトリオ・トウケアットは、そんなフィンランド・ジャズのイメージを打ち破る音楽性を兼ね備えたユニットである。  2003年に行われた東京のホール・コンサートで観客に衝撃を与え、2005年には愛知万博に出演。これまでに7枚のアルバムをリリースしており、来年には結成20周年を迎える長寿トリオだ。初のライヴとなる本作はリーダーでピアニストのイーロ・ランタラの自作曲とジャズ・スタンダードが2本柱のプログラム。彼らの魅力はまずランタラの超絶テクニックにあるのだが、ユーモア・センスにも富んでいるため、「凄いミュージシャンなのに親しみやすい」という感覚を抱かせる。人間に可能な最速トリオ・サウンドを極めたといっても過言ではない《ファイナル・ファンタジー》や、次々と場面が転換する様が痛快な《カラテ》はこのトリオの真骨頂だ。他にも《イン・ア・センチメンタル・ムード》のようなしっとりと聴かせるバラードも用意されているのでご安心を。ラスト・ナンバーの冒頭、ピアノ独奏のパートで観客の1人がクシャミをすると、客席から笑いが起こる。構わず演奏は進み、アルバムにも収録された。そんな大らかさもまた楽しい。 【収録曲一覧】 1. Voyage 2. Perfect Make Out Music 3. Final Fantasy 4. Some Other Time 5. Happy Hour 6. Karate 7. In A Sentimental Mood 8. I Remember Clifford 9. Insane In Seine トリオ・トウケアット (allmusic.comへリンクします) イーロ・ランタラ:Iiro Rantala(p) エーリック・シーカサーリ:Eerik Siikasaari(b) ラミ・エスケリネン:Rami Eskelinen(ds)
2013/05/22 00:00
『ライヴ・イン・ジャパン/エンリコ・ピエラヌンツィ』
『ライヴ・イン・ジャパン/エンリコ・ピエラヌンツィ』
ライヴ・イン・ジャパン/エンリコ・ピエラヌンツィ 感動で震えた夜が昨日のようによみがえる、当代ピアノ・トリオの最高峰 Live In Japan / Enrico Pieranunzi, Marc Johnson, Joey Baron  待望の再登場である。2004年に実現し、同年8月に国内リリースされたエンリコ・ピエラヌンツィの初来日公演の2枚組ライヴ・アルバムだ。現在は同作が入手困難になっている状況にあって、本家イタリアのCAM Jazzが復刻作業に立ち上がった。  というか、日本に続いてエンリコの母国でも予定されていた世界市場へ向けてのリリース・スケジュールが、少し遅れて実行されたというわけである。  しかしファンにとっては待った甲斐のある特典が加えられているとなれば、日本盤の購入者も見逃せないはずだ。ディスク1の冒頭に日本盤では聴けないバラード曲「オーロラ・ジャポネーゼ」が収録されているのである。この1曲だけのためにダブリ覚悟で買うのがファンというものだろう。アートワークも刷新されているので、その価値は十分あると思う。  さて肝心の中身だが、この時のコンサートを生で体験したファンとして言いたいのは、インプロヴァイザー=エンリコ・ピエラヌンツィの凄みをまざまざと見せ付けられたということだ。この年、結成から20周年という節目を迎えた彼ら(欧米ではメンバーの頭文字をとってPJBトリオと呼称される)が、それまでの活動の集大成を初めて踏んだ日本のステージで全開にしてくれた。ジョンソンもバロンもエンリコと共演する時は特別な化学反応を打ち出す。感動で震えた夜が昨日のよう。当代ピアノ・トリオの最高峰の姿がここにある。 【収録曲一覧】 Disc-1 1. Aurora Giapponese 2. Impronippo 3. How Can You Not? 4. If Only For A Time 5. Mio Caro Dotter Grasler 6. Musashi 7. Improleaves Disc-2 1. Winter Moon 2. Broken Time 3. Tokyo Reflections 4. Nuovo Cinema Paradiso 5. Ninfa Pelebea 6. When I Think Of You 7. Improminor エンリコ・ピエラヌンツィ:Enrico Pieranunzi(p) (allmusic.comへリンクします) マーク・ジョンソン:Marc Johnson(b) ジョーイ・バロン:Joey Baron(ds)
2013/05/21 00:00
『ライヴ・イン・ハンブルク/e.s.t.』
『ライヴ・イン・ハンブルク/e.s.t.』
ライヴ・イン・ハンブルク/e.s.t. 世界レヴェルで最も成功したスウェーデン産トリオのライヴ Live In Hamburg / e.s.t.  日本では90年代末に輸入盤市場で注目され始めたe.s.t.は、今や世界レヴェルで最も成功したスウェーデン産トリオの評価を獲得している。アコースティック・サウンドを基調としながらエフェクターも導入した音作りと、従来型のスタイル(テーマ~ソロ・リレー~テーマ)から脱却したトリオ・コンセプトは、世紀が新しくなった時代の空気を象徴するものとして、北欧からヨーロッパ全土、さらに日米へと支持を広げてきた。  これは彼らの12年ぶりとなるライヴ・アルバムで、初めての2枚組だ。2006年リリース作『チューズデイ・ワンダーランド』の収録曲を中心としたツアーから、ドイツでのステージを完全収録。約2時間の演奏を一気に聴いてわかった。曲順はそのままに、ノー・カットでアルバム化するからこそ意味があるのだと。1曲あたりの演奏時間が長く、しかも区切りなしで28分間、2曲連続のトラックもあり、このプログラムを丸ごとパッケージするのが、現在のe.s.t.を伝える最上の手段だと結論づけられる。3人が一体感を増しながら緊張感を高めて、ドラマティックなクライマックスを迎え、さりげなくピリオドを打つ《ザ・ルーブ・シング》のニクイ演出。キース・ジャレット・アメリカン・カルテットを想起させるメロディーを要所で繰り出し、電気的処理をしたウッド・ベースを経てエンディングへ向かう《デフィニション・オブ・ア・ドッグ》は、フィニッシュの瞬間、ぞくぞくするほどの興奮を呼び起こす。斬新さと独創的な創造性をこれだけのクオリティを保ちながらライヴで実現させたことが素晴らしい。今年1月の来日公演の感動が甦る強力作だ。 【収録曲一覧】 Disc 1: 1. Tuesday Wonderland 2. The Rube Thing 3. Where We Used To Live 4. 800 Streets By Feet 5. Definition Of A Dog Disc 2: 1. The Goldhearted Miner 2. Dolores In A Shoestand 3. Sipping On The Solid Ground 4. Goldwrap 5. Behind The Yashmak エスビョルン・スヴェンソン:Esbjorn Svensson(p) (allmusic.comへリンクします) ダン・ベルグルンド:Dan Berglund(b) マグヌス・オストロム:Magnus Ostrom(ds) 2006年11月録音
2013/05/21 00:00
『レヴォリューションズ/ジム・ベアード』
『レヴォリューションズ/ジム・ベアード』
