BOOKSTAND

かつて夢と希望の地だった「団地」はいまや高齢者と外国人労働者ばかりに…!?
かつて夢と希望の地だった「団地」はいまや高齢者と外国人労働者ばかりに…!?
「団地」という響きから皆さんは何を想像するでしょうか。日本に団地が誕生したのは、終戦から10年が経過した1955年に日本住宅公団が設立された翌年のこと。大阪府堺市の公団団地「金岡団地」が第一号だったそうです。入居者の多くは大阪市内へ通勤するサラリーマン家庭でしたが、銭湯通いが当たり前だった時代に風呂付き住宅であったり、食卓と寝室が分かれた洋風であったりなど、庶民にとっては「夢と希望の地」だったといいます。  それが今や、団地の居住者の大半を占めるのは高齢者と外国人労働者。「都会と至近距離にありながら、限界集落の雰囲気を感じさせる」と記すのは、本書『団地と移民』の著者である安田浩一さんです。  自身も子どものころに団地暮らしだった経験を持つ安田さんは1964年生まれ。『週刊宝石』『サンデー毎日』の記者を経て2001年、フリーに。外国人労働者がかかえるさまざまな問題を長きにわたって追いかける中で、多国籍化する団地の存在には当然のごとく注目してきたといいます。排外主義的なナショナリズムに世代間の軋轢、都市のスラム化、そして外国人居住者との共存共栄......。本書は安田さんがさまざまな団地や団地に暮らす(暮らした)人々を実際に取材し、その現状を浮き彫りにした渾身のルポタージュとなっています。  たとえば最後の第6章で取り上げられているのは、愛知県豊田市にある保見団地。ここは1975年に入居が始まった大型団地ですが、入管法改正によって日系ブラジル人の無期限就労が可能となった1990年から日系ブラジル人住民が一気に急増したという歴史があります。今では全住民8000人の約半数がブラジル人などの日系南米人で占められており、「小さなブラジル」といった様相を呈しているとか。その中で、この団地の住民である藤田パウロさんが20年間毎朝欠かさずおこなっているのが「ごみ置き場の掃除」です。完全なボランティアなのになぜおこなうのか? 「ごみステーションが汚れていると、日本人はすぐにブラジル人のせいにするでしょ? ブラジル人が汚していなくてもブラジル人のせいにされる。だからどんなときでもきれいにしておかないと」とパウロさんは語ります。これまでも子どもが「ガイジン」と学校でいじめを受けたり、些細なトラブルから保見団地抗争と呼ばれる大事件に発展したりと、90年以降の保見団地の歴史は日本人とブラジル人の対立の歴史でもあったといいます。これにくわえて、近年は日本人住民の高齢化が進み、現在は国籍や民族の壁というよりも世代間のギャップが存在し、日本人同士であっても相互理解が困難だという状況があるようです。  外国人排斥に、押し寄せる高齢化の波......そこにあるのは、団地の、ひいては現代の日本社会全体の縮図といってもよいかもしれません。ではこの先、将来を悲観するしかないのでしょうか? けっしてそんなことはなく、保見団地においても国籍の壁を超え、手を取り合って防犯パトロールや地域の祭りなどに協力し合う動きも出ています。考えようによっては、もしかしたら、「団地」こそが増え続ける移民の受け皿となり、若い外国人労働者たちと孤立する高齢者たちとのかけはし的存在として機能していく可能性も考えられます。現在、全国の団地で共生に向けたさまざまな取組みが行われている中で、団地の将来はどのようになっていくのか。本書を読んで想像してみるのも面白いかもしれません。
BOOKSTAND 7/4
鈴木涼美×峰なゆか、世の男たちに物申す!? J-WAVE番組『BKBK』公開収録トークイベント
鈴木涼美×峰なゆか、世の男たちに物申す!? J-WAVE番組『BKBK』公開収録トークイベント
下北沢の「本屋B&B」で6月27日、トークイベント「クズ男がそんなことで許されると思うなよ~J-WAVE『BKBK』公開収録トークイベント」が開催されました。イベント名にある通り、J-WAVE、火曜深夜26時30分からの番組『BKBK』の公開収録も兼ねたトークイベントです。  同イベントは、6月5日に発売となった『女がそんなことで喜ぶと思うなよ~愚男愚女愛憎世間今昔絵巻』(集英社)の刊行記念として行われました。同書は、セクシー女優としても活躍した文筆家の鈴木涼美さんによる「現代男女世相論」。恋愛、結婚、不倫、ハラスメント、フェミニズムなどの切り口から、女性視点よるさまざまな「男女」が語られています。  イベント当日は、J-WAVE番組『BKBK』のナビゲーターを務める(下写真左から)原カントくんと大倉眞一郎さん、そして同書著者の鈴木涼美さん、同書イラストを手がけた峰なゆかさんが登壇。本書についてはもちろん、「男女」に関するさまざまなエピソードが惜しげも無く飛び交いました。
BOOKSTAND 7/1
「つーさん」ふたたび! 第1弾を超える笑いと感動のネコ漫画
「つーさん」ふたたび! 第1弾を超える笑いと感動のネコ漫画
抜群の描写力で15万部を超えるベストセラーとなった『俺、つしま』。その第2弾となる『俺、つしま 2』が出版されました。ニヤリとさせられる猫との日常や、「あるある」とうなずかされる作風はより一層パワーアップしており、読者の期待を裏切らない猫愛あふれる一冊になっています。  主人公の「つしま(つーさん)」は、外でゴミをあさっていたところを「おじいちゃん(実は女性だが、つしまにはおじいさんに見える)」に保護されたキジトラ。つしまを中心に、「チャー」や「オサム」「ツキノワ」といった仲間たちが随所に登場し、日々の物語を紡いでいく......のは前巻と変わらず。ですが、本作ではあらたにつしまの外猫時代を描いたテルオ編が描かれているのが大きなポイントとなっています。  ある日、「しず子(現在はクラウディア)」という名前の猫と偶然再会したつしま。ここから、まだおじいさんに飼われる前、流れ者(流れ猫?)だったころの話が思い出されます。ふとしたきっかけで、しず子、そしてテルオという2匹と友達になったつしまは、一緒に魚屋で盗みを働くなどして暮らしていましたが、あるとき妊娠したしず子が去っていき、テルオも人間に捕まり離れ離れになってしまいます。ほどなくしてつしまは心優しい「おじいさん」と出会うわけですが、ではテルオはどうなってしまったのでしょうか。  本書のもう一つのポイントとなるのが、ツイッターを見ていた編集者が本を出版したいとのことで自宅にやってくるというパート。書籍化されるまでが紹介されますが、実はこれがラストにつながる重要な伏線となっています。本を買ったある男の子のおうちで、母親が「おもしろかった? 『俺、つしま』」と尋ねます。「うん、でもまだ最初のほうしか読んでない」と答える男の子。理由は「ボビーにとられちゃった」からだそう。ボビーというのはこの家の飼い猫のようですが、『俺、つしま』を抱きしめるほど気に入った様子。このボビーが誰なのか、なぜこの本を大事に抱えているのか......きっと最後に大きな感動が皆さんを待っていることでしょう。  ニヤリと笑って、爆笑して、ホロリと泣いて。心がじんわりあたたかくなる『俺、つしま 2』は前作同様、何度も読み返したくなる名作といってよいかもしれません。特典として巻末についてくる2種類のポストカードも可愛くて、ツイッターで作品を目にしたことのあるファンにとっても買う価値アリな一冊になっているかと思いますよ!
