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昭和29年、高尾山で女性たちが失踪した――。人気ミステリ「百鬼夜行シリーズ」最新長編
昭和29年、高尾山で女性たちが失踪した――。人気ミステリ「百鬼夜行シリーズ」最新長編 1994年に『姑獲鳥の夏』が刊行されて以来、多くの読者を魅了し続けている百鬼夜行シリーズ。第二次世界大戦後間もない日本を舞台に、古本屋にして神社の宮司、そして「憑物落とし」でもある「京極堂」こと中禅寺秋彦が、妖怪に関係して起きるさまざまな怪奇事件を解決していくという推理小説です。  その百鬼夜行シリーズの番外編ともいえるのが、本作『天狗』を含む「今昔百鬼拾遺」シリーズ。京極堂の妹で科学雑誌『稀譚月報』の記者・中禅寺敦子、そして百鬼夜行シリーズの『絡新婦の理』に登場した女学生・呉美由紀のふたりを主人公に据え、ある種のバディ物として物語が展開していきます。『鬼』『河童』に続く第3弾となる『天狗』では、敦子、美由紀のふたりに、これまた既刊の作品『百器徒然袋――雨』に登場した筋金入りのお嬢様・篠村美弥子が加わり、3人で不可解な事件の謎を解くこととなります。  ここで本書のあらすじをご紹介しましょう。昭和29年8月、美弥子の友人である是枝美智栄という女性が、天狗伝説の残る高尾山中で行方不明となってしまいます。そして約2か月後、群馬県迦葉山で葛城コウという女性の遺体が発見されるのですが、自殺したという彼女が身に着けていたのは、なぜか美智栄の衣服だった......。一体、美智栄はどこへ消えてしまったのか? 美弥子は偶然知り合った美由紀や敦子とともに、女性たちの失踪と死の真相を探ることに......。  本作で大きなテーマとなっているのが、同性愛。葛城コウには、コウと同時期に消息を消した天津敏子という恋人がいたのですが、天津家が前時代的な価値観の旧弊な家であることが今回の悲劇の原因となっています。「天狗」とは子どもを攫ったり、背中の翼で空中を飛んだりといった妖怪でもありますが、「あの人は天狗になっている」というように"おごり高ぶった人"という意味を含んでいることも。本作で傲慢な天狗となっているのは誰なのか、そのために苦しんでいるのが誰なのか。謎は最後に解き明かされることとなりますが、けっしてさわやかな結末ではないだけに、皆さんの心にもきっと何か残るものがあるのではないでしょうか。  本書はシリーズ物ではありますが、初めて京極夏彦作品を手に取るという人でもまったく問題なし。シリーズの中では短い部類に入るので、入門編としてはむしろ読みやすいかもしれません。戦後の混沌とした時代が持つレトロでどこかおどろおどろしげな雰囲気が好きな人は、その文章や世界観に引き込まれてページをめくる手が止まらなくなってしまうに違いありません。
「はじめの一文で泣いた」 人気コピーライターが父親たちの思いを代弁して話題に
「はじめの一文で泣いた」 人気コピーライターが父親たちの思いを代弁して話題に マイケル・ジャクソン遺品展で発表したひとつのコピー「星になっても、月を歩くだろう」が、多くの注目を集めたコピーライターの小藥元さん。カゴメ「GO!ME. 進め、いけ。」、PARCO「変わってねえし、変わったよ。」、キレートレモン「なりたい人は、わたしの中にいる。」などのコピーや、モスバーガー×ミスタードーナツ「MOSDO!」、コメダ珈琲店「ジェリコ」といったネーミングを一度は目にした方も多いのではないでしょうか? 近年は、Kis-My-Ft2「KISS&PEACE」作詞や、絵本『あなたがいるから、僕たちが生まれた。』(コンテンツ・ファクトリー)を刊行するなど、コピーライティングに留まらず、"言葉"を軸とした作品も手がけられています。  そんな小藥さんが最近始めた自主プロジェクトがSNSで話題になっています。「ぱぱことぱ」と銘打たれたウェブサイトに掲載されているのは、思い出の地で撮影したという親子の写真と、その取材内容を小藥さんが編み直した「父から君へ、ずっと消えない言葉。」の数々。「孫を抱きしめている時、君を抱きしめていた日を思いだす」(65歳/元証券マン)、「好きは、強さ。好きは幸せ。いちばん、贈りたかったもの。」(46歳/自営業)などの印象的なヘッドラインの下に、家族の忘れられない景色、子供たちに伝えたかった想いが優しく綴られています。  サイトオープン以降twitterでは、 「はじめの一文で泣いた。全娘とパパに贈りたい」、 「いま親として子どもへ、と自分が子どものとき親もこんな気持ちだったんだろうな、が同時に来た」、 「『ぱぱことぱ』がめっちゃぐっと来る。ぱぱたちも自分の生き方に悩みながら生きてきて、一緒に生きてきた君たちに贈る言葉。こういうのがエモいって言うんだなと思う」 などの反応が寄せられています。  今回、父親だけでなく多くの人の共感を呼んでいる同プロジェクトについて、bookstand編集部が小藥さんにインタビューを行いました。 * * * ーー「ぱぱことぱ」を始めたきっかけを教えてください。 嘘や装飾や無駄。文字や言葉で溢れ、消費され続ける現代で、消えない言葉はなんだろうか。そこから考えたわけではないのですが、恥ずかしがり屋で忙しくて言葉数少ない父親の想いというものを、急に代弁したくなったのです。その言葉は、絶対に子どもたちにとって、ずっと消えない宝物になるとさえ思えました。永遠性と嘘がないこと、その2つのカタマリがこの企画なのです。