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還暦を過ぎても“電流爆破”は現役!稀代のカリスマ・大仁田厚が“邪道”を歩き続ける理由とは?
突然の質問だが、「名プロレスラー」といえば誰の名前を思い浮かべるだろうか。ジャイアント馬場にアントニオ猪木、天龍源一郎やジャンボ鶴田......。評価の基準は様々だが、これらのビッグネームは王道の名レスラーとして誰もが認めるところだろう。一方で、"邪道"を生きる名レスラーといったら誰か? 私がまず真っ先に思い浮かべる名前が、大仁田厚氏だ。 元は全日本プロレスに「新弟子第一号」として入門し、ジャイアント馬場に師事していた大仁田氏。感情むき出しの荒々しいファイティングスタイルから「炎の稲妻」と呼ばれ人気を得たものの、膝の大怪我で引退を余儀なくされる。ここまでならよくある不幸なレスラーの話だが、大仁田氏はここからが違う。世間の目や評判を気にせず、泥臭くとも必死に食らいついて"邪道"のレスラーとして一時代を築いたのだ。その最たる功績のひとつが、「ノーロープ有刺鉄線電流爆破デスマッチ」。日本プロレス史に大きく残る同プロジェクトをやり抜いた男の生き様が、『人生に必要なことは、電流爆破が教えてくれた』(徳間書店)という一冊に描かれている。 大仁田氏のプロレス人生は、最初から"邪道"で始まったわけではない。相手の技を受けきるジャイアント馬場流プロレスを身につけ、当初は馬場、猪木、鶴田に続く"全日本第4の男"と目されていた。そんな大仁田氏を馬場が可愛がっていたのは周知の事実で、本気で養子縁組を考えていたという噂もあるほど。そんな馬場も、左膝蓋骨粉砕骨折という大怪我を負った大仁田氏をプロレスラーとして食わせていくことはできない。後楽園ホールでマイティ井上と引退を賭けた試合に負けた大仁田氏は、一度は間違いなくリングを降りた。当時の引退というのは今のように演出的な意味を含まないガチの引退を意味していたので、大仁田氏はそれから現場作業員などの肉体労働をこなして"空白の一年"を過ごしたという。 しかし、学歴も経験も資格もない大仁田氏は定職につけず、いくつもの会社で面接に落ち続けた。「俺の人生、もう終わりかな」と惨めで情けない気持ちになってきたところで、大仁田氏の心にプロレスに対する熱い感情が込み上げてきたと語る。 "何でもきっかけなんだよ。人間ってきっかけがないと動かない。あのとき、得られるものもなかったけど、失うものもなかったわけでさ。それで「もう終わりだ」なんて言っている場合じゃないじゃん。それで缶コーヒー飲みながら決断したんだよ。「俺のいるべき場所は、リングだ」って。"(本書より) その後、現役復帰した大仁田氏は、全財産の5万円を元手に、インディープロレス団体「FMW」を旗揚げ。他の大手団体とは全く違った"なんでもやるスタイル"がプロレスファンに受け、一躍時の人となった。「FMW」を大きく躍進させたのが、ご存知「ノーロープ有刺鉄線電流爆破デスマッチ」。ロープの代わりにリング四方へ有刺鉄線を張り巡らせ、触れると仕込んである火薬が発破する仕組みだ。もちろん有刺鉄線は肌に当たれば皮膚が裂け、火薬による爆破を食らったら火傷を負う。本物の血を流しながら爆発の中で戦うレスラーを初めて見た時の衝撃は、今でも鮮烈な記憶として焼きついている。 関節技や華々しい投げ技ではなく、見ただけで「痛みが伝わるプロレス」を実現させた大仁田氏。デスマッチ路線を進むことになった背景には、経営が苦しいインディー団体としての苦悩があったという。大仁田氏も選手として表舞台に立つ以上、凶悪なシステムを用意すれば痛めつけられるのは自分自身。それを理解していても、ファンに「そこまでするか」と言わせるため頭をフル回転させ続けた。