BOOKSTAND 6/27
「自己肯定感」は誰でもいつからでも高めることができる?
「自己肯定感」は誰でもいつからでも高めることができる?
昔に比べるとがぜん注目度が高まっている「自己肯定感」という言葉。日本の子どもは他国に比べると自己を肯定的にとらえている人の割合が低いという調査結果を踏まえて、内閣府も自己肯定感を高める方針を打ち出したほどです。  子どものみならず大人の皆さんの中にも「どうすれば自己肯定感を高められるのだろう?」と悩んでいる方も多いかもしれません。けれど、ここで「自分はもともとネガティブで打たれ弱い性格だから仕方がない」とあきらめてしまうのはちょっと待って。本書の著者・中島輝さんによると、「自己肯定感は誰でもいつからでも高めることができる技術」だといいます。その技術を実践的に、そしてわかりやすく解説してくれているのが本書『自己肯定感の教科書』なのです。  そもそも自己肯定感とは何でしょうか。本書には「自分が自分であることに満足し、価値ある存在として受け入れられること」と書かれています。これは誰しも状況によって高まったり低まったりするものであり、筆者自身も自己肯定感が超低空飛行を続けている状態が長らく続いていたのだとか。そんななか、心理学や心理療法を独学で勉強し、自ら実践することを繰り返しながら、35歳のときに引きこもり状態を克服したとのこと。本書には自己肯定感が下がり始めるサインにすばやく確実に気づく方法や、落ち込み始めた気分を復活させるための対策など、心理学や脳科学のエビデンスや著者の実体験に基づいたトレーニングが惜しげもなく公開されています。  本書の読み方についてですが、まずは「自己肯定感ってどんなものか知りたい」と感じているなら、1章から読み進めてください。皆さんのメンタルの状態をチェックしつつ、自己肯定感についての解説をしっかりと受けることができます。続く2章では、自己肯定感がなぜ高くなったり低くなったりと変化するのか、その理由と原因になっている"6つの感"について説明されています。  もし今まさにつらい、うまくいかないと悩んでいる状態なら、第3章からページをめくるのがおすすめです。そこには今すぐ取り組むことのできる自己肯定感を高める手法が書かれています。  では具体的に第3章の「自己肯定感が一瞬でパッと高まる方法」を見てみると......。「ウィークデーに自己肯定感を高めるワーク」として、「ヤッター!」のポーズ、鏡の中の自分にポジティブな言葉をかける、セルフハグといった18の方法が、「ウィークエンドに自己肯定感を高めるワーク」として「5分だけ掃除をする」「30秒のマインドフルネス瞑想法」など5つの方法が紹介されています。また、心も体も元気になるという「自己肯定感体操」も最後に出てきます。たしかにどれもすぐに取り入れられて即効性を感じられそうなものばかりです。  ほかにも最終章の第4章では、問題を切り分けてスッキリさせるための「課題の分離シート」や自身のビジョンを明確にさせるための「イメトレ文章完成法」といったワーク的なものも。  とにかくこのように実践的な手法やトレーニングが満載の本書。繰り返しおこなうことで自己肯定感を高める技術を手に入れ、仕事、人間関係、恋愛・結婚、子育て......と人生のどんな場面でも「大丈夫」と思える自分を作っていくことができるようになるかもしれません。
BOOKSTAND 6/24
ドラマ『きのう何食べた?』シロさんとケンジの美味しそうなご飯レシピが満載
ドラマ『きのう何食べた?』シロさんとケンジの美味しそうなご飯レシピが満載
2019年4月からテレビ東京系で放送中の人気深夜ドラマ『きのう何食べた?』。几帳面で倹約家の弁護士・筧史朗(シロさん)と明るい性格で人当たりのよい美容師・矢吹賢二(ケンジ)という恋人同士の二人が2LDKのアパートで暮らす日常が、毎回丁寧に描かれています。    1か月の食費はふたりで2万5000円以内。特売の食材なども使いこなしながら日々の料理を作るのはシロさんの担当です。彼の料理があり、ふたりで食卓を囲むからこそ、会話もはずみ、愛情も深まります。  本書はドラマに登場した料理レシピの数々を、よしながふみさん原作の漫画のエピソードとともに紹介した一冊。ここには、高価な食材や手間をかけるようなレシピは登場しません。どこの家庭にもある調味料や食材で、時間をかけず手軽に作れる"家庭の味"ばかりです。  たとえば、ケンジの友人・ヨシ君達が家に来て食事をすることになった日の献立はというと、「鮭と卵とキュウリのおすし」「筑前煮」「ナスとパプリカの炒め煮」「ブロッコリーの梅わさマヨネーズ」「カブの海老しいたけあんかけ」。ヨシ君の料理の腕前がかなりのものと聞いたシロさんは悩んだものの、見栄を張らず"いつもの夕飯"を出すことにします。めんつゆや鶏ガラスープの素など市販の調味料もうまく使いつつも、彩り鮮やかでぬくもりを感じさせるメニューは、今日の夕飯にでもさっそく作ってみたくなるようなものばかりです。  また、テレビドラマでも飯テロとして視聴者の食欲をそそったのが「サッポロ一番みそラーメン」。年末に実家に帰ったシロさんと離れてケンジが一人で作るのですが、バターをがつっと使ったり味噌を足してスープを濃いめにしたりするのがケンジ流。そうか、自分好みにアレンジできるのも袋ラーメンの楽しみだったと気づかされる回でもあります。  他にもメインから副菜、デザートまでさまざまなレシピが掲載された本書ですが、購入者の中には「レシピが思ったより少なくて残念」との声も......。逆に言えば、レシピのほかに登場人物の紹介やシロさん役の西島秀俊さん、ケンジ役の内野聖陽さんへのインタビュー、原作者のよしながふみさんが語るドラマ『きのう何食べた?』といった特集も充実。レシピも収録したドラマ紹介本的な一冊ととらえておくと、間違いがないかもしれません。  ドラマや原作漫画のあたたかな空気をそのまま感じ取ることができる『公式ガイド&レシピ きのう何食べた? ~シロさんの簡単レシピ~』。ファンブックとして、レシピ本として、きっと皆さんの心をほっこりさせてくれるものと思いますよ!