「父より」ではなく、「ぱぱことぱ」というネーミングにしました。"ば"ではなく、"ぱ"です。これはお父さんの照れ隠しでもあり、空や宙に浮いていたような気持ちや思い出を拾い集めたから。「言葉」という言葉で規定したくなかったような気もします。 ーー「永遠性と嘘がないこと」とは? 「消えない言葉」というのが、わたしのコピーライターとしての一つの理想です。広告という、たとえ刹那的で限定的な器だったとしても、言葉だけを取り出した時に、30年後も50年後も古くならないものを書きたいという想いがありました。同時に「嘘をつかないこと」も矜持としてあります。嘘はすぐにバレ、プレゼンの場においてすら届くはずがないと思っているんです。だから自分がブランドなり本当にいいと思ったところ、信じられるところで書きたいのです。 ーープロジェクトを実現する過程で難しかったことは? 「言葉で溢れる世界で、一番足りなかった言葉。」これが最初にわたしが書いていたコンセプトです。その思いは変わりませんが、親子の笑い合う写真と語りきる文章に合わなかった。最後の最後に「父から君へ、ずっと消えない言葉。」というタグラインを規定しました。これができるまで相当時間がかかってしまいました。 ーープロジェクトを実行して発見はありましたか? 子供との何十年の歴史や思い出をすべて語り切ることなんて不可能です。けれどもある一点をもって、そのまなざしを見つめることで、愛を伝えられたら、と思っています。なので書いているときは、本当に父親になったつもりで、子どもさんに向けて書いている。けれどこの「ぱぱことぱ」が不思議なのは、会ったこともない知らない一般の方のしかもプライベートな話なのに、なぜか景色が思い浮かぶ、お父さんの気持ちがわかる、ということなんです。読者の方からの反応で、それは確信しました。 ーー今後の展望について教えてください。 写真展や展覧会のような形態や、ラジオやテレビ番組などもコンテンツとしては考えられるかなと思います。ただ今は、会いたいお父さんに会って取材をさせていただき、いっぱい泣かせていただきながら、思い出の場所で写真を撮っていきたいです。どんなお父さんにもドラマがある。これもまた取材を通してわかったことです。自分の気持ちが震えたところだけで、コピーを書いていく。とても幸せなことでもあるんです。だからこそライフワークにしていきたいです。 * * *  毎月24日に、新たな親子の記事が配信予定の同プロジェクト。これまで企業やアーティストのメッセージを代弁してきた小藥さんが、世の父親の声をいかにして届けていくのか。コピーライターの言葉を使った新たな挑戦に今後も注目です。 ■関連リンク ぱぱことぱ http://papakotopa.jp/
安住紳一郎アナも泣いた!? パンダ愛好家の著者が綴る、その魅力と奥深き世界
安住紳一郎アナも泣いた!? パンダ愛好家の著者が綴る、その魅力と奥深き世界 愛らしいルックスと動きで、動物界でもひときわ高い人気を誇る「パンダ」。そんなパンダに物心ついた頃から魅了され続け、ついには書籍まで出すことになったのが、今回ご紹介する『パンダワールド』の著者、中川美帆さん。本書ではただ「可愛い」だけじゃない、知られざるパンダの魅力を伝えるとともに、彼女がほぼ自費かつ単独で訪ねたという世界30か所のパンダも紹介しています。......うーん、なんともマニアックでパンダフル!  「Part1 パンダ大全」では、パンダの生態や飼育状況から、パンダ舎の構造、パンダにまつわる乗り物などまで案内。たとえばパンダは「暑いのはキライ、寒いのが好き」「性別が見分けづらく、上野動物園ではオスとメスを間違えたこともある」「竹だけでなくリンゴやニンジンも食べる」といった情報が出てきますが、こうしたトリビアは知らない人も多いのではないでしょうか。また、企業のパンダキャラクターや地方で生まれたパンダの食べ物、パンダのラッピング電車やバスなどのちょっとマニアックなネタまで網羅されていて興味深いです。  「Part2 日本パンダ史」では、上野動物園、神戸市立王子動物園、アドベンチャーワールドのパンダの歴史を紐解きます。現在日本には、この3園に計10頭のパンダがいるそうですが(2019年6月時点)、1972年に中国から上野動物園にやってきたのを始まりに、それぞれの園でのパンダの歴史が年表や写真などとともにわかりやすく解説されています。  そして「Part3 世界のパンダに会いに行く!」では、著者がゴールデンウィークや冬休みを利用しての弾丸旅行で訪れたという世界30か所のパンダを掲載。海外のパンダがいる施設は行きづらい場所にあることが多く、日本のガイドブックにはほとんど載っていないということから、アクセスなどもできる限り詳しく記されています。また、マレーシアのネガラ動物園やアメリカのアトランタ動物園で働く職員にインタビューをおこなうなど、単なる情報紹介にとどまらない奥行きの深さも素晴らしいポイントです。  本書にはTBSアナウンサーの安住紳一郎さんがコメントを寄せているのですが、「足で稼いだ情報の数々に圧倒された。中川さんが1人で集めたのかと思うと、最終的には泣けてきた」と絶賛。同じくパンダ好きで知られる安住アナをも感激させてしまったようです。  とにかく1ページ1ページに詰まった著者のパンダ愛に圧倒される本書。皆さんもパンダの奥深き世界に触れ、「へぇーっ!」と驚き、癒されてください。
クリエイティブな女性たち143人はどのように創作活動と生活に向かい合っていたのか?