レヴォリューションズ/ジム・ベアード ベテランアレンジャーの集大成 Revolutions / Jim Beard  1985年にニューヨークへ進出して以来、鍵盤奏者&プロデューサーとしてジャズ、フュージョン、ポップスで数多くの仕事をしてきたのがジム・ベアードだ。これまで国内盤を含む数枚のリーダー作がリリースされているわけだが、日本ではどちらかと言うと裏方的なイメージが強いのはこの人らしいキャラクターなのだと思う。最新の話題ではスティーリー・ダンのウォルター・ベッカーが久々にリリースした個人名義作『サーカス・モンキー』にも、キーボーディストとしてクレジットされていた。  本作はそんなベアードが満を持して世に問うニュー・アルバムだ。これは決して大げさな表現ではない。過去のアルバムから選りすぐりのオリジナル曲を、オーケストラと共に拡大バージョンでリメイクするというプロジェクト作。2005&2007年の2度の大掛かりなセッションを実現させた3年越しの企画という事実に、ベアードのたゆまぬ情熱が明らかだ。2003年ノース・シー・ジャズ祭のハイライトとなったパット・メセニーのステージ・サポートを始め、欧州ジャズ交響楽団の最高峰としての実績が確かなメトロポール楽団は、このベアードとの共演作においても最高のマリアージュを示している。《ホリデイ・フォー~》はまさに夢とファンタジーに溢れるサウンド・アドベンチャーの幕開けを告げるトラック。聴き進めるにしたがってこれは60~70年代に名前を残したドン・セベスキー、クラウス・オガーマンといったアレンジャーに、その現代版としてベアードも名を連ねる1枚なのではないかとの感を深くした。多種多彩な仕事で培ったノウハウをすべて詰め込んだベアードの、キャリアの集大成と呼ぶべき記念碑がここに誕生した。 【収録曲一覧】 1.Holiday For Pete & Gladys 2.Hope 3.Diana 4.Lost At The Carnival 5.Holodeck Waltz 6.Princess 7.In All Her Finery 8.Parsley Trees 9.Trip 10.Crossing Troll Bridge ジム・ベアード:Jim Beard(p,syn) (allmusic.comへリンクします) ボブ・マラック:Bob Malach(ts) ビル・エヴァンス:Bill Evans(ss) ジョン・ヘリントン:Jon Herrington(g) ヴィンス・メンドーサ:Vince Mendoza(cond) メトロポール・オーケストラ:The Metropole Orchestra 2005、2007年オランダ録音
2013/05/16 00:00
『フル・コンタクト/ユメール~キューン~マラビー』
『フル・コンタクト/ユメール~キューン~マラビー』
フル・コンタクト/ユメール~キューン~マラビー 知性と力技のフランス盤 Full Contact / Humair-Kuhn-Malaby  常日頃から感じているのは、著名ドラマーが意外に長寿である事実だ。ポール・モチアン、チコ・ハミルトン、ロイ・ヘインズはいずれも保守派ではない70歳超の現役。昨年他界したマックス・ローチは、享年83歳だった。ヨーロッパ勢も負けてはいない。アレックス・リール(1940~)やアルド・ロマーノ(1941~)はつい最近相次いで新作をリリースした。今回は彼らと同世代のスイス人ドラマー、ダニエル・ユメールを紹介したい。  今年5月に70歳を迎えたユメールは、メインストリームからフリーまでの振幅の広い守備範囲によって、欧州最高の名声を獲得しているドラマーだ。本作は3人の連名によるトリオだが、実質的なリーダーシップを執ったのはユメールだと考えていい。まず3人の顔ぶれが興味をひく。ユメールとキューンは80~90年代にジャン・フランソワ・ジェニ・クラーク(b)と共に、欧州最強トリオの名誉を獲得した重量級。98年にジェニ・クラークが他界してからは別々の道を歩んでおり、本作は2人の再会作とも位置づけられる。  このベテラン2人に絡むのが、息子ほど年下のアメリカンであるマラビーというのも面白い。3者の関係は経験豊富な欧州のマスターと、最先端のNYシーンを体現するマラビーとのトリオ。  ポップ・アート系の美術家に触発された即興曲《ジム・ダイン》、ピアノ&ドラムスのデュオ場面ではあのトリオが甦る《フル・コンタクト》、ユニゾン・ペアが交代しながら密度を深める《Ghislene》と、ユメールの立場から見れば節目の年に新しいミュージシャンとの共演によって、これまでとは違うトリオ・サウンドに挑んだ気持ちがあったはず。その結果はユメールとキューンを知るファンの期待を裏切らない個人技が堪能できることに加えて、マラビー・ファンにはいつもと趣の異なる表情を味わえるのが収穫となった。知性と力技を両立させる好例を聴くことができるフレンチ・レーベルからの1枚だ。 【収録曲一覧】 1. Buried Head 2. Jim Dine 3. Full Contact 4. Oasis 5. Ghislene 6. Salinas 7. Effervescent Springbox 8. Sleeping Angels ダニエル・ユメール:Daniel Humair(per) (allmusic.comへリンクします) ヨアヒム・キューン:Joachim Kuhn(p) トニー・マラビー:Tony Malaby(ts) 2008年1月録音
2013/05/16 00:00
『ヨーロピアン・スタンダーズ/ヤン・ラングレン』
『ヨーロピアン・スタンダーズ/ヤン・ラングレン』
ヨーロピアン・スタンダーズ/ヤン・ラングレン 意外性に満ちたユニットの結晶 European Standards / Jan Lundgren  近年ヤン・ラングレンの音楽活動は、自身が40歳を迎えたこととも関係するかのように、新しいステージに突入している。振り返れば94年にアルバム・デビューしたラングレンは、数年後に日本のレコード会社の制作によるリーダー作をリリース。たちまち北欧新世代正統派ピアニストとして認知された。今世紀に入っても日本との制作関係は良好を保っており、タイプは異なるがe.s.t.のエスビヨルン・スヴェンソンと並ぶスウェーデンの代表格と呼ぶに十分な実績を残してきたことは疑いない。  ラングレンの新展開とは、ドイツ屈指のコンテンポラリー・ジャズ・レーベルACTとの関係が始まったことだ。母国の女性歌手イダ・サンド作への参加を皮切りに、2007年にはパオロ・フレス(tp)+リシャール・ガリアーノ(accordion,bandoneon)との共同名義作を録音。ラングレンにとっては初めての編成となる国際トリオの『マレ・ノストラム』は、3人のキャリアと音楽性の相違点を参照すれば意外性に満ちたユニットだが、彼らに共通する表現美が結晶した内容で、ラングレンの幅を広げる形となった。  本作はラングレンの個人名義では初めてとなるトリオ・アルバムである。97年に母国の古謡などを集めた『スウェディッシュ・スタンダーズ』で高い評価を得たラングレンが、レパートリーを拡大したコンセプト作だ。トラディショナル限定ではなく、ロックや映画音楽もカヴァーする10ヵ国13曲で構成。メンバー既知のナンバーだけでなく、このプロジェクトのための選曲過程で知った楽曲も採用して、ヴァラエティー度が増したのも特徴である。ファンであるほど本作に驚かされる要素が多いはずだ。オープニングにクラフトワークを持ってきた意外性。電気的処理を加えたウッド・ベースやクラップで、早くも新味を打ち出す。テーマ・アレンジがさりげなく面白いミシェル・ルグラン曲#2、次々とリズムを変化させて現代的センスを表現するビートルズ曲#3、エレクトリック・ピアノで映画のイメージと重なるアンニュイなムードを醸し出す#7、ポーランドが生んだ最も偉大なピアニスト&作曲家クリストフ・コメダの代表曲を、優美かつメランコリックに綴った#11と、それぞれには関連性のない楽曲を、ラングレンのカラーで描いていて統一感を打ち出しているのが収穫だ。エスビョルン・スヴェンソンの#13を、本作唯一のピアノ独奏でカヴァーして、静かに幕を閉じるのも味わい深い。 【収録曲一覧】 1. Computer Liebe 2. Les Moulins De Mon Coeur 3. Here,There And Everywhere 4. A Csitari Hegyek Alatt 5. Stets I Truure 6. Yo Vivo Enamorao 7. Un Homme Et Une Femme 8. Reginella 9. Il Postino 10. September Song 11. Rosemary’s Baby 12. Wien,Du Stadt Meiner Traume 13. Pavane ? Thoughts Of A Septuagenarian ヤン・ラングレン:Jan Lundgren(p,key) (allmusic.comへリンクします) マティアス・スヴェンソン:Mattias Svensson(b) ゾルタン・ソルツJr.:Zoltan Csorsz Jr.(ds,per) 2008年10月イタリア録音