BOOKSTAND 6/19
映画化も決定! 韓国で女性たちの圧倒的共感を得た大ベストセラー小説
映画化も決定! 韓国で女性たちの圧倒的共感を得た大ベストセラー小説
2016年に韓国で刊行されると100万部を超えるベストセラーとなり、社会現象まで巻き起こした『82年生まれ、キム・ジヨン』。この小説を読んだ多くの女性が「これはわたしの物語だ」との声をあげたといいます。さらに台湾、ベトナム、アメリカ、カナダなど世界各国で翻訳され、日本でも13万部を突破する売れ行きとなっている本書。国を超え、世の女性たちがこの小説に圧倒的共感を感じる理由はどこにあるのでしょうか?  本書はちょっと不思議な設定の小説といえるかもしれません。主人公は、3年前に結婚し、昨年女の子を出産したという33歳の女性、キム・ジヨン。ある日突然、彼女は自分の母親や友人の人格が憑依したかのようになってしまいます。そして、物語は彼女が受診した精神科の担当医が書いたカウンセリングの記録という体裁になっており、私たち読者は読み進めながら、キム・ジヨン自身の半生に憑依することになるわけです。  その中では韓国の女性が、ひいては日本に住む私たち女性が、多かれ少なかれ感じたことがある現代社会の生きづらさや悩み、苦労がありありと描かれています。  たとえば、勉強や就職活動をがんばっても大企業に採用されるのは軒並み男子学生であったり、結婚後は妻側の実家に帰ることはないのに夫側の実家へ顔を出し手伝いすることは当たり前のように求められたり。きわめつけは、産後に子育てとの両立がかなわず、思うように仕事を見つけられないキム・ジヨンが娘を連れて公園でひと休みしていたときに、サラリーマン男性たちが発した言葉。「俺も旦那の稼ぎでコーヒー飲んでぶらぶらしたいよなあ......。ママ虫(育児をろくにせず遊びまわる、害虫のような母親という意味のネットスラング)もいいご身分だよな」。  どうでしょうか。世の女性たちが「これはわたしの物語だ」と強い共感を示すのもうなずけるのではないでしょうか。  いっぽうで、韓国の男性たちはこの小説に対して強い拒否反応を示す人も。Kポップガールズユニット、レッド・ベルベットのアイリーンが本書を読んだと発言したところ、一部男性ファンが「アイリーンがフェミニスト宣言をした」として一斉に反発。アイリーンの写真やグッズを破損する様子を動画投稿サイトに投稿するという事態も起きたほどだとか。ここまで激しくはなくとも、本書を読んでなんとも言えない居心地の悪さのようなものを感じる男性は日本の中にもいそうです。  著者のチョ・ナムジュ氏は、本書が「自分をとりまく社会の構造や慣習を振り返り、声を上げるきっかけになってくれれば」と日本の読者に対してメッセージを寄せています。挫折、疲労、恐怖感で終わるのではなく、これからを生きる世代のためにも、私たち一人ひとりが考え続けていくことが大事になってくるかと思います。  現在、キム・ジヨン役にチョン・ユミ、夫チョン・デヒョン役にコン・ユというキャストで映画化も進んでいるという『82年生まれ、キム・ジヨン』。まだまだ本書が投じた一石の波紋は鎮まることはなさそうです。
BOOKSTAND 6/17
お風呂界のエンタメ、現代銭湯建築の傑作... 都内おすすめ銭湯が丸わかり
お風呂界のエンタメ、現代銭湯建築の傑作... 都内おすすめ銭湯が丸わかり
銭湯といえば、私たちに身近な存在として古くから親しまれてきた公衆浴場。各家庭にお風呂が普及した今もあちこちにあり、最近ではノスタルジックな味わいがある場所として、魅力を感じる若い世代も多いようです。  本書『銭湯図解』の著者・塩谷歩波さんもそのひとり。1990年生まれの彼女は2015年に早稲田大学大学院(建築学専攻)終了後、都内の設計事務所に勤務します。そのかたわらで、2016年末より銭湯の建物内部を俯瞰図で描く「銭湯図解」シリーズをSNS上で始めたところこれが話題に。現在は「銭湯の魅力を伝えたい」という思いとともに、イラストレーターとして、また東京・高円寺の銭湯・小杉湯で番頭として働く日々を過ごしているそう。  そんな彼女の初めての著書では、都内を中心とした24軒の銭湯の図解をカラーの描きおろしで掲載。「アイソメトリック」という、角度をつけて建物内部を俯瞰図で描く建築図法を用いて、銭湯の浴室や脱衣所内が描き起こされています。  ほのぼのとした味わいあるタッチの絵とともに、著者による手書きの文字が添えられエッセイ形式になっているのも本書の特徴。第1章では「銭湯を知る」として、「銭湯の原風景」だという東京・北千住の「大黒湯」(男湯)、有名商店街のそばにあり「ご飯がおいしくなる銭湯」だという東京・戸越銀座の「戸越銀座温泉」(月の湯)など初心者にふさわしい7軒がピックアップされています。  続いて第2章「銭湯を楽しむ」は上級者コース。「現代銭湯建築の傑作」と著者が評する東京・町田の「大蔵湯」(女湯)、プロジェクションマッピングを採用した「銭湯建築のニューウェーブ」ともいえる東京・練馬の「天然温泉 久松湯」(女湯)など7軒を収録しています。  そして第3章「銭湯を極める」はマニアックコース。著者が心が疲れて泣きたくなったときに必ず行くというのは東京・武蔵境の「境南浴場」。静かなピアノのBGMや優しいサウナの温度などが疲れた心をほぐしてくれるのだとか。ほかにもスカイツリーの色を再現した湯船やトムヤムクン湯などもあるという「お風呂界のエンタメ」こと東京・墨田の「薬師湯」(女湯)など5軒が掲載されています。  都内の銭湯中心の本書ですが、中には日本各地へ遠征して取材したものも。明治時代からの建物と若き経営者の意欲が混じり合った京都の「サウナの梅湯」(男湯+2階)、けっしてアクセスはよくないものの銭湯マニアがこぞって訪れるという三重県の伊賀にある「昭和レトロ銭湯 一乃湯」(女湯)などなど、その土地ならではの銭湯に旅情をかき立てられます。  多様で幅広い銭湯の魅力を水彩で表現した『銭湯図解』。どの絵からもそれぞれの銭湯の情景が浮かび上がってきて、ほっと温かな気持ちにさせられます。まるで湯上がりのようなほかほか気分になれる一冊、ぜひ皆さんも読んでみてください。