クリエイティブな女性たち143人はどのように創作活動と生活に向かい合っていたのか? 古今東西の芸術家がいかにして日々の制作や仕事に向かっていたかを紹介した書籍『天才たちの日課』。ここには161人もの天才や偉人が取り上げられましたが、女性はそのうち27人しかいなかったそう。そこで女性に焦点を当てて書かれた第2弾が、本書『天才たちの日課 女性編』です。  今回登場するのは作家、画家、デザイナー、詩人といった女性アーティスト143人。前作には「クリエイティブな人々の必ずしもクリエイティブでない日々」という副題がついていたのに対し、本書は「自由な彼女たちの必ずしも自由でない日常」という副題がついています。これは、女性による創造的な活動が否定された時代に生きていたり、母親として子どもの世話と創作活動の間で苦しい選択を迫られたり、性的偏見と闘ってきたりといった"必ずしも自由でない日常"にいた女性たちが多いことにあるようです。男女で区別することはジェンダー的に危険な部分もありますが、男性に比べると女性のほうが、仕事ができる環境を作るためには犠牲を払う必要のある場合が多いのかもしれません。  著者のメイソン・カリーは「今回は本人と家族の関係にも多くの注意を払った。多くの場合、彼女たちの時間をいちばん多く要求するのは子どもだったからだ。したがって、彼女たちがクリエイティブな仕事と家庭内のごたごたや義務などをどのようにさばいているのか--(中略)その点を明らかにすることが、彼女たちの日常をありのままに描くために欠かすことができなかった」と記しています。  というわけで、こうしたテーマのもとに作られた本書。さまざまな国の、さまざまな女性アーティストが、日々どのような仕事をし、日常を過ごしていたのか、小さな肖像画を描くように非常にコンパクトに(長くても一人につき5ページ以内)まとめられています。  服飾デザイナーのココ・シャネル、歌手のニーナ・シモン、科学者のマリー・キュリー、バレリーナのアンア・パヴロワといった有名どころもいれば、一般にはそこまで広くは知られていない舞踏家や社会運動家、写真家といった人たちも。その中で、日本人も一人だけ取り上げられています。それは、前衛芸術家の草間彌生さん。彼女のパートは1ページにも満たないものですが、その簡潔さがまた彼女の仕事ぶりや生き方をドキュメント的に浮かび上がらせています。  ここから自身の仕事や人生のヒントを得るもよし、読み物的に「こんな生き方をしている人もいるのか」と楽しむもよし。皆さんがもし自由に対するフラストレーションや葛藤、試行錯誤などを抱えているとすれば、時代や国は違っても、きっと共鳴するものがあることと思います。
動画配信の覇者となったNETFLIX その成功の裏側を描いたノンフィクション
動画配信の覇者となったNETFLIX その成功の裏側を描いたノンフィクション 動画配信の覇者として確固たる地位を築いている「NETFLIX(ネットフリックス)」。本書『NETFLIX コンテンツ帝国の野望』はそんなネットフリックスの1997年から2012年に至るまでの歴史を描いた一冊です。  最初はちっぽけな郵便DVDレンタルの会社だったところから、どのように成長し、有料会員1億4000万人という動画配信の頂点にまで上り詰めたのかが、著者ジーナ・キーティング氏の通信社記者時代の取材と本書用の独自取材によって余すところなく明かされています。  ネットフリックスのスタートアップに貢献したのは、現CEOのリード・ヘイスティングスと、ソフト会社役員であったマーク・ランドルフの二人。ヘイスティングスが地元のビデオレンタル店で延滞料金を請求されたのをきっかけに、その後のNETFLIXの本質となる「延滞料金なしで、いつまでも映画を手元に置いておける郵便DVDレンタル」というサブスクリプションモデルを思いついたといいます。  とにかく目を見張るのが、彼らの行動力やスピード性。1997年にネットフリックスを創業し、その1年後にはオンラインでの郵便DVDレンタルサービスをスタート。1999年には定額制プラン導入で顧客維持率を上げ、2003年には契約者が100万人を突破します。  こうして見ると順風満帆のようですが、その陰には、アメリカ最大手のビデオ・DVDのレンタルチェーン店Blockbuster(ブロックバスター)との非常に熾烈な争いも。本書には、ヘイスティングスがネットフリックスに掲げる使命として次の三つが出てきます。「一つ目は世界最高のエンターテインメント事業を築き上げること。二つ目は、消費者の手元に好みの映画が届くように手助けすること。三つめはライバル会社との競争に勝つこと」。最終的にブロックバスターは2010年に倒産となりますが、両者の激しい攻防は本書の見どころの一つでもあります。  その後も2007年には動画配信サービスを、2012年にはオリジナル作品の制作をスタートさせたネットフリックス。特にオリジナルコンテンツには巨額の制作費を投入し、2013年には初期のヒットドラマとなる『ハウス・オブ・カード』が生まれ、2018年には『ROMA/ローマ』がアカデミー賞を受賞したのは皆さんの記憶にも新しいところでしょう。  ネットフリックスは2015年に日本にも上陸。今ではすっかり私たちにも身近な存在となっていますが、アップルやアマゾンなどに比べると、その創業秘話についてはまだまだ知らない人も多いはず。ビジネス書としてもエンタメ書としても楽しめる一冊となっている本書。皆さんも読んで、ネットフリックスの真の姿に迫ってみてはいかがでしょうか?
最短時間で最大効率の学びを得るための80のインプット術
最短時間で最大効率の学びを得るための80のインプット術 「アウトプットするためにはインプットが大事だ」とは、ビジネスの場などでよく聞く言葉。何かを発信したり生み出すためには、自分の中に常にさまざまな知識や情報を取り入れることが重要だという意味です。  とはいえ、私たちの時間というのは限られているもの。皆さんはめまぐるしく過ぎていく日々の中で、最大限に効果的なインプットができているでしょうか?  この「効果的なインプット法」について書かれているのが、今回ご紹介する『学び効率が最大化する インプット大全』。「日本一アウトプットする精神科医」だと言われる著者・樺沢紫苑氏が、読書法、学習法、記憶術、会話術、情報収集などにおける80のインプット術を記した一冊です。  本書の特徴といえるのが、著者が精神科医だということで、脳科学に裏付けられた解説が含まれている点。たとえばCHAPTER1ではインプットの基本法則について書かれているのですが、その一つに「脳の仕組みを使い、記憶力を高める」というものがあります。喜怒哀楽に伴って分泌される脳内物質としてアドレナリンやドーパミン、エンドルフィン、オキシトシンなどが知られていますが、これらには記憶を増強する作用もあるのだとか。