2013/05/13 00:00
『ピープル・タイム:ザ・コンプリート・レコーディングス/スタン・ゲッツ&ケニー・バロン』
『ピープル・タイム:ザ・コンプリート・レコーディングス/スタン・ゲッツ&ケニー・バロン』
ピープル・タイム:ザ・コンプリート・レコーディングス/スタン・ゲッツ&ケニー・バロン 白人テナーの巨星が、なくなる3ヶ月前に残した遺作 People Time: The Complete Recordings / Stan Getz & Kenny Barron  1992年にリリースされた2枚組『ピープル・タイム』は、その前年に他界したスタン・ゲッツの有終の美を飾る遺作となった。今回登場した7枚組は大量の未発表音源と共に、同日のセッションを集大成したボックス・セットである。  まずはデータを整理しておこう。コペンハーゲンの名店「カフェ・モンマルトル」で91年3月3日から6日までの4日間、各日2セット(最終日のみ1セット)が行われ、各セットをCD1枚に収録。全51トラックはアナウンスとチューニングを除く楽曲演奏が48曲で、2枚組の既出14曲を除くと34曲が今回の発掘音源だ。  連日のクラブ・ライヴゆえ、同一曲を複数演奏している。その一方、《アリソンズ・ワルツ》《枯葉》《ユアーズ・アンド・マイン》《ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラヴ・イズ》《ユー・ステップト・アウト・オブ・ア・ドリーム》《アイ・ウイッシュ・ユー・ラヴ》《コン・アルマ》《ジ・エンド・オブ・ア・ラヴ・アフェア》《ウイスパー・ノット》《バウンシング・ウィズ・バド》と、2枚組には未収録の10曲がやはり興味津々だ。デュオ・パートナーを務めたケニー・バロンは、ゲッツ・カルテットのレギュラー・メンバーでもあったピアニスト。当時45年のレコーディング・キャリアを持っていたゲッツは極端にデュオ作が少なく、アルバート・デイリー盤と、半数で共演したジミー・ロウルズ盤の2例にとどまる。その意味でもゲッツ&バロンのデュオが、いかに特別なプロジェクトだったがわかるだろう。  隠れ名曲を教えてくれたゲッツのセンスに拍手を送りたくなるアラン・ブロードベント曲《アリソンズ~》、60年代に世界的なボサノヴァ・ブームの火付け役を演じたキャリアがイントロのアレンジに重なる《アイ・ウイッシュ~》、この曲の作曲者であり50年代の盟友ディジー・ガレスピーに対するゲッツの思いがバロンの力演を喚起した《コン~》、デュオ用の巧みなテーマ・アレンジとバップ・スピリットに引き込まれる《バウンシング~》。本セッション中、最長の13分45秒を記録したサド・ジョーンズ曲《ユアーズ~》は、果てしない感動の波を与えてくれる名演だ。身近で接していたバロンが不調を感じていたにもかかわらず、ここでのゲッツの演奏にはそのような不安はまったく感じられない。わずか3ヵ月後にこの世を去るとは思えない白人テナー巨星の矜持が、これらの演奏を可能にしたのだ。 【収録曲一覧】 Disc 1 1. Stan Getz Announcement 2. I’m Okay 3. Gone With The Wind 4. First Song 5. Allison’s Waltz 6. Stablemates Disc 2 1. Autumn Leaves 2. Yours And Mine 3. (There Is No) Greater Love 4. People Time 5. The Surrey With A Fringe On Top 6. Soul Eyes Disc 3 1. Tuning 2. You Don’t Know What Love Is 3. You Stepped Out Of A Dream 4. Soul Eyes 5. I Wish You Love 6. I’m Okay 7. Night And Day Disc 4 1. East Of The Sun 2. Con Alma 3. People Time 4. Stablemates 5. I Remember Clifford 6. Like Someone In Love 7. First Song 8. The Surrey With A Fringe On Top 9. Yours And Mine Disc 5 1. The End Of A Love Affair 2. Whisper Not 3. You Stepped Out Of A Dream 4. I Remember Clifford 5. I Wish You Love 6. Bouncing With Bud 7. Soul Eyes 8. The Surrey With A Fringe On Top Disc 6 1. East Of The Sun 2. Night And Day 3. First Song 4. Like Someone In Love 5. Stablemates 6. People Time Disc 7 1. Stan Getz Announcement 2. Softly As In A Morning Sunrise 3. I Wish You Love 4. Hush-A-Bye 5. I’m Okay 6. Con Alma 7. Gone With The Wind 8. The Surrey With A Fringe On Top 9. Night And Day スタン・ゲッツ:Stan Getz(ts) (allmusic.comへリンクします) ケニー・バロン:Kenny Barron(p) (allmusic.comへリンクします) 1991年3月コペンハーゲン録音
2013/05/10 00:00
『ネヴァー・キャン・セイ・グッドバイ/トレインチャ・オーステルハイス』
『ネヴァー・キャン・セイ・グッドバイ/トレインチャ・オーステルハイス』