BOOKSTAND 6/13
ジェーン・スーさんとわが道を行く8人が語りつくす、人生折り返してからのあれこれ
ジェーン・スーさんとわが道を行く8人が語りつくす、人生折り返してからのあれこれ
『私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな』や『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』などのエッセイの著者であり、TBSラジオ番組『ジェーン・スー生活は踊る』ではパーソナリティを務めるジェーン・スーさん。彼女が各分野で活躍する8人それぞれと語りつくした対談集が『私がオバさんになったよ』です。  対談相手は、光浦靖子さん、山内マリコさん、中野信子さん、田中俊之さん、海野つなみさん、宇多丸さん、酒井順子さん、能町みね子さん。この人選は、ジェーンさんが過去に対談したことのある人の中から「もういちど話したかった」という気持ちを持っている相手に声をかけたのだとか。(能町さんだけは例外で、じっくり話をしてみたかったけれど機会がなかった相手だそう)。  タイトルからもわかるとおり、本書はオバさん、すなわち"折り返し地点を過ぎた年代の人々"の人生におけるいろいろがテーマになっています。たとえば、最初に登場する光浦靖子さんとは体力的な部分での話も。光浦さんの「メンタル面では昔よりひりひりせずに楽しめるようになりました。今は体力的肉体的疲労」という言葉や、ジェーンさんの「20代は自我との闘いで疲れ果てる。体力は有り余っているのに、効率がすごく悪い。30代で少しバランスがとれてきて、40代でメンタル面がだいぶ整って、デフラグが全部終わって効率よく動けるようになるかと思いきや、今度は身体が動かない」といった言葉には、同年代なら業種は違えど共感しきりな人も多いのではないでしょうか。そんな中、マッチョな男社会や年下が多くなる職場などで40代以降の女性たちはどのようにするのが生きやすいのか......二人の対談は必読です。  他の相手との対談も実に貴重で、結婚していないこと、子どもがいないこと、男性女性それぞれが抱える現代社会の呪い、仕事のしかた、パートナーとの役割分担、親との関係性......などなど、誰しもが抱えるであろう悩みやモヤモヤが次々に出てきます。  「結婚したら仕事をやめて、子どもを産んで......」といった決まった価値観が崩壊しているともいえる今の時代、混沌としていて何が正解なのか、その答えを求めている人も多いかもしれません。そんな中で、本書から参考にすべきは「バリエーションを知る」「多様性を受け入れる」ということなのではないでしょうか。「40代女の生き方のバリエーションが増えていくことが必要」とは本書に出てきたジェーンさんの言葉ですが、さまざまな考え方、さまざまな生き方をする40代以降の皆さんを通して、人生はひとつじゃないということが本書からはしみじみと、そしてポジティブに伝わってくることと思います。  すでにオバさんになった人だけでなく、いつかオバさんになる人も、そしてオバさんとコインの表裏一体で生きるオジさんの皆さんにも。今を生きるすべての人に、ぜひオススメしたい一冊です。
BOOKSTAND 6/11
仕事ができる人ほどやっている!? ハイパフォーマンスを維持するためのセルフメンテを知ろう
仕事ができる人ほどやっている!? ハイパフォーマンスを維持するためのセルフメンテを知ろう
働き盛りの年代といえど、「駅の階段を上るのが億劫」「自分の顔色がくすんで見える」「髪がパサパサしてまとまらない」「人の話を聞き返すことが多くなってきた」など自身の体調にちょっとした心配を抱えている人は多いのでは? やはり人間は年を重ねるうちに若い時と疲れの回復具合が変わってくるのかもしれません。  しかし、実はパフォーマンスがいい仕事をしているビジネスエリートほど、自分にあったセルフメンテナンスを身につけ、中長期的な体調管理を心がけているのだとか。 そんな老け込みを感じ始めた皆さんのために、東洋医学の考えを基に、老いの進行を緩やかにするセルフケアを取り入れながら、自分に合った体調管理法を教えてくれるのが本書『最強の体調管理』です。  著者は京都の「鍼灸Meridian.烏丸」院長で鍼灸師でもある中根一さん。彼のもとには世界をまたにかけた国内外のビジネスエリートたちが多数通院しているそうですが、そうした人たちほど自身に合ったセルフケアを生活の中にうまく取り入れており、だからこそリタイヤしてもおかしくない年齢に差し掛かってもなお第一線で活躍できていると本書で述べています。  さて、そもそも「老け込み」という現象がなぜ起きるかですが、人は疲労物質が溜まりやすくなると「腎虚(じんきょ)」という状態に偏ってしまうそう。第1章では体調管理を始める前に、まずは「腎虚」の深刻度をはかる方法を教えてくれています。