しかし大仁田氏は体もそう大きくはなく、ジャンボ鶴田やタイガーマスクのように華麗な技もない。「じゃあどうするんだ?」と自問自答した大仁田氏は、以下のように考える。 "自分の持っている「これしかできない」を最大限にやるしかないんだよ。それが電流爆破。有刺鉄線に引っ掛かって血を流して、UWFの関節技よりリアリティのある痛みを伝えるしかなかったんだ。それ以外できないんだから。"(本書より) どんなに痛くても苦しくても、自分ができることをひとつずつ確実にこなしていく。アイデアだけでも行動だけでもなく、ひらめきを実践するというパワーが大仁田氏と「FMW」をここまで押し上げたに違いない。すでに還暦を過ぎた大仁田氏だが、まだまだ電流爆破デスマッチ現役。自分が本心からやりたいと思ったことに全力を出す面白さを、いまだに感じ続けているという。 "やりたいことをするために頑張ることの楽しさやうれしさ、そして、目標に達したときの幸せや達成感みたいなものを感じられる人生の方が絶対面白いよ。無難にちょうどよく生きてたって、俺はそんなの息苦しくってたまんないよ。"(本書より) 自分が直面している物事に目標を設定して、達成する喜びを感じられるのはどの立場、年齢の人も同じ。「無理をしない」「分相応」といった風潮が蔓延する現代社会だが、たとえ泥臭くても「これしかできない」を全力で実践するほうが人生を楽しめるに違いない。

物事の見方・考え方が豊かになる! 13歳のときに知りたかった「アート思考」
大人に尋ねると、苦手な教科としてあがることが多いという「美術」。ある調査によると、小学生の「好きな教科」で「図工」が第3位にランクインしているにもかかわらず、中学校の「美術」になった途端、その人気が急落するという結果が出ているのだとか。 つまり、「13歳前後」のタイミングで美術嫌いの生徒が急増している可能性が考えられます。そこで、13歳の分岐点に立ち返って「思考OS」をアップデートすることで、美術の本当の面白さを体験してほしい、自分なりのものの見方・考え方を見つけてほしいという思いを込めて書かれたのが、本書『「自分だけの答え」が見つかる 13歳からのアート思考』です。 本書の題材として登場するのは、クロード・モネ「睡蓮」をはじめ、パブロ・ピカソ「アヴィニョンの娘たち」、マルセル・デュシャン「泉」、アンディ・ウォーホル「ブリロ・ボックス」など、20世紀を代表するアーティストの作品たち。本書は1~6までのクラス(授業)に分けて、それぞれの作品に対して質問がなされています。読者は自身で考えてそれに回答し、著者の末永幸歩さんが解説をするという構成になっています。それを繰り返すことで、アート思考を深めたり、アート作品の見方を学んだりしていくことができるというスタイルです。 たとえば、クラス1の「『すばらしい作品』ってどんなもの?」で取り上げられるのは、アンリ・マティスの「緑のすじのあるマティス夫人の肖像」という絵画。 まず末永さんは、「自分の感覚器官を駆使して作品と向き合うことは、『自分なりの答え』を取り戻すための第一歩」(本書より)ということで、「アウトプット鑑賞」という手法を紹介しています。これは作品を見て、気がついたことや感じたことを声に出したり、紙に書きだしたりしてアウトプットするというものです。こうすることで、なんとなくでしか見ていなかった絵をじっくりと自分の目で鑑賞できるようになるといいます。 そのうえで、マティス夫人の肖像画を見てみると「果たしてこれが20世紀のアートを切り開いたアーティストによる代表作?」という疑問を抱く人も多いようです。色、形、塗り方のどれをとっても、そこまで褒められるものではないような......。事実、当時の評論家たちにも「もっとうまく描ける人はいくらでもいる」と批評されていたといいます。 ところが、実はこれこそが重要なポイント。