ネヴァー・キャン・セイ・グッドバイ/トレインチャ・オーステルハイス アイデアがたくさん詰まったこのマイケル・トリビュート作 Never Can Say Goodbye / Trijntje Oosterhuis  2枚のバート・バカラック集が評判を呼び、バカラックの東京公演にもゲスト出演したオランダの歌姫だ。ライオネル・リッチーの新作『ジャスト・ゴー』に参加したことでも、活動の場を広げている。  この新作は昨年リリースされた2枚組ライヴ『Ken Je Mij』と同じく、ギタリスト=レオナルド・アムエドとのデュオ。前作は過去のスタジオ作を踏まえて、バカラック・ナンバーを中心とする選曲だった。  では果たして今作は? 昨年6月25日の悲劇的な出来事が、アルバム制作のきっかけとなったという。少女時代からファンだったトレインチャにとってマイケル・ジャクソン急逝で受けた衝撃が、計り知れないものだったことは疑いない。しかし悲しみのどん底の日々はやがて、追悼作の企画立案へと方向転換。現パートナーとの共同プロデュースにより、本作が完成したというわけだ。  長年の熱烈なファンだけあって、ジャクソン・ファイヴ時代からソロ・アルバムまでのレパートリーから選曲。それにしてもマイケル・トリビュート作にヴォーカル&ギターだけで挑むのは、いかにもハードルが高い。人脈をフル活用して、特別に豪華なプロジェクトを組むことも可能だったはずだ。しかしこの最小編成にこだわった理由を探れば、現在の等身大のレギュラー・ユニットでこの大テーマを自分らしく実現させることを優先させたのではないだろうか。 『スリラー』収録曲#2だけで、このプロジェクトに臨んだトレインチャの、揺ぎ無い信念が感じられる。バック・ヴォーカルを自らの多重録音で作り込んだのも、自分らしさを表現するためのこだわりに違いない。聴き進めればギターも多重録音だと明らかになって、いよいよ本作はトレインチャとアムエドとの密なコミュニケーションから生まれた成果だと実感できる。  高揚感満点のメドレー#8に進むと、トレインチャは最小編成で最大の効果を生むというハードルを自らに課したのではないかとも思えてくる。キャンディ・ダルファーの助演が嬉しい。同業者にとっては利用できそうなアイデアがたくさん詰まったこのマイケル・トリビュート作。そのオリジネイターであるトレインチャの名誉は、ここにしっかりと刻み込まれた。 【収録曲一覧】 1. Never Can Say Goodbye 2. Baby Be Mine 3. Music & Me 4. Lady In My Life 5. I Want You Back 6. One Day In Your Life 7. I Just Can’t Stop Loving You 8. Don’t Stop Till You Get Enough/Working Day & Night/Wanna Be Startin’ Somethin’ 9. Can’t Help It 10. Rock With You 11. Human Nature 12. I’ll Be There 13. You Were There トレインチャ・オーステルハイス:Trijntje Oosterhuis(vo) (allmusic.comへリンクします) レオナルド・アムエド:Leonardo Amuedo(g) キャンディ・ダルファー:Candy Dulfer(sax) 2009年オランダ録音
2013/05/08 00:00
『イマジン・プロジェクト/ハービー・ハンコック』
『イマジン・プロジェクト/ハービー・ハンコック』
イマジン・プロジェクト/ハービー・ハンコック 世界には素晴らしいミュージシャンがたくさんいるというメッセージ The Imagine Project / Herbie Hancock  本年度屈指の話題作であることは間違いない。前作『リヴァー』が2007年度グラミー賞《最優秀アルバム賞》にノミネート。それだけでも名誉なことだが、大方の予想を覆して全ジャンル対象の同賞を獲得したのだから、これはジャズ史に残る出来事だと大騒ぎになったのは周知の通りだ。何しろジャズ・ミュージシャンが同賞を受賞したのが、64年度の『ゲッツ/ジルベルト』以来、実に43年ぶりだったのだから無理もない(《コンテンポラリー・ジャズ》部門も同時受賞)。グラミーの節目でもある第50回開催年度の受賞者となったことも、価値を高めた。音楽家としてのステージをさらに押し上げたハービーの、次の展開に世界中の注目が集まる中、3年間を経てリリースされるのが本作というわけである。  さぞかし重圧がかかっていたことだろう。ハービー自身がそれを意識したかどうかはわからないが、その難題を容易にクリアでき、しかも多くの人々から共感を得られるアルバム・コンセプトが立案された。 「世界規模での協力がもたらす平和への美しき道筋の威力と素晴らしさを示す試み」(ハービー)。  自己の人脈をフルに活用して多彩なジャンルのミュージシャンを起用し、世界各地でのレコーディングを重ねて完成させたアルバムだ。同時に映像作品の制作も行われたことを含めて、グローバルな視点を導入した全体のプロジェクトは、進取の精神に富むハービーらしい内容と言える。  70~80年代は鍵盤楽器の技術革新と同期する形で、ジャズ/フュージョン・シーンの最先端を走った。その後のハービーはキーボードそのものの可能性を追求するのではなく、他ジャンルのミュージシャンとの交流を深めながら総合的なサウンド・プロデューサーとして自己演出する道を歩んできた。  本作はアヌーシュカ・シャンカール、シール、ピンク、ジョン・レジェンド、フアネス、ジェフ・ベック、デイヴ・マシューズ、デレク・トラックス、チャカ・カーン、ティナリウェン、ロス・ロボス、インディア・アリー等々、協力者の名前のリストが名シェフ=ハービーの卓越した腕前を期待させ、それを裏切らない仕上がりになっている。1曲ごとに解説すれば紙数が足りないが、ジェームズ・モリソン歌唱曲#9のハービー・トリオや、ラヴィ・シャンカールの娘アヌーシュカ+ウェイン・ショーターの#10におけるシタール~ソプラノサックス~ピアノの掛け合いなど、ジャズ・ファンにも興奮が必至の場面があるのでご安心を。全曲ヴォーカル・ナンバーで、前作に引き続きカヴァー曲集であることが、オリジナル曲を期待する向きには気になるポイントか。ジャズ・ファンの立場からすると、本作は世界では素晴らしいミュージシャンがたくさん活躍している、とのハービーからのメッセージだと受け止めるべきだと思う。 【収録曲一覧】 1. Imagine 2. Don’t Give Up 3. Tempo De Amor 4. Space Captain 5. The Times They Are A Changin’ 6. La Tierra 7. Tamatant Tilay / Exodus 8. Tomorrow Never Knows 9. A Change Is Gonna Come 10. The Song Goes On ハービー・ハンコック:Herbie Hancock(p,key) (allmusic.comへリンクします) ジェフ・ベック:Jeff Beck(g) ウェイン・ショーター:Wayne Shorter(ss) マーカス・ミラー:Marcus Miller(b) シール:Seal(vo) チャカ・カーン:Chaka Khan(vo) ティナリウェン:Tinariwen(group) 2010年作品
2013/05/08 00:00
『ライヴ/ジェリ・アレン&タイムライン』
『ライヴ/ジェリ・アレン&タイムライン』