また、東洋医学によると体質によっても「身体の長所・短所」や「かかりやすい病気」など気をつけるべき症状は異なるそうで、自分が「肝」「脾」「肺」「腎」の4タイプのどれにあてはまるかチェックする方法も紹介されています。  そして「体調管理」ということで、「食事」「休息法」、運動を中心とした「生活習慣」という観点から日常生活全般のさまざまなアドバイスをしてくれるのが本書の特長。たとえば第2章では、「糖質制限よりも満腹にならないことが大切」「菜食重視は老け込みを加速させる」「朝の緑茶はコーヒーの10倍パフォーマンスを上げる」「体調を整える水分摂取のタイミングと目安」などの食事術について書かれています。  また、身体の衰えを感じたら「運動」よりも「正しい休息」が必要だという著者。 第3章では「エリートは入浴時に空気の流れを意識する」「深呼吸が腎虚体質を解消し脳が冴える」「スロージョギングこそ最強の疲労回復」といった効果的な休息の取り方についても教えてくれます。世界で活躍しているエリートほど、疲れてから休息を取るのではなく、疲れを自覚する前に休息を取るように心がけているというから見逃せません。  続く第4章は、膝の痛みを防ぐための太腿ストレッチやデスクワーカーにおすすめの瞼のケア、辛い腰痛を撃退するための「前屈4の字固め」など、日頃の生活に取り入れられる手軽なストレッチやエクササイズを中心に紹介。これらはパフォーマンスを落とさないために習慣にしたいところです。  さしあたり困ったことがなければ、わざわざお金と時間を使って身体をケアしようとしないのが一般人の常識かもしれません。けれど、いわゆるビジネスエリートと呼ばれる人たちは具体的な症状が出てではなく、「病気になる前に、体質や生活習慣から適切な施術とアドバイスをもらう」よう実践している人が多いことが本書からはわかります。ここまで完璧を求めることはなかなか難しいですが、今までよりも少しでも健康への意識を高めるために、そして健康な生活習慣を手に入れるために。本書を読んで自身の体調管理を始めてみるのはいかがでしょうか?
BOOKSTAND 6/7
危険地帯ジャーナリストが取材で出会った「悪いやつら」 その思想とは
危険地帯ジャーナリストが取材で出会った「悪いやつら」 その思想とは
殺人犯、殺し屋、ギャング、麻薬の売人、薬物依存者、悪徳警官......世の中にはさまざまな国籍や職業の「悪いやつら」が存在しますが、彼らの頭の中はいったいどのようになっているのでしょうか。  その根幹にあると思われる行動や考え方を体系化したものが、『世界の危険思想』です。著者はTBS系の人気番組『クレイジージャーニー』で危険地帯ジャーナリストとして出演中の丸山ゴンザレス氏。ふだんの生活の中で私たちが生死にかかわるほどの強烈な悪意に遭遇することはそうそうありませんが、本書では著者が数々の取材を通して出会ったエピソードや事例を通して、世界の危険思想の一端にふれることができます。  まず最初に出てくるのが「人殺し」。殺人は人類最大のタブーのひとつともいえますが、どういった動機や理由でもって殺人を犯すのか、加害者側の考え方が紹介されています。 著者がジャマイカの首都・キングストンのスラム街でインタビューしたのは、現役の職業・殺し屋。その日の暮らしに困るほどの貧乏人であるため、「彼にとって殺すことに罪悪感はあるだろうが、それ以上に生きることに必死なんだと思う」と著者は推察します。そして、インタビューの途中でちょうどかかってきた殺人依頼の電話の会話を聞き、気軽に殺人を頼むコネと金を持つ依頼主のほうにも恐怖感を抱く著者。結果的に、依頼者と実行者という二つの存在が噛み合ったときに殺人が発生することがわかったといいます。  こうした殺人の仕組みとともに、もうひとつ重要なものが「動機」。人を殺す動機の大きなものは「金」だといいます。多額の保険金や財産など金への執着が優先してしまうと、殺人のほうは完全に人任せにしたりできてしまう。また、取り調べや調書をとるのが面倒なために警察が犯罪集団を殺すというようなケースも。世界を見渡せば、命の価値や正義よりも自分のメリットを優先するという思想がいくらでもあることがわかります。  このように、殺人だけでなくほかにも売春や麻薬、裏社会などさまざまな視点から世界の危険思想をひも解いていく本書。著者は人類の持つ感情の中で最悪に恐ろしい危険思想を「相手を『甘い』と思って『ナメる』こと」だと結論づけています。相手への敬意のなさが原因でもたらされるものがほとんどではあるものの、あくまで一人の脳内で起きていることのため対処する方法は非常に難しいといいます。  そのうえで、「みんながもっと曖昧に生きるのがいいのではないか」と投げかける筆者。昨今の日本には、どんな微罪でも決して許さない風潮や、一度でもしくじったら復帰できないような空気感がありますが、もう少しでよいので曖昧なままの状況を許す心が必要ではないかと続けます。すべてのことに白黒つけたがるというのは、必要悪を許容しないとか曖昧さを排除する方向につながり、世界でいちばん危ない考え方につながりかねないという考え方にはうなずける人も多いのではないでしょうか。世界の事例を見ながらどこか他人ごとのように考えてしまいがちですが、実は平和で安全な日本で暮らす私たちの頭の中にも危険思想の芽はあるのかもしれません。
BOOKSTAND 6/5
日本発のグラフィックノベル「戦隊」書籍化プロジェクト まるで「読む映画」!?