そのため、「ストーリーを活用する(漫画化、小説化されたビジネス書を読む)」とか、「映画や美術鑑賞など『感動』と『学び』と連動させる」といったインプットをおこなうと、感情を刺激するアウトプット法につながり、たいへん効果的だといいます。  また、今の時代、インターネットでの情報収集やインターネットの使い方についてお悩みの人も多いかもしれません。CHAPTER5では、「最短で最大効率のインターネット活用術」にまるまる1章が使われています。「メールを使う」(「サブ」の仕事、メールとうまく付き合う)、「情報を見極める」(「本当に正しいのか」という視点を常に持つ)といった基本的なところから、「画像でメモする」(時短・効率化のために気になるウェブサイトは画面をキャプチャーして保存する)、「ニュースを読む」(ニュースの8割は自分にとって不要。しっかりと取捨選択する)といった少しばかりネット上級者的なものなども。そして、「スマホやSNSは『1日1時間以内』が理想」としている著者。SNSの利用時間が長いほど孤独感、抑うつは強まるという研究結果を紹介し、「きちんと時間を制限して使わないと、確実に脳のパフォーマンスを下げるのです」と解説します。このあたりも、精神科医ならではの視点と言えるのではないでしょうか。  他にも、「科学的に記憶に残る本の読み方」や「学びの理解が深まる話の聞き方」「すべてを自己成長に変えるものの見方」といった章も。全体的に数字や図を多用してわかりやすく具体的に書かれており、実生活に取り入れられるものが多い印象です。最短で最大限のインプットをしたい人は一読してみてはいかがでしょうか。  なお、本書の前には40万部を超えるベストセラーとなった『学びを結果に変える アウトプット大全』もありますので、併せて読んでインプットとアウトプットの達人を目指すのもおすすめです。

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レンタル彼氏、ホストクラブ......女性のための女性向け性サービスノンフィクション
レンタル彼氏、ホストクラブ......女性のための女性向け性サービスノンフィクション 世の中にはさまざまな男性用風俗があるのに、女性用の風俗って見当たらない。いや、あるにはあるけれど、開けっぴろげに語ったり、ましてや実際に利用したりだなんてとんでもない。世間的にそういった空気があるのはたしかです。  けれど、だからこそ、「女性向けの風俗ってどんなの?」と知りたい人も多いはず。『男を買ってみた。 -癒やしのメソッド-』はその疑問に応えてくれる一冊といえるかもしれません。  本書では、著者の鈴木セイ子さんが女性向け性サービスを利用した体験レポートを掲載。他にも、さまざまな年代の女性たちの性にまつわる悩みや、女性向け性サービスに従事する男性たちへのインタビュー、こうしたサービスが密かに拡大する社会的背景なども書かれており、非常に濃い内容となっています。  鈴木さんは今回、女性専用性感マッサージ、レンタル彼氏、ホストクラブ、出張ホストという4種類のサービスを紹介していますが、読んでみると、ひとことで"女性向け性サービス"といっても、それぞれに全く異なることがわかります。たとえば性感マッサージでは、ホテルの一室でセラピストの男性と肌を重ね、性的なケアで精神的にも肉体的にも満たされるひとときを(本番行為は禁止)。しかし、レンタル彼氏となると性的なサービスは基本なし。食事やショッピングなどのデートで疑似恋人感を楽しむというのが特徴です。鈴木さんは「プロポーズ」を事前に希望し、リアル「テラハ」体験を満喫していました。  このように、本書では言葉通り"ひと肌脱いで"、予約からの流れやサービス内容、金額的なこと、注意点などを詳しく教えてくれます。利用を考えている人にとっては、たいへん参考になるかと思います。ですが、もしかしたら皆さんの中には、それよりも「なぜ利用するのか?」という女性の内面的な部分のほうに興味を覚える人もいるかもしれません。  実は鈴木さんは、この道17年というキャリアを持つ女性専門の生活カウンセラー。ここ数年、セックスレスなど女性の"性"に関する相談が、とりわけ増加傾向にあると感じているといいます。性の悩みに目をつぶって生きられればよいですが、性欲は人間の三大欲求の一つであるだけに、それが満たされないことで、大きなストレスや孤独を抱えてしまう人も多いのが現実です。  とはいえ、本書はけっして女性向け性サービスを手放しで薦めているわけではありません。「買物をしてストレスを発散するとか、美味しいものを食べて満たされるとか、お酒を飲んでその瞬間忘れられるといったように、日常的に誰もがしていることとなんら変わりはなく、そう考えると、こういったことだけが特別なことでもないように思います」と鈴木さんは綴っています。もし、孤独やストレスに押しつぶされて人生がどうしようもなくつらくなってしまったとき、それを癒す手段の一つとしてこうした選択肢があるということを、ちょっと心の片隅に置いてみるだけでも違うのかもしれません。
古今のファンタジー作品に登場する魔法使いたちの料理が作れるレシピ集
古今のファンタジー作品に登場する魔法使いたちの料理が作れるレシピ集 世の中にレシピ本はたくさんありますが、これほどファンタスティックでワクワクさせられる一冊はないかもしれません。だって、今回ご紹介する『魔法使いたちの料理帳』は、古今のファンタジー作品に出てくるごちそうを実際に家庭で作れるように紹介しているレシピ集なのですから!  題材となっているのは、ファンタジー作品の代表ともいえる「ハリー・ポッター」シリーズや『ナルニア国物語』、ディズニー映画でも広く知られる『アラジンと魔法のランプ』『美女と野獣』『白雪姫』『メアリー・ポピンズ』、マーベルのヒーロー映画『ドクター・ストレンジ』やアメリカのテレビドラマ『奥さまは魔女』、そしてゲーム作品の『ダンジョン&ドラゴンズ』や『ゼルダの伝説』など実に多種多彩。皆さんが小説や映画で「この料理、どんな味なんだろう?」と想像をふくらませたメニューがきっと一つは......いえ、もしかしたらいくつも出てくるかもしれません。  たとえば、ハリー・ポッターの小説にたびたび登場する「ステーキ&キドニー・パイ」。イギリスではおなじみの家庭料理で、ホグワーツ魔法魔術学校に在籍していたハリーも大好きな一品ですが、日本に住んでいる私たちにとってはピンと来ない人がほとんどではないでしょうか。  「キドニー」とは英語で「腎臓」のこと。レシピを見るに、牛の臓物を煮込んでパイで包んだものと言えそうです。なので、材料にはパイ生地や牛ステーキ肉などのほかに「牛の腎臓」の文字が......。「牛ひき肉でも可」と書いてありますが、せっかくなら本場の味さながらに本格的に作ってみるのはいかがでしょう。本であこがれた料理を自分で作って食べるだなんて至福のひととき。ハリポタファンとしてはチャレンジしてみる価値はきっとあると思います!  また『白雪姫』からは、魔女に化けた継母が白雪姫に食べさせた「毒リンゴ」のレシピも......! 作り方自体は簡単ですが、キャラメリゼした砂糖に青い食用色素と黒い食用色素を垂らすところなんかは、自分が毒を混ぜている魔女になった気分を味わえそうです。  本書はレシピ本として使えるのはもちろんのこと、純粋に読み物として楽しめるのも大きな魅力。レシピ一つひとつに作品との関係性などが説明されていて、読んでいるだけでも空想の世界が広がります。また、作り方にも「『涙よ止まれ』の呪文をかけ、タマネギの皮をむいてみじん切りにする」「まず、おまえに一番似合う、お気に入りのアクセサリーを身につけなさい(呪いのマント、悪魔のステッキなど)」なんて書かれていてとってもユニーク。ついつい細部まで読み耽ってしまいます。 世のファンタジー好きをトリコにしてやまない本書。大好きな作品と同じように、この本もページを開けば、皆さんの忙しくわずらわしい日常からほんのひととき、ファンタジーあふれる別世界へといざなってくれることでしょう。