ライヴ/ジェリ・アレン&タイムライン 今、“来てる”ピアニストのトリオ+タップ・ダンサーの初アルバム Live / Geri Allen & Timeline  早くも届いたジェリ・アレンの新作だ。前作『フライング・トゥワード・ザ・サウンド』がリリースされたのが今年の3月。同作はリン・アリエールやライアン・コーハンの秀作を生んだMotema Musicからの移籍作で、85年の『ホームグロウン』以来のピアノ独奏作である。  コンセプトの異なるアルバムが矢継ぎ早に登場した背景には、契約した同レーベルが改めてアレンの売り出しに乗り出したということなのだろう。  メジャー系のTelarc(上原ひろみも在籍)でデイヴ・ホランド、ジャック・ディジョネットら著名ミュージシャン参加の2枚を制作した後の移籍という事実を踏まえると、これはアーティストとレーベルの双方にとって幸福なマリアージュだと思える。  本作はトリオ+タップ・ダンサー(クレジットは「タップ・パーカッション」、以下タップ)によるアレンのグループ“タイムライン”の、初めてのアルバムだ。  実はアレンとタップとの歴史は意外に長い。86年のリーダー第3弾『オープン・オン・オール・サイズ・イン・ザ・ミドル』は電気鍵盤を導入し、スティーヴ・コールマンを含むオクテットで斬新な音世界を展開したアレンの初期重要作であり、ここにタップが加わっていた。以降アルバム上でアレンとタップが絡むことはなかったのだが、2004年にインタヴューした時に、「そのプロジェクトは継続していて、時々ヨーロッパでライヴを行っている」と聞き、活動の柱であると認識したのだった。  日本ではほとんど知られていなかったタイムライン、ぼくは昨年5月にノルウェー、ベルゲンで開催された「Nattjazz」で観ている。単にトリオにダンスをフィーチャーしただけではなく、タップの視覚的な効果を狙いながら、パーカッション奏者としての役割を兼ねて、バンド・サウンドを躍動させた。個人的には1年前の追体験をしながら、本作を楽しんだ次第。  曲名が興味深い15分超の#1は、10分過ぎに訪れるクライマックスのピアノ・ソロにタップが加わり、ドラムス&タップの掛け合いからデュオへと発展。マイルス・デイヴィスが50年代に採用して有名になった#6は、ドラムス&タップでスタートするアイデアが秀逸だ。歴史のあるジャズとタップの関係にあって、現在では少数派であるこのジャンルをアレンがこだわって継続している営為が、本作でクローズアップされよう。前作で再表明したマッコイ・タイナーとハービー・ハンコックに由来する自己のルーツを、入魂のピアノ・プレイで昇華させたピアニスト=アレンの凄みが体感できるのも収穫。  今、ジェリ・アレンは“来てる”。 【収録曲一覧】 1. Philly Joe 2. Four By Five 3. The Western Wall/Soul Eyes 4. LWB’s House 5. Embraceable You/Loverman 6. Ah Leu Cha 7. In Appreciation ジェリ・アレン:Geri Allen(p) (allmusic.comへリンクします) ケニー・デイヴィス:Kenny Davis(b) カッサ・オーヴァーオール:Kassa Overall(ds) モーリス・チェスナット:Maurice Chestnut(tap per) 2009年2月、米オバーリン、ポートランドで実況録音
2013/05/08 00:00
『ミラー/チャールス・ロイド』
『ミラー/チャールス・ロイド』
ミラー/チャールス・ロイド 過去作で取り上げた曲を、敢えてスタジオ作で再びカヴァーする意図は? Mirror / Charles Lloyd  2年半ぶりのリリースとなるチャールス・ロイドの新作だ。前作『ラボ・デ・ヌーベ』は2007年スイスでの実況録音で、メンバーを新世代に刷新した“ニュー・クァルテット”だった。これは同作がお披露目となり、その後ステージ活動を重ねてバンドとしての成熟度を高めてきた中での、同じメンバーによるスタジオ吹き込みである。  1曲を除く全曲がロイドのオリジナルだった前作とは異なり、今作はヴァラエティ豊かな選曲が特色だ。以前から親近感を示していたトラディショナル・ナンバーとロイドの自作曲が、最多の各4曲。両者には共通点があって、過去作で取り上げたり、アルバム・タイトルにもなっている楽曲の再演を含む。ライヴではなくスタジオ作で敢えて再びカヴァーする意図は、共演者や楽器編成の違いが、今の自分の音楽を表現できるから、なのだろう。  例えば「川は広い」の邦題がある英国古謡の#9は、99年録音の同名作ではジョン・アバークロンビーのギターをフィーチャーしたバラードだったが、今作ではミディアム・テンポのゴスペル風味。60年代に若者から絶大な支持を得た頃の雰囲気を想起させるのがユニークだ。  #10が2002年録音作『リフト・エヴリ・ヴォイス』収録ヴァージョンでは約3分のシンプルな演奏だったのに対して、今作ではロイドが主旋律を吹きつつ他の3人がフリー・モードで展開し、ロイドもそこに加わって激しく燃え上がる、といった具合。  オープニングを飾る本作中唯一のバラード・スタンダード#1はドラムレス仕様で、サックス&ベースやピアノ&ベース・デュオの場面も盛り込み、他の収録曲とは趣を変えている。近年テナーと持ち替えで吹くことがあるアルト・サックスにも独特な味わいがあって、ロイドの魅力を拡大していることは間違いない。  本作中、最も異色の選曲と言えるのが、ビーチ・ボーイズ66年の傑作『ペット・サウンズ』収録曲の#5。実は両者には接点があって、ビーチ・ボーイズがリヴァイヴァル的に再注目された時期の76年作『15ビッグ・ワンズ』に、ロイドが参加しているのだ。テーマの演奏を聴けば、ロイドが原曲のエッセンスを消化した上で自分らしく翻案したことが明らかであり、アルバムの統一感を損なわない仕上がりと言える。  ECM初録音作『フィッシュ・アウト・オブ・ウォーター』のリリースから、今年で20年。ヤン・ガルバレク、ジョン・サーマンと並ぶ同レーベルの代表的サックス奏者と認知されるロイドの、充実ぶりを示す新作である。 【収録曲一覧】 1. I Fall In Love Too Easily 2. Go Down Moses 3. Desolation Sound 4. La Llorona 5. Caroline, No 6. Monk’s Mood 7. Mirror 8. Ruby, My Dear 9. The Water Is Wide  10. Lift Every Voice And Sing 11. Being And Becoming, Road To Dakshineswar With Sangeeta 12. Tagi チャールス・ロイド:Charles Lloyd(ts,as,vo) ジェイソン・モラン:Jason Moran(p) リューベン・ロジャース:Reuben Rogers(b) エリック・ハーランド:Eric Harland(ds,vo) 2009年12月カリフォルニア録音
2013/05/07 00:00
『セカンド・サイド/ブランディ・ディスターヘフト』
『セカンド・サイド/ブランディ・ディスターヘフト』
セカンド・サイド/ブランディ・ディスターヘフト ゲスト・ヴォーカリストも魅力的なカナダの若手女性ベーシストの2作目 Second Side / Brandi Disterheft  カナダの若手女性ベーシストである。まずこのCDを入手するまでのプロセスを紹介したい。  昨年6月、カナダの《バンクーバー・ジャズ・フェスティヴァル》から招待を受けて、取材をした。同祭はコンサート・ホールから小規模のクラブまでのインドア会場と、無料の野外ステージで開催。バンクーバー発祥の地で、現在は観光名所となっているギャスタウンでのフリー・ライヴで観たのがブランディ・ディスターヘフトである。トランペット&テナーを含むクインテットのリーダーとして、ウッドベースでバンドを牽引する力強い演奏を披露。ヴォーカルもこなす才能にエスペランサ・スポルディングが重なり、新星との出会いを嬉しく思った。  帰国後、2007年の初リーダー作『デビュー』を入手し、作曲センスを合わせた総合的な実力を確認できた。その時に第2弾が2009年秋にリリースされるとアナウンスされ、ぼくの中での期待が高まっていた。ブランディのHPにも情報がアップされたので、ほどなく輸入盤が日本の店頭に並ぶものだと思っていたが、いつまで経ってもその気配がない。カナダ・アマゾンでは販売中だったので注文しようかと思ったが、送料の高さに断念した。  そして今年4月、ようやくHMVオンラインにアップされて、すぐに注文。ところがここからがまた長かった。数度の入荷延長を重ねて拙宅に届いたのは、季節がすでに秋を迎えた9月下旬。実に5ヵ月を要したのである。カナダでの発売から1年が経っていた。  自身のオリジナル曲を中心とした構成と、トランペット、テナー、ヴォーカルを加えた楽器編成は前作と同様。