日本発のグラフィックノベル「戦隊」書籍化プロジェクト まるで「読む映画」!?
日本発のヒーロー・コミック・レーベルを立ち上げるべく誕生した謎の組織「シカリオ」と、「鉄コン筋クリート」や「海獣の子供」のアニメーション制作会社「STUDIO4℃」が共同で制作したヒーロー・レーベル第一弾「戦隊」の書籍化を目指すクラウドファンディングのプロジェクトが実施中です。
BOOKSTAND 5/31
肩こりはもんでも治らない? 理学療法士が明かす驚きの解消法とは
肩こりはもんでも治らない? 理学療法士が明かす驚きの解消法とは
頭痛や眼精疲労をはじめ数々の不調を引き起こす、つらい肩こり。「スマホ首」という言葉が話題になりましたが、日々、スマートフォンが手放せない私たちにとって、首の痛みや肩こりはもはや"新・国民病"といっても過言ではないかもしれません。
BOOKSTAND 5/30
この話題を考える
大学合格者ランキング2025

大学合格者ランキング2025

注目が高い大学合格者の高校ランキングを今年も紹介します。AERAとサンデー毎日、大学通信の合同調査で、東京大学や京都大学のほか、難関国立大・有名私大の結果を随時、速報・詳報します。

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NyAERA2025

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【NyAERA2025】 みニャさま。ニュース週刊誌AERAとニュースメディアAERAdot.は年に1回だけ、猫化します。2025年猫の月猫の日に、ニュース誌の取材力を結集した珠玉のねこねこ記事をお届けします! 今年の「NyAERA」には大黒摩季さん、藤原樹さん、三山凌輝さん、吉川愛さん、ブルボンヌさん、KENくん、セルゥさんなど猫を愛する人々が全国から大集合! 写真や動画も満載のねこ記事で、ホッとひと息、つきませんか。

NyAERA2025
「怖い」で満たされる

「怖い」で満たされる

【AERA 2025年2月24日増大号】近年、ホラー系のコンテンツが盛り上がりを見せています。不気味な企画展に長蛇の列ができ、本のベストセラーランキングではホラー小説が上位にランクイン、映像作品も続々誕生しています。なぜ人は恐怖を求めてしまうのでしょうか。令和のホラーブームの正体とは──。

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100以上の海外フェスに参加した筆者が40か国、120以上のフェスをナビゲート
100以上の海外フェスに参加した筆者が40か国、120以上のフェスをナビゲート
音楽フェスというと、フジロック・フェスティバルやサマーソニックなど国内で開催されるものを想像する方が多いのでは? けれど世界に目を向けてみると、日本とは驚くほど規格外な規模や雰囲気のフェスも数多く存在します。  本書は海外フェスを旅の一つの目的に設定した、ちょっと目新しいガイド本。これまで100以上の海外フェスに実際に参加したという筆者・津田昌太朗さんならではの目線で40か国、120以上のフェスが紹介されています。  本書を開いて魅了されるのは、いたるところに挿入されている写真の数々。オリジナル写真やフェス公式のフォトグラファーによる写真が使われているそうですが、その場の迫力や熱狂がそのまま伝わってくるかのよう! 筆者にとってフェスティバルの正体とは「ほんの数日の間だけ、非現実の世界を具現化させた最高峰のエンターテインメント」だそうですが、そうした非日常な空間へと一気にいざなわれます。  そして写真とともに、各フェスの紹介では概要、見どころ、最近の出演アーティスト、開催地やスケジュール、アクセスなどの情報を掲載。それにとどまらず、著者が実際に足を運んでセレクトした、フェス周辺都市の著名な観光情報から音楽スポットなどまで載っています。  100以上のステージを楽しめる世界最強のフェス「グラストンベリーフェスティバル」(イギリス)、宇宙とコンタクトする最先端フェス「ソナー」 (スペイン)、毎年ドレスコードが変わる仮装フェス「ベスティバル」(イギリス)など好奇心を刺激されるフェスが本書には並びますが、その中からベルギーのボームで開催される音楽フェス「トゥモローランド」を例にとってみると......。  まずは「ここは遊園地か、サーカスの劇場か?」といったメインステージの写真にド肝を抜かれます。このフェスは毎年ストーリーに沿ったステージ装飾や舞台演出を行うことで独自の世界観を確立。EDMの流行とともに非日常のファンタジーを体験できるフェスとして、今では毎年40万人が来場する世界最大規模のフェスとなっているといいます。  筆者は「確実に死ぬまでに体験しておくべきフェスのひとつ」とまで書いており、音楽好きであれば心かき立てられること間違いナシ。とはいえ、ベルギーという国自体にはあまり詳しくないという皆さんも多いはず。  そこでフェス情報の次に掲載されているのがベルギーの観光情報。首都ブリュッセルで訪れるべきスポットや過ごし方から、「実は会場となるボームから一番近い観光地はアントワープ」といった役立つ知識まで紹介されています。  また、海外フェスで活躍する日本人アーティスト、コムアイ(水曜日のカンパネラ)、DJ KSUKEのインタビューも掲載。アーティスト目線での海外フェスの魅力や日本のフェスとの違い、さらに参加したときの楽しみ方、そしておすすめ海外フェスもピックアップされており興味深い!  このほかにも巻末には、海外フェスのチケットの取り方から持ち物、会場の過ごし方、宿泊など、著者がよく聞かれるという質問と、それに対する回答も。いたれりつくせりな内容で、海外フェスビギナーも安心できることと思います。  「フェス×旅」の素晴らしさを全体から感じ取れる本書。海外フェスに出かけたい人はもちろん、あわただしい日常から離れてつかの間の非日常感を楽しみたい人にもオススメの一冊となっています。
BOOKSTAND 5/28
孫正義氏も絶賛した最強プレゼンスキル 1分で人を動かす技術とは
孫正義氏も絶賛した最強プレゼンスキル 1分で人を動かす技術とは