『コスモポリタン』元カリスマ編集長が教える「最先端の恋のルール」
『コスモポリタン』元カリスマ編集長が教える「最先端の恋のルール」 SNSがこれだけ発達して誰とでもつながれる時代であっても、"運命の人"や"生涯の伴侶"とはまだ出会えていない。そんな人たちは少なくないようです。日本に限らず、他の国においても。  「私たちの恋愛を取り巻く環境はどんどん変わっています。新しい時代には、新しい恋のルールが必要なのです」と説くのは、『ラブ・ルールズ ネット時代に最高のパートナーを見つける15の法則』の著者、ジョアンナ・コールズさん。イギリス生まれの彼女は、『ガーディアン』紙や『ザ・タイムズ』誌のニューヨーク特派員を経て、『コスモポリタン』『マリークレール』といった女性誌のカリスマ編集長として活躍してきたという経歴の持ち主。本書では、彼女が今の時代を生きる女性の代表として、「デジタル時代に本当の愛を見つける方法」を15のルールに分けて紹介しています。  彼女の自論のひとつが、「食べ物と愛はとても似ている」というもの。そこで第1章となるパート1では、ルール1「恋はダイエットと同じ。最初に『無理のない理想体重』を決める」、ルール2「ノートを買う――自分に正直になる練習」といったルールが登場。ダイエット同様、まずは自分の現状について見直すところからスタートします。  パート2はいよいよ実践編。今や出会いのツールとして一般的なものとなったマッチングアプリをどのようにうまく使えばよいか、そのコツを余すところなく伝授してくれます。いっぽうで、パート3ではアルコールや避妊、アダルト動画、DVといった恋愛と背中合わせの危険性についても書かれており、知っておいて損はない内容ばかりです。  そして最終章となるパート4は、最愛のパートナーとの付き合い方について。いちばん大切で、しかも簡単なルールは「優しくて思いやりのある相手を見つけること。そして自分にも優しくすること」だというジョアンナ。いくら時代が変わろうとも、昔に比べて恋愛の環境が変化しようとも、これは永久不変の真理といえそうです。  このパート4に出てくる中で印象的なのが、「あなたが白馬の王子様を待っているお姫様だとしたら、まずは自分から馬に乗って。馬に乗れるようになったら、最初はゆっくりと、次はもう少し速く、その次はもっと速く、あなたと並んで進んでくれる相手を見つけましょう」という言葉。これこそ、今の時代ならではの、私たちが心に留めておくべき恋愛の心構えなのかもしれません。本書の表紙が、白馬に乗った女性がスマートフォンの中に颯爽と向かっていくイラストになっているのも、これを象徴したものといえるでしょう。  本書が多くの女性の心をとらえているのはきっと、「今の時代にマッチしている」から。そのリアルさは、有名女性誌の編集を長年手がける中でジョアンナが培ってきた知恵と経験を結集している点、そして心理学者や社会学者、医師、一緒に仕事をしてきた敏腕ライターなどの話を随所に盛り込んでいる点にあるかと思います。皆さんも15のルールを実践して、自身の恋愛や人生をさらに輝かせてみてはいかがでしょうか。
膨大な資料をもとに、戦後の漫画家や出版業界について描き切った一大評伝
膨大な資料をもとに、戦後の漫画家や出版業界について描き切った一大評伝 「手塚治虫とトキワ荘」と聞くと、多くの人はこうしたイメージを抱くのではないでしょうか? 「手塚治虫が暮らしていたボロアパートに漫画家志望の若者たちが集まり、ときにマンガへの熱い想いを語り、ときに助け合いながらマンガを描き、やがて世間に認められ大成していった」――。  しかし、事実は必ずしもこの通りではないとのこと。たとえば、手塚治虫がトキワ荘に暮らしていた時期には、藤子不二雄Aも藤子・F・不二雄も、石ノ森章太郎も赤塚不二夫もまだ入居していませんでした。もうひとつ言えば、トキワ荘はけっしてボロアパートだったわけではなく、手塚治虫が入居したのは新築時だったといいます。  「『よく知られている物語』ほど、実像とは異なるイメージが流布するものだ」と述べるのは、『手塚治虫とトキワ荘』の著者・中川右介さん。本書は「伝説のベールを一枚ずつ剥ぎ取り、事実関係を整理する」という目的のもと、手塚治虫とトキワ荘グループと呼ばれる巨匠たちの業績を再構築し、日本マンガ出版史を解読した一冊となっています。  驚くべきは、本書のボリューム。二段組みの上に、あとがきまで含めるとおよそ400ページ近くにもなります。しかし、話を大げさに盛ったり、長々と余計なことを書いたりなどはいっさいナシ。膨大な数の資料をもとに、手塚治虫やその周りの漫画家たち、さらに彼らをとりまく編集者や出版社にいたるまで、事実に即したものごとやできごとを淡々と記しているのが特徴です。  でも、それならただの研究発表のようで、読んでいてもつまらないのではないか? そんなふうに思う人もいるかもしれません。けれど、非凡な才能を持った者たちの集まりだからか、これがどのエピソードも興味深くて引き込まれるものばかりなのです。  たとえば第二章「学年誌戦争」に登場する「手塚治虫の九州逃避行」のくだり。あまりの多忙さから手塚治虫が九州に逃亡したことがあるというのは有名な話ですが、当時手塚は11作もの連載を同時に抱えていたとか、手塚の身柄を確保するためさまざまな出版社の担当編集者たちが奔走したとか、松本零士のもとに突然、手塚から手伝いを乞う電報が届いたとか、こうした細かな情報を知るにつけ、読んでいるほうも手に汗握る気分に......。  現在、日本のポップカルチャーのアイコンともいえるマンガですが、戦後、日本の復興とともに、いかに漫画家と編集者が情熱を注いで盛り立ててきたのか、本書はそれがわかる一冊となっています。トキワ荘にこれだけ才能あふれる漫画家たちが集まったという奇跡の裏側を、ぜひ皆さんものぞいてみてください。

特集special feature

    怒りの感情を脳科学的に分析 キレる人に振り回されない上手な対処法とは?