ただしホーンズを増員し、パーカッションが加わった曲もある。  ゲスト・ヴォーカリストはホリー・コール、ラニー・リーの代表的カナディアンに格上げされ、ブランディ本人が2曲で歌うのも新味だ。何よりヴァラエティ豊かなプログラムが、前作から大きく飛躍したことを印象付けられる。  #1は曲名が「スケッチ」つながりであることを含めて、マイルス・デイヴィス『カインド・オブ・ブルー』収録曲<フラメンコ・スケッチ>を参照したことは間違いなく、その挑戦意識を帯びた書法を評価したい。あるいはポール・チェンバースへのオマージュかもしれないが。ポップなフランス語歌唱の#2では雰囲気を反転させ、カリンバ演奏の#3へ続き、小悪魔的な微香をふりまくベース&ヴォーカル曲の#4へと展開。50年代のブルーノートからビヨークまでを好むブランディの幅広い音楽性が楽しめる仕上がりだ。 【収録曲一覧】 1. Sketches Of Belief 2. Combien De Chances 3. Second Dawn 4. Twilight Curtain 5. My Only Friends Are The Pigeons 6. He’s Walkin’ 7. Dawn 8. Liege 9. A Night In Haiti 10. Let Her Shine 11. This Time The Dreams On Me ブランディ・ディスターヘフト:Brandi Disterheft(b,vo,kalimba) (allmusic.comへリンクします) ホリー・コール:Holly Cole(vo) ラニー・リー:Ranee Lee(vo) 2009年作品
2013/05/02 00:00
『カリベ/ミシェル・カミロ・ビッグ・バンド』
『カリベ/ミシェル・カミロ・ビッグ・バンド』
カリベ(DVD付) ライヴ録音から作品化まで16年を要した特別なステージの記録 Caribe / Michel Camilo Big Band  ドミニカ共和国が生んだ唯一の世界的ジャズ・ピアニストがミシェル・カミロだ。キャリア初期の1980年代に日本制作によるアルバムで名が知られ、それがアメリカに逆輸入されてヒットしたことで、米メジャー・デビューにつながった。毎年の来日公演が恒例になっている親日家である。  本作は学業のため79年にNYへ渡り、卒業後も同地を拠点にプロ活動を行って名声を獲得したカミロが、実に15年ぶりに母国に凱旋帰国したライヴ&ドキュメンタリー作(CD+DVD)だ。  94年5月、カミロは自身初となるビッグ・バンド作『ワン・モア・ワンス』を録音。レギュラー・トリオにジョン・ファディス、クリス・ハンター、デイヴ・バージェロンら豪華ホーン・セクションが加わって、お馴染みのレパートリーが大編成ヴァージョンとして生まれ変わった内容だった。同年秋のリリースをはさみ、録音から7ヵ月後に行われたのがこの帰国ライヴというわけである。この晴れ舞台のために、レコーディングの主要メンバーがドミニカに再結集。全7曲はすべて『ワン~』収録曲から選ばれており、この大型プロジェクトはカミロの凱旋にふさわしいタイミングでの実現となった。  ところでライヴ録音から作品化まで16年を要することになったのは、いささか時間がかかり過ぎの感は否めない。この間カミロはEpicからTelarcへ移籍して、交響楽団との共演作に挑戦するなど、活躍の場は拡大の一途を遂げている。権利関係をクリアしてようやく今回、アルバム化に漕ぎ着けたことに、カミロの執念を感じる。かなりの年月が経ったとは言え、自分にとって特別なステージであるその価値は不変のもの。世界中のファンに映像作品と共に楽しんでほしい、との強い思いを抱き続けてきたからこその快挙である。  カミロのピアノ・スタイルがそうであるように、パワフルでダイナミックかつタイトなラテン・ビッグ・バンドならではのサウンドが展開されている。4トランペット+4トロンボーン+5サックスのフル・サイズだから、ホーンズの分厚い迫力たるや超弩級だし、ジャクソン&アーモンドにパーカッションが加わったリズム・セクションは大編成をドライヴさせるに充分なエネルギーを発揮。CDと同内容のDVDではカミロの指揮や打楽器演奏を楽しめるのも、大きな収穫だ。さらにボーナス映像ではパキート・デリヴェラが加わったコンボのライヴや、ピアノ・ソロ&ドキュメンタリーも収められていて、当時のカミロを多角的に知ることができる。アルバム発売記念となるカミロ初のビッグ・バンド公演は、初演メンバー多数と共にいよいよ10月21日からスタートだ。 【収録曲一覧】 1. Why Not! 2. Dreamlight 3. Suite Sandrine Part III 4. Suntan 5. Just Kiddin’ 6. Not Yet 7. Caribe ミシェル・カミロ:Michel Camilo(p) (allmusic.comへリンクします) アンソニー・ジャクソン:Anthony Jackson(b) クリフ・アーモンド:Cliff Almond(ds) クリス・ハンター:Chris Hunter(as,ss) 1994年12月ドミニカ共和国でライヴ録音
2013/05/02 00:00
『Q:ソウル・ボサ・ノストラ/クインシー・ジョーンズ』
『Q:ソウル・ボサ・ノストラ/クインシー・ジョーンズ』
Q:ソウル・ボサ・ノストラ/クインシー・ジョーンズ 喜寿を迎えた大御所の総決算 Q: Soul Bossa Nostra / Quincy Jones  クインシー・ジョーンズ、実に15年ぶりの新作である。この間《モントルー・ジャズ祭》で音楽生活50周年記念ライヴを行い、音楽出版事業に取り組む一方、世界中の困窮する子供たちのための義援活動にも心血を注いできた。オバマ大統領に内閣芸術長官の設置を進言したのも、大物プロデューサーならではの出来事だった。  完成まで7年間を費やした本作は、主にブラック~ヒップホップ系のヴォーカリスト/ラッパーをフィーチャーしたセルフ・カヴァー集。クインシーの楽曲、アルバム収録曲、プロデュース曲に新たなアレンジが加えられている。  前作『Q’s ジューク・ジョイント』も<スタッフ・ライク・ザット>等のリメイク曲が含まれていたし、ジャズ&フュージョンとブラック畑のミュージシャンが大挙出演していた。今回は前者に属す名前はほとんど見当たらず、後者を前面に立てたヴォーカル・アルバムを企図したと思われる。  #1は71年作『スマックウォーター・ジャック』収録曲のオリジナル・トラックに、タリブ・クウェリのラップをかぶせたもの。ガレスピー、マイルス、フレディ・ハバードといった人名も飛び出し、クウェリが原曲をリスペクトした上で個性を発揮する姿勢が伝わってくる。でも全曲がこのような合成手法だったら・・・と一瞬不安がよぎったが、杞憂だった。すでに先行シングルとしてリリースされていた#2は、歌詞とコーラスに独自の工夫が施されて、甘い歌声と共にエイコンが魅力を発揮。リュダクリス+ナチュラリー7+ルディ・カレンスの#3は<ソウル・ボサ・ノヴァ>の改題曲で、タイプの異なる男声たちのハーモニーが楽しい。ブラザーズ・ジョンソンのヒット曲#7は本作では数少ないバンド仕立ての演奏で、スヌープ・ドッグが新しいリリックと共に貫禄のラップで帝王を讃える(同曲を演じたデヴィッド・レターマン番組@YouTubeは必見)。個人的にはT-ペインとロビン・シックが共演したマイケル・ジャクソンの#12がベスト・トラックだ。他にもビヨンセ主演映画『ドリームガールズ』で驚異的な歌唱力を印象付けたジェニファー・ハドソン、パティ・オースティン歌唱の原曲#9をカヴァーしたことが感慨深いメアリー・J. ブライジらが、クインシー・ファミリーとして適材を演じる。  喜寿を迎えた大御所が音楽家生活の最終章を意識したに違いない、総決算的な色合いを帯びる新作だ。 