"人前で自分の意見を言おうとすると頭が真っ白になってしまう" "一生懸命話しているつもりだけど、話せば話すほど相手の反応がイマイチ" "社内会議やプレゼンテーションの場で、「TED」に登場するプレゼンターのようにドラマティックに話すなんてムリ"  そんな困り感を抱えている方も多いのではないでしょうか?  そもそも小さい頃から人前で自分の意見を披露する機会が少ない日本では、未だに気恥ずかしさが先立ち、消極的になってしまう人がほとんど。  実は、今回紹介する書籍『1分で話せ 世界のトップが絶賛した大事なことだけシンプルに伝える技術』の著者、伊藤羊一さんも、そんなプレゼンが苦手な1人でした。  しかし、努力を重ねた末に伝えるスキルを改善し、やがて孫正義さんの後継者養成学校「ソフトバンクアカデミア」に所属、孫さんからプレゼンを絶賛されることに。  本書では、「1分でまとまらない話は、結局何時間かけて話しても伝わらない」と述べ、ダラダラと話が長いのは、伝えるべきことがまとまっていないからであり、根拠と結論を構築して1分で収まるように話すことが重要だと訴えています。  また「人は、相手の話の80%は聞いていない」(本書より)と述べ、相手に的確に伝えるためには、一言のキーワードに凝縮することが大切だと言います。  現在はYahoo!の企業内大学「Yahoo!アカデミア」学長を務める伊藤さんが、今まで培ってきたプレゼンスキルを余すところなくまとめた本書は、ビジネスパーソンならずとも、コミュニケーション能力をアップさせたい人にとっては必読の1冊と言えるでしょう。
BOOKSTAND 5/24
善意にイライラ、人工肛門で医師にモノ申した日も...がん患者になった政治部記者が闘った日々
善意にイライラ、人工肛門で医師にモノ申した日も...がん患者になった政治部記者が闘った日々
がんのなかでも生存率が低いとされる難治性の膵臓(すいぞう)がん。本書『書かずに死ねるか』は、43歳で膵臓がんを告知された朝日新聞政治部記者・野上祐さんが連載していたコラムを書籍化したもの。  本書の中では、新聞記者ががん患者になって初めて感じた葛藤や、また医師や看護師の言葉に傷ついた事も多々あったと明かしています。  たとえば、人工肛門をめぐる問題。人工肛門の場合、腹部に便を溜める袋を貼り付けるのですが、 病院では"早く慣れてください"と言われるだけで、どんなに気を付けても便が漏れてしまったと言います。  あるときは、扱いに精通したベテラン看護師が装着してくれたにも関わらず、あっけなく漏れてしまったのだとか。 「『やっぱりできないんじゃないか』。けっきょく正解は見つからなかったのに、気分がすっきりした」(本書より)  プロの看護師が着けてすら漏れるのだから、ましてや医療に関しては素人の患者側がいくら頑張っても漏れるのは当たり前。それでも患者側の苦労を想像できない医師や看護師からは相変わらず、まるで患者側の努力が足りないような言葉を繰り返し言われたことに憤慨。たまらずに、以下のように言い返したと言います。 「すかさず専門家の名前を挙げて、『あの人にやってもらったんですけど、漏れました』。黙り込んだ相手にだめ押しした。『専門家がやっても漏れるんですから、慣れは関係ないですよね』」(本書より)  野上さんはやがて、がんの症状そのものよりも、がん治療に伴う他の要素にストレスを感じていたことに気づきます。たとえば、周囲からの善意のアドバイス―――もう十分に頑張っているのに「頑張ってください」と言われることなど―――にも複雑な思いを抱えたこともあったと言います。 「自分が闘っている相手は病気ではない」 「治療や仕事で関わる、決して悪意のない人たち。具体的には、その間でパターン化されてきた考え方や習慣こそ、自分を苦労させる敵ではないか」(本書より)  2018年12月末に亡くなるまで、自身を"取材"するかのように病床で書き続けられた本書は、最期まで冷徹な目線を失わずにがんと対峙した記者が心血を注いだ1冊と言えるでしょう。
BOOKSTAND 5/21
甘味中華? 洋食中華!? 町中華探検隊が名店50軒を徹底取材!
甘味中華? 洋食中華!? 町中華探検隊が名店50軒を徹底取材!
今回ご紹介するのは『町中華探検隊がゆく!』なる一冊。「町中華」とは、主に昭和のころに創業し、高度経済成長期~バブル期にかけて続々と増えた町の大衆的な中華食堂のことを指すのだそうです。そう聞くと「ああいうタイプのお店か!」とパッと脳裏に思い浮かぶ人も多いのでは?  本書はこれまで数多くの町中華を訪ねてきた、北尾トロさんを隊長とする「町中華探検隊」の隊員5名が東京の名店50軒を徹底取材し、知られざる「町中華」の物語に迫った内容になっています。  町中華というと、本場の中国料理店とは異なり、中華以外のメニューが並ぶこともしばしば。むしろそれこそが魅力のひとつといえましょう。本書にはそうしたユニークな店が次々に出てきます。  たとえば1章の「町中華の面白さを知る」には「甘味中華・洋食中華」なんていうカテゴリが。新御徒町の「今むら」にはラーメンやチャーハン以外にカツ丼や海老フライなどのメニューもあり、しかもお店の看板には「とんかつ」と銘打ってあるのだそう! 春日にある「ゑちごや」はタンメンや中華丼のほか、カレーライスやカツ丼、目玉焼き定食、そしてあんみつやしることいった甘味メニューもあるというから驚きです。  2章の「町中華密集地帯を歩く」では荻窪、浅草橋、堀切菖蒲園という3か所を特集。お店の紹介とともに、なぜその土地が町中華のメッカとなったのかやエリアごとの町中華の特徴などにもふれており、ぶらぶら街歩きをしながらお店をはしごしたい気持ちにさせられます。  続く3章「町中華のメニューを研究する」では、中華丼に冷やし中華、餃子、タンメン、チャーハンなどが実においしそうな写真とともに登場。「中華丼は町中華の実力のバロメーター」や「素材そのものが何よりの調味料」など、各店の定番メニューの魅力がとことん語られています。本書にはお店のご主人への取材が数多く収められていますが、店主の人柄やこだわりなどを垣間見ることができるのも大きな魅力です。  最後の4章は「町中華をディープに楽しむ」として、立地や建築、店主の趣味など独特のディープな視点から選んだ町中華が紹介されています。たとえば三河島にある「すずき」は、店内に4つあるテーブル席はどれも1人席という非常にユニークなレイアウト。これはどの位置からもちゃんとテレビが見えるという計算され尽くした角度になっている、おひとりさま優先のお店なのだとか。ほかにも手書きメニューがお店をさらに味わい深いものにしている椎名町の「十八番」や豊洲の大型団地の一階にある「中華いちむら」など、ベテランの町中華好きにも納得のお店が並んでいます。 こうして見てみると、いちおう定義らしきものはあるものの、その中身はとても自由で奥が深い「町中華」。探検隊のメンバー自体も、店の歴史にこだわる人やコスパ追及派、店主の人柄重視など、探索ポイントはさまざまだといいます。  であれば、私たちも肩ひじ張らずに、自分の好きなスタイルで町中華を楽しむのがいちばん。チェーン店とは異なる独自の進化を遂げてきた「町中華」の魅力に、もっともっと気軽に皆さんも親しんでみてはいかがでしょうか。読んだ後は近所の町中華にふらりと訪れたくなる、そんな食の楽しさを刺激してくれる一冊になっています。
BOOKSTAND 5/16
ツイッターフォロワー数9万人! 上馬キリスト協会が出したゆるーい本って?