当時、20世紀が訪れるまでの長い間、「『すばらしい絵』とは『目に映るとおりに描かれた絵』であり、それこそがアートの『正解』だと考えられていた」(本書より)という歴史がありました。しかし20世紀に入り、カメラが登場したことで状況は一変。アートの世界にあった明確な答えやゴールは壊れてしまったのです。 そこでマティスは、「『目に映るとおりに世界を描く』という目的からアートを解放した」(本書より)のだと末永さんは解説します。マティス夫人の肖像は「うまいからすばらしい作品」なのではなく、「『表現の花』を咲かせるまでの『探求の根』の独自性がすばらしい作品」というわけです。これこそまさに、アート思考の一つとして捉えられる事例ではないでしょうか。 末永さんがインストラクター、私たち読者が生徒となって、「アート思考教室」の授業を受ける気分で読み進めることができる本書。興味を持った方はぜひ本書を開いて、美術の本当の面白さを体感してみてください。

忖度し過ぎが日本を滅ぼす!? クルーズ船"告発"医師がYouTubeに動画公開したワケ
クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」号の告発で耳目を集めた、神戸大学病院感染症内科教授の岩田健太郎医師。2020年2月18日に、新型コロナウイルスの集団感染が起きていた船内の状況をYouTubeにアップロードし、動画は世界中で拡散されました。 その行為には賛否両論ありましたが、一体なぜ、岩田医師は動画を公開するという手段を取ったのでしょうか? 近著『ぼくが見つけたいじめを克服する方法 日本の空気、体質を変える』では、その理由について、以下のように振り返っています。 「結局のところ、ぼくがYouTubeにダイヤモンド・プリンセスの実情をアップしたのは、『理不尽に泣き寝入りはしない、絶対にしない』という思いがあったからだと思う」(本書より) 横浜港に停泊中の船内の情報が出て来ない状況を懸念した岩田医師は、感染対策のために乗船します。もともと、クルーズ船という空間は閉鎖的な環境で、感染症リスクが非常に高い場所でした。 乗船してみると、船内には感染症対策の専門家が1人もおらず、非常に危険な状況。感染対策の基本であるゾーニング(ウイルスに汚染されていないグリーンゾーンと、汚染されているレッドゾーンを区別すること)が不完全だったために、乗客乗員以外にも、医療従事者や検疫官、厚生労働省の官僚が多数、二次感染してしまったのです。 しかし、感染症の専門家の立場から、改善対策を進言した岩田医師は、乗船からわずか2時間後に締め出されてしまいます。 背景には、日本社会特有の同調圧力があったと述べます。本書では、異なる意見に耳を傾けることなく、問答無用に排除する状況は、多様性の否定でしかなく、異論を認めない社会は、全体主義に行き着くと警鐘を鳴らしています。 本書では、こうした日本社会のありようこそが、いじめを許容する構造になっており「大人の社会がいじめ社会だから、子供社会でいじめがなくなるわけがないのだ」(本書より)と言います。自身も子供時代に、いじめられる側だったという岩田医師は、リアルないじめ対策として、事実確認と公表、情報をクローズにせずオープンにすることが有効だと述べます。つまり、それが今回の動画を公開するという手段だったわけです。 「日本の人たちが『人と違う』ことに耐えられるようになったとき。そのとき、日本のいじめ問題も(皆無にはならないまでも)多くは克服・軽減されるだろう」(本書より) 今回のコロナ禍により、さまざまな変革を余儀なくされている日本社会。一人一人の意識改革こそが、コロナ克服のカギと言えるのかもしれません。

文系がAIでキャリアアップするには? 基礎用語から作り方、企画のコツまで詳しく伝授!