【収録曲一覧】 1. Ironside 2. Strawberry Letter 23 3. Soul Bossa Nostra 4. Give Me The Night 5. Tomorrow 6. You Put A Move On My Heart 7. Get The Funk Out Of My Face 8. Secret Garden 9. Betcha Wouldn’t Hurt Me 10. Everything Must Change 11. Many Rains Ago 12. P.Y.T. 13. It’s My Party 14. Hikky-Burr 15. Sanford And Son クインシー・ジョーンズ:Quincy Jones(produce,compose) (allmusic.comへリンクします) エイコン:Akon(vo) ジェイミー・フォックス:Jamie Foxx(vo) ジョン・レジェンド:John Legend(vo) スヌープ・ドッグ:Snoop Dogg(vo) メアリー・J. ブライジ:Mary J. Blige(vo) エイミー・ワインハウス:Amy Winehouse(vo) 2010年作品
2013/05/02 00:00
『サード・ラウンド/マヌ・カッチェ』
『サード・ラウンド/マヌ・カッチェ』
サード・ラウンド/マヌ・カッチェ 音楽家=マヌ・カッチェの魅力 Third Round / Manu Katche  ジャンルを横断しながら活動を続けてきたドラマーである。1958年パリで生まれ、80年代から欧米のロック、ポップス、さらにワールド系ミュージシャンをサポート。ピーター・ガブリエルやスティングとの共演を通じて、その実力者ぶりが世界的に広まった。カッチェは10代半ばでマイルスやコルトレーンでジャズに触れ、ECMに強く惹かれた経験がある。ECMのプロデューサー、マンフレート・アイヒャーがカッチェ参加のロビー・ロバートソン盤を聴いて感銘を受け、89年のECM20周年記念コンサートにブッキング。この時にトリオで演奏したことがきっかけとなり、カッチェはヤン・ガルバレク・グループのメンバーに迎えられ、本格的なジャズ・キャリアをスタートさせた。その後ガルバレクから離れた時期もあったが、2004年に復帰しており、2009年発売の最新作『ドレスデン』で好演を印象付けている。  2004年にガルバレクとトーマス・スタンコおよび側近のポーランド新世代を得て、ECMへの移籍作を吹き込み、カッチェはECMとの関係をさらに強化。2007年の第2弾『プレイグラウンド』ではマルチン・ボシレフスキ(p)+スワボミル・クリキエヴィッツ(b)とのリズム隊はそのままに、フロントがマティアス・アイク(tp)+トリグヴェ・サイム(ts,ss) のノルウェーの新世代に交代。全編自作曲をNYで完成させて、北欧との関係をさらに深めた。ここまでキャリアを積み上げてきたカッチェは、この3年ぶりのリーダー作にあたって、メンバーを刷新する冒険に出た。その心境を探れば、アイドルだったガルバレクを入り口に、豊穣で人材豊富なノルウェーのミュージシャンとの交流を重ねた成果が、制作のバックボーンになったと想像できる。  ECMでの第3弾、の意味をアルバム名に織り込んだ本作は、昨春、輸入盤が入荷していたが、1月末から行う来日ツアーに合わせて国内盤としてもリリースされる。ガルバレク直系で近年はトルド・グスタフセン+ケティル・ビヨルンスタとのトリオ・プロジェクトをECMから出したサックスのトーレ・ブリュンボルグ、89年にウエイン・ショーターを迎えた初リーダー作を発表している英国の鍵盤奏者ジェイソン・リベロ、ジャズ~フュージョン~ロック~ソウル畑での経験が豊かなベーシスト、ピノ・パラディーノとのクァルテットを基本として、一部にギターと女性歌手が加わる編成だ。カッチェのドラム・セットは太鼓もシンバルも数が多く、したがって手数の多いタイプなのだが、だからと言って叩き過ぎることはない。むしろアルバム全体のバランスを意識したバンド表現に腐心しており、メロディアスで繊細なサウンドがちりばめられた仕上がりだ。すべての楽曲を自ら作曲したことを含め、トータルな意味での音楽家=マヌ・カッチェの魅力が堪能できる。 【収録曲一覧】 1. Swing Piece 2. Keep On Trippin’ 3. Senses 4. Being Ben 5. Une Larme Dans Ton Sourire 6. Springtime Dancing 7. Out Take Number 9 8. Shine And Blue 9. Stay With You 10. Flower Skin 11. Urban Shadow マヌ・カッチェ:Manu Katche(ds) (allmusic.comへリンクします) トーレ・ブリュンボルグ:Tore Brunborg(ts,ss) ジェイソン・リベロ:Jason Rebello(p,el-p) ピノ・パラディーノ:Pino Palladino(b) 2009年12月フランス録音
2013/05/01 00:00
『イン上海/秋吉敏子ジャズ・オーケストラ』
『イン上海/秋吉敏子ジャズ・オーケストラ』
イン上海/秋吉敏子ジャズ・オーケストラ トシコのプロ根性に感嘆 In Shanghai / Toshiko Akiyoshi Jazz Orchestra 日本が世界に誇るジャズ・ミュージシャンのパイオニア、秋吉敏子の新作である。長年のファンなら、それがオーケストラと知って、驚きと喜びが同時に訪れた感覚になることだろう。30年間運営し、頂点を極めたオーケストラを2003年末に解散。その時に印象的だったのが、「ピアノを練習する時間を作って、もっと上手くなりたい」とのトシコの言葉だった。功成り名を遂げ、70歳を超えてさらに前進する意欲を持ち続ける姿勢は、多くの後続にとってのお手本となったはずだ。 2004年以降はソロ、夫ルー・タバキンとのデュオ、トリオ等の小編成を中心にアルバムを制作。ピアノに専念できる環境の中、新たな成果を重ねた。その一方で2007年にはドイツSWRビッグ・バンドのプロジェクトに招かれ、ピアノスト&音楽監督を務める2枚組自作曲集をリリース。単発の特別興行だとわかりながら、今後の新展開にも期待を抱かせた。 本作は旧満州生まれのトシコが、再び中国でコンサートを行いたいという情熱を現実にした成果だ。95年に恩師を招いたオーケストラの中国公演の後、同国の目覚しい文化・経済発展に刺激を受けたトシコは、解散後という状況にありながら、強い思いを実現するためにバンドの再編に動く。ANAからのサポートも大きな後押しになった。 「上海東方芸術中心」で行われたコンサートは、時間的制約がある中で、トシコが今できる最上のオーケストラをプレゼンしたもの。50年代に渡米し、先人のない環境で道を切り開いてきた労苦を曲名に象徴させた初期代表曲#1で、ステージは幕を開ける。躍動的なピアノ・ソロで恩師をトリビュートする#2、ピアノとふくよかなホーン・セクションが重なり合う#3、中国公演であることを意識して伝統楽器を盛り込み、実娘マンディ・満ちるの中国語歌唱もフィーチャーした#4、トシコのバピッシュなピアニスト魂が全開になるリンカーン・センター委嘱曲#5。平和を願うトシコがオーケストラ解散時に初演した#6では、マンディが歌い、タバキンがテナー・ソロで引き継ぐ流れに、家族愛が感じられて素晴らしい。7年間のブランクがまったくない“現役感”を打ち出したトシコのプロ根性に感嘆する新作だ。 【収録曲一覧】 1. Long Yellow Road 2. I Know Who Loves You 3. My Teacher Mr.Yang 4. Chinese Ballad 5. Drum Conference 6. Hope (Epilogue of Hiroshima) 秋吉敏子:Toshiko Akiyoshi(p,cond) (allmusic.comへリンクします) ルー・タバキン:Lew Tabackin(ts,fl) 2010年10月、上海録音