ツイッターフォロワー数9万人! 上馬キリスト協会が出したゆるーい本って?
皆さんは「上馬キリスト教会」のツイッターのアカウントをご存じでしょうか? 東京都世田谷区駒沢に実在するメソジスト系単立教会でもありますが、2015年2月にスタートしたツイッターアカウントが話題となり、フォロワー数9万人(2019年5月段階)を超えるほどの大人気アカウントとしてその存在を知られています。  このアカウントを運営しているのが上馬キリスト教会の信徒である「マジメ担当」と「おふざけ担当」のふたり。彼らがふだんのツイートでおこなっているのと同様に、聖書とキリスト教の世界を本当にゆる~く、ざっくりと紹介したのが本書『上馬キリスト教会の世界一ゆるい聖書入門』です。  神道系と仏教系が大半を占める国・日本。そのため、キリスト教や聖書についてよく知らない人が多いのは自然なことであり、そもそもそこまで興味を抱いていないという人がほとんどかと思います。  けれどもし、たとえばキリストの弟子である使徒について「ペテロはドジでおっちょこちょいな使徒のリーダー」「癒し系使徒のピリポは『ドラゴンクエスト』の初代勇者?」なんて言葉を目にしたら、思わず興味をそそられてしまいませんか? このゆるさ、真面目でとっつきにくい聖書のイメージが一転しちゃう......!  ほかにもキリスト教や聖書にまつわる豆知識が満載の本書。たとえば「キリスト」という名前ですが、これは名字ではなくて「油注がれた者=救世主」のこと。つまり、「イエス=キリスト」は「イエス・ザ・救世主」という意味なのだとか。「ええそうです、なんとなくちょっとプロレスっぽい呼び方で、この2000年以上、呼ばれ続けていらっしゃるのです、この方」なんてふうに、楽しくざっくりと教えてくれます。  こうして見てみるとわかるとおり、本書のコンセプトは「信じなさい」でも「聖書に従いなさい」でもなく、「まずは聖書を楽しんでみて!」ということ。本書「はじめに」では、「この本を読んで「キリスト教って素晴らしいな!信じよう!」とか思う方がいらっしゃったら、私たち、全力で止めます」とまで言っちゃってます。  信徒ではないノンクリスチャンにとっては、キリスト教や聖書は人生において必要ないものかもしれません。けれど、宗教に寛容と言われる日本に生まれた私たちだからこそ、こうして違う宗教についてもゆる~く笑いながら触れることができるとも言えます。せっかくならその恩恵を受けてみるのもよいのでは?  というわけで、自分の知識や世界を広めるうえでもタメになりそうな本書。キリスト教の超・超・超・超入門書として、気負わず構えず開いてみてはいかがでしょうか。
BOOKSTAND 5/14
誤嚥性肺炎の予防にも!? 知られざる「音読」の健康効果に迫る
誤嚥性肺炎の予防にも!? 知られざる「音読」の健康効果に迫る
2017年刊行の前著『心とカラダを整える おとなのための1分音読』が大ヒットした、大東文化大学文学部准教授・山口謠司さん。続編となる『もっと心とカラダを整えるおとなのための1分音読』では、夏目漱石の『こころ』や、中島敦の『山月記』など教科書でおなじみの名作を、"1分を目安に読める"ボリュームで55篇紹介しています。  「音読」には、黙読にはない利点が盛りだくさんとする本書ですが、その意外な効用が、「誤嚥(ごえん)性肺炎」の予防。高齢者に多く、今や国民病ともいわれる誤嚥性肺炎ですが、音読習慣によってのどを使うことにより、のどの筋肉が衰えるのを防ぎ、発症リスクを下げることが期待できると言うのです。  「のどの筋肉は年齢とともに衰えていきます。本来食道に入るべき食べ物が誤って気管に入ることで起こる誤嚥性肺炎は、年を重ねるとともに気をつけたい病気のひとつです。予防のためにも、音読でのどの筋肉を自然に鍛えましょう」(本書より)  本書では、歯切れのよい小説や漢詩はもちろん、『弁天娘女男白浪(べんてんむすめめおのしらなみ)』といった歌舞伎のセリフや、『人形の家』のような戯曲なども収録しています。ただ読むだけではなく、歌舞伎や演劇の舞台を鑑賞したり、たとえば『金色夜叉』の銅像がある熱海など、文学作品のゆかりの地を実際に訪れたりすれば、音読の楽しみも倍増すると提唱しています。登場人物に成り切ったつもりで、歯切れがよいセリフを楽しんだら、ぜひ作品の舞台にも足を運んでみてはいかがでしょうか?
BOOKSTAND 5/10
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