AI(Artificial Intelligence)とは、日本語で「人口知能」の意味。AI技術が身近になった今、「AI社会になって職を失うのでは?」「文系の私がAI人材になるにはどうすれば......」と気になっている方もいるのではないでしょうか。そんな不安や疑問を解消してくれるのが、本書『文系AI人材になる―統計・プログラム知識は不要』です。 AIの世界は理系の人間にしか通用しないと思われがちですが、「AIをどう作るか」よりも「AIをどう使いこなすか」が大切であり、そこで重要になるのがビジネスの現場も知っている文系AI人材なのだと著者の野口竜司さんは言います。 たとえば、文系・理系問わずビジネスで当たり前のように使われているExcel。野口さんは「AIはExcelくらい誰もが使うツールになる」と記載しており、この言葉を聞くと文系の人もAIを使用するイメージがしやすいかもしれません。 では具体的に、文系AI人材にはどのような仕事があるのでしょうか? 野口さんによると「理系AI人材がやらない、AI活用に必要なすべての仕事」(本書第2章より)が発生してくるとのこと。 たとえば、AIを構築するプロジェクトマネジメント全般や構築済みAIサービス選定でどれを使うかの検討、AIの現場導入とAIの利用・管理など。つまり「AIと働くチカラ」が必要となってくるわけです。これにはまず「AIのキホンを知り、AIの作り方を知り、AIをどう活かすか企画する力を磨き、AIの事例をトコトン知ること」が欠かせないと野口さんは書いています。 本書にはそうした「AIと働くチカラ」を養うための術も満載。第3章では「AIはキホン丸暗記で済ます」、第4章では「AIの作り方をザックリ理解する」といったふうに、文系AI人材が知っておくべき情報が載っています。 続く第5章のタイトルは「AI企画力を磨く」。基本の知識を頭に入れるのとは違い、自身で企画を生み出すのはまた一段、ハードルが高く感じる方もいるかもしれません。しかし本書では、企画アイデアを具体化するためのコツについても図を交えて解説しているので、実践トレーニング本としてスキルを高めていけそうです。 そして第6章「AI事例をトコトン知る」では、事業別×活用タイプ別の45の事例を掲載。たとえば「ZOZOUSED、古着の値づけにAIを導入」「日経、100年分の新聞記事をAIで読み取り。精度95%」など、昨今のAI事情が手に取るようにわかり、ためになります。 このように、本書を読めば、現在のAI全般についてひと通り学ぶことができ、「AIをどう使いこなすか」が見えてくるはず。これからの社会を生きる文系の皆さんにとって必読の一冊といえるかもしれません。

岡本かの子、樹木希林など... 母の日に読みたい「スゴ母」たちの型破りエピソード
新型コロナウイルス感染拡大を受けての小中学校の休校および幼稚園・保育園の休園により、一日中子どもと向き合わざるを得ない母親がほとんどの今日。子育てしながらの在宅勤務や家事労働で、疲労がピークに達しているママも多いのではないでしょうか? そんなママたちにオススメしたいのが、『不道徳お母さん講座:私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか』などの著者である堀越英美さんの最新刊『スゴ母列伝~いい母は天国に行ける ワルい母はどこへでも行ける』です。 本書では「キュリー夫人」ことマリー・キュリーや、童話『長くつ下のピッピ』著者のアストリッド・リンドグレーンなど、古今東西の型破りな「スゴ母」たちの逸話をテンポよく紹介しています。なかでも突出しているのが、文豪・岡本かの子のエピソード。あの「芸術は爆発だ!」のフレーズでおなじみの世界的芸術家・岡本太郎の母です。 息子の太郎を柱やタンスに縛り付けて、かの子が執筆に没頭していたというのは有名な育児伝説。ほかにも、料理や裁縫といった家事が苦手で「赤ちゃんの頭にしょっちゅうけつまずくようなガサツなお母さんだった」(本書より)とか、夫公認で美青年を愛人にして同居させていたとか、逸話が盛りだくさん。 