2013/05/01 00:00
『ライヴ・イン・マルシアック/ブラッド・メルドー』
『ライヴ・イン・マルシアック/ブラッド・メルドー』
ライヴ・イン・マルシアック/ブラッド・メルドー DVDまで付いたキャリア史上初のパッケージ、メルドーの決意がうかがえる Live In Marciac / Brad Mehldau  進化し続ける姿を印象付けた前個人名義2枚組作『ハイウェイ・ライダー』から1年も経たないタイミングでの新作である。昨秋のスウェーデンのメゾソプラノ歌手アンネ・ゾフィー・フォン・オッターとのデュオ2枚組『ラヴ・ソングス』が記憶に新しい中でのリリースだ。しかも3作連続となる2枚組であるばかりでなく、DVDまで付いたキャリア史上初のパッケージ。メルドーの並々ならぬ決意がうかがえる。  さらに留意すべきは、4年半前の音源をこのタイミングで作品化したこと。そこには時間的事情を超えたクオリティの優先があったことは間違いないが、それにしても映像と合体させたことは、過去作とは根本的に異なるコンセプトで制作されたと考えるべきだろう。自分が気に入っている音源を温めて良い機会にアルバム化するピアニストとしては、メルドーが影響を受けたキース・ジャレットの好例が参考になる。  2枚組ソロ・ライヴ作として参照しなければならないのが2003年の『ライヴ・イン・トーキョー』だ。本作は同作の3年後だが、ダブリ曲はなく、その間の進化形を広く知らしめることもメルドーの企図だったと想像できる。昨年発売されたウイントン・マルサリス&リシャール・ガリアーノの共演作でその名が知られたフランスのジャズ・フェスティヴァルで、その2年前にメルドーが出演した記録。ビートルズ、ニルヴァーナ、レディオヘッドといったロック・ミュージシャンのカヴァー曲は、このジャンルの扉を開いたジャズ・ピアニスト=メルドーの功績を再認識する思いだ。  左右の手のフレキシブルな動きに圧倒される「ストーム」でスタートすると、スタンダード2曲で守備範囲を拡大。歌物名曲を好むメルド-は、「イッツ・オ-ル・ライト・ウィズ・ミー」でどのピアニストも挑まなかった再構築に取り組み、「シークレット・ラヴ」では定石を覆すスロー・アレンジで選曲の必然性を説く。ヴァンガード・ライヴを重ねていた時期のメルドー・トリオの魅力が進路と落着点の予測不可能さにあるならば、「アンリクイテッド」はまさにそれを体現したトラック。ディスク2の終盤は2つのカヴァー曲で締められる。「マイ・フェイヴァリット・シングス」は「そうだ、京都へ行こう」という乗りとは異なる、陰影感をつけた表現が独特。コンサートのラスト(アンコール?)に、ボビー・テイモンズのファンキー・ジャズ代表曲を持ってきた真意とは何か。それを考えることが、メルドーの真髄に触れることに繋がると感じられる、探りどころ満点の新作だ。 【収録曲一覧】 Disc-1 1. Storm 2. It’s All Right With Me 3. Secret Love 4. Unrequited 5. Resignation 6. Trailer Park Ghost 7. Goodbye Storyteller 8. Exit Music Disc-2 1. Things Behind The Sun 2. Lithium 3. Lilac Wine 4. Martha My Dear 5. My Favorite Things 6. Dat Dere DVD: 11 tracks ブラッド・メルドー:Brad Mehldau(p) (allmusic.comへリンクします) 2006年8月フランス、マルシアック録音
2013/05/01 00:00
『フェイスフル/マルチン・ボシレフスキ』
『フェイスフル/マルチン・ボシレフスキ』
フェイスフル/マルチン・ボシレフスキ ECMの新世代ピアノ・トリオのさらなる追求 Faithful / Marcin Wasilewski 「ポーランドの新世代トリオ」と呼ばれ始めて、すでに10年が過ぎた。きっかけは2000年。輸入盤市場において顕著な出来事の1つとなった、シンプル・アコースティック・トリオ(SAT)『ハバネラ』のヒットだ。  時系列で振り返っておこう。1990年に音楽学校へ通う15歳のマルチン・ボシレフスキとスワヴォミル・クルキエヴィッツがいっしょに演奏を始め、2人にドラマーが加わってトリオの活動がスタート。その後サックス奏者と共にシンプル・アコースティック・クァルテットを名乗り、93年にボシレフスキ&クルキエヴィッツとジャズ祭で出会ったミハウ・ミスキエヴィッツが意気投合。SATが正式に誕生し、95年にデビュー作『コメダ』を吹き込んだ。同作は『ハバネラ』のヒットを受ける形で、ボーナス・トラック1曲を追加した改題新装版『ララバイ・フォー・ローズマリー』として2001年に再発売され、SATの人気拡大を後押ししている。  同年にはSATの3人が母国の代表的トランペット奏者トーマス・スタンコに抜擢され、スタンコ・クァルテットでの活動がメインになったことでステージ・アップ。スタンコの2枚のECM盤を経て、2005年に3人連名表記の『トリオ』に至った。彼らの参加作での実績が、ECMでの独立作へと発展した好例であることは疑いない。スタンコ・クァルテットを経験したことによって、SATが生まれ変わったと言ってもいいだろう。日本では実情を踏まえてボシレフスキのリーダー名義でリリースされると、2008年の第2弾『ジャニュアリー』(=邦題『シネマ・パラディーゾ』)では原盤クレジットがマルチン・ボシレフスキ・トリオとなった。  前作同様、3年間のインターバルで登場したこのECM第3弾は、ボシレフスキのオリジナル5曲とカヴァー5曲のプログラムだ。これまでにウエイン・ショーター、カーラ・ブレイ、ゲイリー・ピーコックといったジャズ・ミュージシャンや、ビヨーク、プリンス、エンニオ・モリコーネのようなポピュラー系の楽曲をリメイクしているトリオは、今回も独自の選曲センスを発揮。特にバラードでその魅力を感じさせる。  ハンス・アイスラー作曲の映画音楽#1《小さなラジオに》でアルバムの特色を告げると、スタンダード名曲#5ではキース・ジャレット・ヴァージョンに迫り、ブラジルの至宝エルメート・パスコアール作曲の#6をゆったりと時間が流れる美旋律曲に仕立てる。極め付きはタイトル・ナンバーの#3。オーネット・コールマンが66年の『エンプティ・フォックスホール』で発表した自作曲のマニアックな選曲眼のみならず、ジャズ界の隠れた財産を発掘して新たな価値を与え、未来に伝える姿勢を賞賛したい。過去2作でECM新世代ピアノ・トリオの地位を確立した彼らが、さらにオリジナルな世界観を追求した充実作だ。 【収録曲一覧】 1. An Den Kleinen Radioapparat 2. Night Train To You 3. Faithful 4. Mosaic 5. Ballad Of The Sad Young Men 6. Oz Guizos 7. Song For Swirek 8. Woke Up In The Desert 9. Big Foot 10. Lugano Lake マルチン・ボシレフスキ:Marcin Wasilewski(p) (allmusic.comへリンクします) スワヴォミル・クルキエヴィッツ:Slawomir Kurkiewicz(b) ミハウ・ミスキエヴィッツ:Michal Miskiewicz(ds) 2010年8月 スイス、ルガーノ録音
2013/05/01 00:00
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