    怒りの感情を脳科学的に分析 キレる人に振り回されない上手な対処法とは? 悪質なあおり運転、児童虐待、モンスターペアレントなど、ここ最近、怒りを抑えきれずに社会的な事件につながるケースが多発しています。こうした"キレる人"に遭遇したとき、私たちはどのように対処するのがよいのでしょうか。また、自分自身がキレやすい性格で、そうした自分とどう付き合えばよいか悩んでいる人も多いかもしれません。  いっぽうで、例えば人気芸人など、怒って見せながらも相手を不快にさせず、むしろ好感さえ抱かせるような上手なキレ方をする人たちもいます。そのポイントはどこにあるのでしょうか。  こうした"怒り"という感情について科学的に分析しながら、具体的な対処法、活用法を教えてくれるのが、今回ご紹介する『キレる!』です。著者は脳科学者、医学博士、認知科学者としてテレビコメンテーターとしても活躍する中野信子さん。本書は、対人関係において自分を守る「盾」となり「強み」にもなるような「キレるスキル」に光を当てた一冊になっています。  なぜ人は"キレる"のか、中野さんの専門分野である脳科学の立場から解説しているのが第二章。たとえば老人の攻撃性や頑固さは、理性を司る「前頭葉」が老化によって委縮することが原因であったり、子どもや夫(妻)など家族を束縛しコントロールしたがる人は、"愛情ホルモン"とも呼ばれる脳内物質オキシトシンが増えることで、"かわいさ余って憎さ百倍"とばかりに憎しみや妬みの感情も強まってしまうせいであったり。このように人が"キレる"仕組みは科学的に説明することができ、そのメカニズムを理解することで、「自分のキレる行為をコントロールできるようになったり、さらに、なぜ相手がキレるのか、タイミングや対処法が見えてきたりする」と中野さんは言います。  そして、第三章では"キレる"人に対する対処法を、第四章ではキレやすい自分との付き合い方をケース別に提案。たとえば「支配的で、立場を利用しパワハラをする会社の上司」への対処としては、とにかく「初動」が大事なのだそう。関係が深まってしまってから突然訴えても、相手はなかなか納得してくれないため、最初の理不尽に"怒り"を覚えたら、正しくキレて、はっきりと言い返すというのが効果的なのだとか。ほかにも、「普段はおとなしいのに、突然攻撃的になる人」「執拗なまでの『あおり運転』『ロードレイジ』」「疑い深く、キレやすい『暴走老人』」など私たちが日常生活でいつ遭遇してもおかしくない"キレる人"が挙げられており、ためになります。  「我慢は美徳」「努力したら報われる」といった考え方は日本には根強いですが、他人の努力などなんとも感じない毒々しい人がたくさんいるというのもまた事実。キレられっぱなしで都合のよい人にならないためにも、私たちが「キレるスキル」を身に着けることは必須といえるかもしれません。そして、上手に言い返すためには、豊富な語彙力もとても重要になってきます。さまざまなケースやパターンを学ぶための問答集としても、本書はきっと皆さんの役に立ってくれることと思います。
    第161回芥川賞受賞作 なにげない日常に潜む、奇妙で滑稽な「狂気」
    第161回芥川賞受賞作 なにげない日常に潜む、奇妙で滑稽な「狂気」 今回ご紹介するのは、今年7月に発表された第161回芥川賞を受賞した『むらさきのスカートの女』。『こちらあみ子』『あひる』『星の子』など、寡作ながらも作品を発表するごとに独自の視点と世界観で熱狂的な読者を増やし続けている今村夏子さんの最新作となります。  主人公の「わたし」は、近所に住む「むらさきのスカートの女」と呼ばれる女性のことが気になって仕方がありません。この女性はいつもむらさき色のスカートを履いて商店街に現れるため、このあたりではちょっとした有名人なのだといいます。彼女を長いこと観察しているうちに「友達になりたい」と強く思うようになった「わたし」は、自分と同じ職場で働くように密かに誘導します。それは見事に成功し、「わたし」はこれまで以上に「むらさきのスカートの女」の生活を観察し続けるように......。  あらすじだけ聞いても、「なぜ『わたし』はそこまで『むらさきのスカートの女』にこだわるの?」と疑問に感じた人も多いことでしょう。実は本書を読んでも、その理由は明確には明かされていません。そしておかしなことに、同じ職場で働くことになっても、「わたし」は「むらさきのスカートの女」と交流を持とうともしないのです。それなのに、彼女が朝出かける際に同じバスに乗り込んだり、休憩時間に所長と交わしている会話を盗み聞きしたり、使っているシャンプーまで把握していたりする「わたし」......。異常ともいえる執着心で「むらさきのスカートの女」の言動を延々と観察し続ける主人公の姿は、不気味でもありどこか滑稽でもあります。    「むらさきのスカートの女」は、仕事を始めてからどんどんと変化していきます。まず髪や体つきが健康的になり、爪にマニキュアを塗るようになり、香水をつけるようになり......。本書は一種の謎解き的な要素もあるため、ネタバレになることは詳しく書けないのですが、そうして次第に垢抜けていった彼女は、終盤である事件を起こしてしまいます。そこからが怒涛の展開。「わたし」がどのような行動をとるのかは、皆さんにもぜひ本書を読んで確かめていただきたいところです。
    山下達郎、松田聖子、サザン...80年代ポップスの構造を理系的に分析!