幼い太郎を相手に恋愛相談をすることもあったそうで、著者に言わせると「どっちが子どもだかわからない」母子関係だったようです。「キラキラしたものに憧れ、こってりおめかしした自分を愛し、世間が自分と同じように自分を愛してくれないことに泣く」(本書より)というナイーブな少女性と芸術性を併せ持った、およそ母親らしからぬ母親でした。もし現代社会でそんな私生活をインスタグラムにアップしていたら、大炎上しそうな破天荒ぶりです。 しかし本書では「世間が求める『母』の型にはまることなく、泣き、笑い、甘え、徹底的に子どもにとっての他者であり続けたことで、かの子はヒューマニティを子どもの生命に刻み付けたのだ」(本書より)と述べ、いわゆる「正しい母親」像から逸脱し、自分の生き方を貫いたかの子だからこそ、太郎の人生に多大な影響を与えたことが伝わってきます。 また、女性解放運動の先駆者である山川菊栄の母・青山千世の章では、菊栄が「母性保護論争」で知られる運動家となった背景には、母・千世の存在があったと明かします。自身も勉強大好き少女だった千世は、東京女子師範学校(現在のお茶の水女子大学)に首席で入学。当時では最先端の男女同権の教育を受け、自分の子どもたちにも読書を奨励し、学生時代の思い出を繰り返し語ったと言います。 「良妻賢母教育など、息子や夫を立身出世させるための『卑俗な功利主義』にすぎない」(本書より)や、「貧しい女性たちが母であることを理由に教育や安定した賃労働から遠ざけられる社会の『母性』など、『奴隷としての婦人の苦役』にすぎない」(本書より)などの菊栄の論考は、いま読んでも色褪せない、非常に示唆に富んだ内容です。女性が抑圧されていた時代に、菊栄が好奇心を失わずに問題意識を持ち続け、運動家として後世に名を残すに至ったのには、千世の教えが大きかったと言えるでしょう。 WEB連載時のスゴ母11人に加えて、コラム「歴史上のヤバ母伝説」では、ぶっ飛びすぎてヤバい母たちのこぼれ話を描くほか、大幅加筆の「まだまだいるスゴ母たち」では、小池百合子東京都知事の母・小池恵美子さんや、2018年に亡くなった女優の樹木希林さんの独特な育児スタイルなどを紹介。歯切れの良い文章でぐいぐい読み進められます。 著者自身が「どの母もスゴすぎて育児のお手本にはきっとならないけど、『自分は自分のままでいい』と勇気が出ること請け合いである」(本書より)と断言する通り、本書は、世間の育児プレッシャーをはね返し、ママたちに自己肯定感を取り戻させてくれること間違いなしの一冊と言えるでしょう。今月10日の「母の日」を迎える前に、手に取ってみてはいかがでしょうか。

「ヤバい世界のヤバい奴らは何食ってんだ?」世界の現実を「食」を通して問いかける人気番組が書籍化!
テレビ東京で不定期に放送されている異色の人気グルメ番組『ハイパーハードボイルドグルメリポート』が待望の書籍化。同番組は「ヤバい世界のヤバい奴らは何食ってんだ?」をコンセプトに、なかなか踏み込めないような世界に番組プロデューサーが単身で乗り込み、そこで生きる人々の食事を撮影するというものです。 たとえば、シベリアの山奥にあるカルト教団で出される朝食、ロサンゼルスの一角で対立し合うメキシコ系ギャングと黒人ギャングそれぞれの食事など。どの回を観ても刺激的ですが、「番組で放送したのは僕が見たものの千分の一」と番組プロデューサーで本書の著者である上出遼平さんは記します。 本書は、番組の企画から現地での取材、演出までほぼ一人で手掛けている上出さんによる初の著書。番組の内容をそのままなぞって書籍にしただけかと思いきや、彼の言葉のとおり、番組に収まり切らなかった1000分の999が臨場感たっぷりに書かれています。 大きく分けると「リベリア 人食い少年兵の廃墟飯」「台湾 マフィアの贅沢中華」「ロシア シベリアン・イエスのカルト飯」「ケニア ゴミ山スカベンジャー飯」という章立てになっており、小見出しにも「留置場のショータイム」「台湾黒社会」「シンナーチルドレン」「汚染豚」といった文字が躍ります。 そもそも、なぜこれほどまでに「ハイパーハードボイルド」な企画が誕生したのでしょうか。