    山下達郎、松田聖子、サザン...80年代ポップスの構造を理系的に分析! ミュージシャンやアイドルが歌う曲が次から次へとヒットした、J-POP黄金時代ともいえる1980年代。そうした80年代の名曲の数々について、「白くて大きなベッドにあお向けに寝かせて、鋭いメスを持ってグリグリと、その構造を解体・解析していく」というイメージで書かれたのが、音楽評論家・スージー鈴木氏による『80年代音楽解体新書』です。  音楽評論というと、個人の感想や主観に重点を置いた「文系的」なものも多く見られますが、本書の大きな特徴となるのが、非常に「理系的」なアプローチをしているところ。では、「理系的な音楽評論」とはどのようなものかというと......?  たとえば80年代の日本ポップスを代表する音楽家のひとり、山下達郎。彼の作品の強烈な個性として、「メジャーセブンス」というコード(和音)の徹底的な多用を著者は挙げます。その響きのイメージをあえて言葉にすると、「おしゃれ」「都会的」「哀愁」「センチメンタル」となるそうですが、これをイメージだけでなく、きちんと論理的に解き明かしていくのが著者の本領です。  コード界には、明るい響きのメジャー(長調)コードの代表として「ド・ミ・ソ」のCメジャー、そして暗い響きのマイナー(短調)コードの代表として「ミ・ソ・シ」のEマイナーというものがあります。先ほど出てきた「メジャーセブンス」には、このメジャーコードとマイナーコードの両方が入っていると著者は説明します。「ド・ミ・ソ」という普通のメジャーコードに、「シ」という奇妙でクセの強い音を混ぜたコード(「ド・ミ・ソ・シ」という音の組み合せ)になっている。もう少し詳しく言うと、「メジャーコードの上に、マイナーコードが乗っている」状態なのだとか。正確にカウントしたことはないものの、山下達郎の80年代の作品に限れば、9割以上の楽曲でこのメジャーセブンスが使われているのではないかと著者は書いています。  いっぽうで、メジャーセブンスの逆となるのが「マイナーセブンス」。これは「ラ・ド・ミ」というAマイナーのコードに、「ド・ミ・ソ」というCメジャーのコードが入っていて、「マイナーコードの上にメジャーコードが乗っている」構造の和音です。  これを図式で紹介したうえで、「メジャーセブンスは山下達郎、そしてマイナーセブンスははっぴいえんど」と自身の考えを加える著者。フォークロックバンド・はっぴいえんどの『12月の雨の日』という曲を例にとり、「1970年前後、新宿三丁目あたりの昼下がり、雨上がりの湿った空気の曇り空の下を、陰鬱な表情の長髪の若者が行きかっている」というイメージを広げます。そして、そうした「マイナーの上にメジャーが乗っている=70年代の新宿」から、「メジャーの上にマイナーが乗っている=80年代の青山」といった流れで、80年代の山下達郎によるメロウで都会的なシティ・ポップとを対比しています。 このように、図や表を多用し論理的に解説している本書。これまでなんとくイメージで受け止めていた曲も、その構造を明かされることで「だからこの曲は多くの人の心を惹きつけるのか」「このアーティストのすばらしさはここにあるのか」などストンと腑に落ちたりします。 ここ最近、ふたたび注目を集めている80年代J-POP。昔ファンだったという世代も、新たに聴き始めた若い世代も、本書を読めばきっとその魅力にさらに引き込まれるに違いありません。
    「YOU、やっちゃいなよ」に体現!? ジャニー喜多川流の人材育成力とは
    「YOU、やっちゃいなよ」に体現!? ジャニー喜多川流の人材育成力とは 7月9日に亡くなったジャニーズ事務所社長・ジャニー喜多川さんのお別れの会が4日営まれました。会場となった東京ドームには、近藤真彦さん、中居正広さん、木村拓哉さん、嵐、KinKi Kidsなど、多くの所属タレントが集結。その国民的かつ、ひとりとして個性が重ならない錚々たる顔ぶれに、あらためてジャニーさんの「才能を見出し、育てる」プロデューサーとしての手腕を感じた人も少なくなかったのではないでしょうか。  「最も多くのコンサートをプロデュースした人物」、「最も多くのナンバーワン・シングルをプロデュースした人物」、「チャート1位を獲得した歌手を最も多くプロデュースした人物」の3部門でギネスブックに掲載されたジャニーさん。彼を「日本で最も優秀な採用担当者」と評し、その偉大さで構築した"人を成長させる仕組み"について論じたのが本書『ジャニーズは努力が9割』です。著者は18歳でJr.オーディションを受けた生粋の「ジャニヲタ男子」にして、これまでに3冊の就活・キャリア関連の著書がある霜田明寛氏。  霜田氏はジャニーさんの才能発掘において、その人物が"今どうなのか"だけではなく"今後どうなるか"を見抜く、未来を見通す能力に長けていると指摘します。 「僕には20年後の顔が見えるんだよ」と自ら語っていたという、アイドルプロデューサーならではの「成長期の男子のルックス」はもちろん、競争の激しい芸能界で謙虚に努力し続けられる「人間性とやる気」も長期的目線で見極めるというのです。  むしろ、「踊りのうまい下手は関係ない。うまく踊れるなら、レッスンに出る必要がないでしょう。それよりも、人間性。やる気があって、人間的にすばらしければ、誰でもいいんです」というように、ジャニーさんは人物の物事に対する取り組み方を重視しました。本書は、このジャニーさん流の採用を「人事に関わる決定は、真摯さこそ唯一絶対の条件」と言った経営の神様・ドラッカーの説く組織論と重ね合わせます。このような方針のもと集められた"何者でもなかった"少年たちは、自らの頭で考えてそれぞれのやり方で努力し、やがて"特別な何かを成し遂げる"唯一無二のスターになっていくのです。 「ジャニーズの場合は、ジャニーさんが、きっかけを作ってくれて、あとは自分のことは自分で磨いていくというか。だから、ジャニイズムは人の数だけある。(中略)みんなちがっていいし、だからこそバラバラな個性がグループになったらおもしろくなったりもする」(本書p.215より)  こちらは昨年芸能界を引退し、若手ジャニーズJr.の育成やプロデュースを担う株式会社ジャニーズアイランド社長に就任した滝沢秀明さんの言葉。滝沢さんの言うジャニイズムの精神は、今回のお別れの会でもナレーションで引用されたジャニーさんの口癖であり名言である「YOU、やっちゃいなよ」に体現されているかのようです。  人間というのは、こんな風に自分を全面的に受け入れ信頼してくれる一言を投げかけられたら、人生を変えるほどの努力を自ら始めるものなのかもしれません。ジャニーズ好きならずとも、誰かを育成する機会を持った人にもぜひ読んでほしい一冊です。
    アメリカ人料理家の「魚」克服ドキュメント 日本で苦手に挑んだ彼女が得たものとは?
    アメリカ人料理家の「魚」克服ドキュメント 日本で苦手に挑んだ彼女が得たものとは? 外国人観光客が築地や豊洲市場を訪れたり、お寿司屋さんで寿司をほおばったりといった光景は、いまや当たり前のものといってよいかもしれません。けれど、それは彼らにとってあくまでも異国での特別な体験でしかなく、ふだんは魚を切ることがこわく、魚を料理することに自信が持てないという人も多いようです。  そうした人たちを代表して(?)、「魚が苦手」というハードルに立ち向かったのが、本書『サカナ・レッスン 美味しい日本で寿司に死す』の著者でもあるキャサリーン・フリンさん。料理家である彼女自身も、当初は「多くのアメリカ人に比べると魚を食べることが好きなほうだ。魚を料理するほうだとも思う。しかし、魚を前にするとやはり戸惑う。正直少し、魚がこわい」というのが本当のところでした。けれど、「食文化から魚が切り離せない日本には、もしかすると『こわい魚』を克服するヒントがあるのではないか?」と考えるようになり、彼女は日本行きを決定。ここから彼女の大いなる挑戦がスタートすることに......!  「東京すしアカデミー新宿校」では魚のさばき方や寿司の握り方を教わったり、移転直前の築地市場ではマグロの競り場を見学したり、寿司屋では人生初の踊り食いを体験したり。また、日本人青年・クンペイの自宅では、日本の台所ならではの魚グリルに驚き、秋刀魚などを使った数々の家庭料理に舌鼓を打つ場面も。彼女の持ち前の好奇心とチャレンジ精神は、読んでいて心から拍手を送りたくなりますし、私たち日本人の心にも訴えかけるものがあります。  実は日本にも読者が多いキャサリーンさんですが、それは二作目の著書『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』によるところが大きい様子。料理が苦手で自分を「ダメ女」と思ってしまっている女性たちに料理の基本的な技術を教え、人生にも家事にも勇敢な「家庭料理人」に変えていくというノンフィクションは、日本でも異例のヒットに。日本テレビ系列のテレビ番組『世界一受けたい授業』から依頼を受け、出演を果たすほどの反響を呼びました。  そんなキャサリーンさんや彼女の著書から私たちが学べることは、「苦手」に対する気持ちの持ち方や付き合い方、乗り越える方法ではないでしょうか。日本人であっても魚をさばくのがこわいという人は多いし、魚に限らなくても、苦手なものは誰にだってある。無理して対峙する必要はないかもしれませんが、逃げないで一歩踏み出してみると、人生はきっと豊かなものになる。彼女の一連の「サカナ・レッスン」を通して、そうした感銘を受ける人は多いことと思います。  では、キャサリーンさん自身が今回のチャレンジで得たものは何か。エピローグで彼女は「いまとなっては、五千マイルも離れた国に、たくさんの友達がいる。多くの家庭料理人とわたしはつながることができている。わたしの食品棚には七種類の醤油があって、日本製の魚グリルが二台も狭いキッチンに鎮座している」と書いています。魚のさばき方や調理法だけでなく、ほかにもいろいろなものを手に入れた彼女ですが、それに飽きることなく「わたしの挑戦ははじまったばかりだ」と続けていることには感心するばかり。いくつになってもチャレンジすることはけっして遅くない、そしてそこにはたくさんの楽しみや可能性が待っていることを本書は教えてくれます。
    無意識のうちに縛られている言葉の数々... その呪縛を解く方法とは?
    無意識のうちに縛られている言葉の数々... その呪縛を解く方法とは? 「呪いの言葉」と聞くと、おとぎ話の中だけに出てくるもののように思えますが、どうやら実際には私たちが暮らすこの世界にもあふれかえっているようです。  たとえば、長時間労働や不払い残業、パワハラ、セクハラといった問題に声をあげる者に対して投げかけられる、「嫌なら辞めればいい」という言葉。これは、「その仕事を選んだのはおまえだろう。辞めずにいるのも、おまえがそれを選んでいるからだろう。だったら文句を言うなよ」と労働者の側に問題があるかのように仕立て上げる、典型的な「呪いの言葉」といえるかもしれません。  そう、現代における「呪いの言葉」とは、相手の思考の枠組みを縛り、相手を心理的な葛藤の中に押し込め、問題のある状況に閉じ込めておくために、悪意を持って発せられる言葉なのです。  では、「呪いの言葉」にからめとられないようにするには、私たちはどうすればよいのでしょうか? そのケーススタディとして役立つのが、本書『呪いの言葉の解きかた』。著者の上西充子さんが、労働、ジェンダー、政治といった私たちの周りに蔓延する「呪いの言葉」とその解きかたをわかりやすく教えてくれます。  上西さんは本書で、「大事なのは、『相手の土俵に乗せられない』ことだ。『相手の土俵に乗せられている』と気づいたら、そこから降りることだ」と書いています。呪いの言葉がかけられたときには、「なぜ、あなたは『呪いの言葉』を私に投げるのか」「あなたは私を逃げ出せないように、縛り付けておきたいのですね」と問うことが有効だそう。先ほどの「嫌なら辞めればいい」というひと言に対してなら、「『どうせ辞められないんだろう? だったら理不尽にも耐えろ』というわけですね」と切り返す。実際に口に出すのが難しいなら心の中ででもよいので、問い返すことによって、呪いの言葉を投げつけられた者は、その言葉の呪縛から一時期的にせよ、精神的に距離を置くことができます。呪いの言葉の呪縛の外に出られれば、柔軟に考え、行動することが可能になります。問題をとらえ直したり、どう対抗できるかに発想を変えたり、具体的な状況改善の糸口が見えてきたりといったこともあるかもしれません。  ほかにも、「文句を言うな」「逆らっても無駄」「君だって一員なんだから」「母親なんだからしっかり」「なぜもっとがんばれないのか」などなど......本書を読めば、私たちの身の回りにはどれほど多くの「呪いの言葉」があり、無意識のうちにどれほどそうした言葉にとらわれているかに気づくはず。まずはこの「気づきを得る」ことだけでも、ずいぶん世の中の見方が変わってくるのではないでしょうか。また、誰かが自分に届けてくれた「灯火の言葉」や、私たち自身の中から湧き出てきた「湧き水の言葉」といった「呪いの言葉」とは対照的な言葉も紹介されており、希望の光を感じることもできます。  労働、ジェンダー、政治と聞くと難しい内容に感じる人もいるかもしれませんが、文章が非常にわかりやすく読みやすいのも本書の魅力。ドラマ化もされたコミック『逃げるは恥だが役に立つ』やテレビドラマ『カルテット』、コミック『陰陽師』なども引き合いに出しており、若い人にも読みやすいのではないかと思います。「しかたがない」「自分が我慢すればいい」とあきらめることはやめ、意識的に「呪いの言葉」の呪縛の外に出る術を皆さんも本書から学んでみてはいかがでしょうか。

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