本書では、番組では明かされないような、そうした点についても触れられており、上出さんの熱い思いを感じ取ることができます。 「食卓には、文化、宗教、経済、地理、気候、生い立ち、性格、その他人間を取り巻く有象無象が現れる。食は多種多様な『生活』の写し鏡だ」「彼らの食卓に、我々は何を見るのか。世の中に黙殺されているヤバいものの蓋を剥ぎ取って、その中身を日本の食卓に投げつける」と上出さんは書いています。 さらに、これが初著書とは思えぬほどの上出さんの筆力も注目すべき点。特に食の描写がすばらしく、読むほどにこちらの食欲を刺激します。 「老舗鰻屋の継ぎ足しのタレのような芳醇な香ばしさに、干し魚の旨味、そして芋の葉の粘りと青い香りにパームオイルの酸味。美味い。米が進む。あの暗闇の寸胴の中でこんな地獄の味とも天国の味ともつかない妙味が生まれているなんて」(本書より) 「ブラックスミスがスープを白米にかけて食べている。そうそうそれだと思って真似してみると、これがまた美味い。乾燥気味に炊かれた米はこれで完成するのだ。ほどよくスープを吸って、豚の脂でテラテラと光る白米に文句を言う奴はこの世にいない」(本書より) 番組ファンも初めて知る方も、「ヤバい世界のヤバい奴らの飯」を本書でのぞいてみませんか? まだまだ自分の知らない世界があることを突き付けられるとともに、自身の食や生活、幸福などについて考えさせられるものがきっとあると思います。

滝沢カレン初のレシピ集! 独特すぎる説明で話題となった「鶏の唐揚げ」など30品以上を収録
ファッションモデルだけではなく、タレントや女優としても活躍の場を広げている滝沢カレンさん。トーク番組などで見せるユニークな言い回しの「カレン節」も彼女の魅力のひとつです。特にインスタグラムに投稿している料理写真は、おいしそうなビジュアルとともに、その独特すぎるレシピ説明が大きな話題に。 そんなカレンさんの「鶏の唐揚げ」レシピをはじめ、「サバの味噌煮」「ハンバーグ」「チキン南蛮」「ビーフストロガノフ」「ラザニア」など30品以上を収録しているのが、本書『カレンの台所』です。 本書を開いて驚かされるのが「分量」や「時間」が一切出てこない点。レシピ本といえば「砂糖大さじ1」や「弱火で1時間弱煮る」などが書かれているものですが、そうした記載はありません。本書は、可愛らしいイラストや完成写真とともに、カレンさんの文章をとことん堪能できる構成になっています。 たとえば「ロールキャベツ」のレシピでは「本日は包まれたい欲の強い乙女なひき肉と、包みたい欲が強いキャベツの男気溢れるロールキャベツを作りました」「どの葉がいちばん男として強いかを、見定めていきます」「豚ひき肉乙女が完全に私たちの目からいなくなったら両想い確定ですので、結婚指輪がてらに爪楊枝などの棒をぶっ刺して離れないように誓ってもらいます」(本書より)というふうに、まるで食材たちが登場人物のおとぎ話を読んでいるかのような、ワクワクした気分でページをめくることができます。 「数字に惑わされずに ただ自由に絵を描くように 料理をしたらいい」「目と親友になってさ 目が計りになってさ 最後は味見に任せりゃいい」「基礎も 決まりも 間違いも 答えも ないのだから」と本書に記しているカレンさん。そうか、料理ってもっと自由に楽しんでいいんだ、と気づかされる人も多いことでしょう。 カレンさんの魔法のような言葉が不思議な魅力を持つ『カレンの台所』をお供に、みなさんも料理という名のストーリーを紡いでみてはいかがでしょうか。

「デブ根性、オレが責任もって叩き直す」読めば誰もが痩せてしまう!? 話題沸騰「テキ村式ダイエット」
夜中にカップ焼きそばを食べながら「やっぱりダイエットは明日から!」と口にしたり、楽に痩せたい気持ちから「飲むだけで痩せる!」的なサプリを買ってしまったり。これって「ダイエットに失敗する人あるある」ではないでしょうか。 こうしたマインドを「甘いんだよ。激甘」と叩きつぶし、どんなダイエットサプリよりも効く「痩せメンタル」を授けてくれるのがテキーラ村上さんです。そして、彼がTwitterやブログで発信するスパルタな「テキ村式ダイエット」が反響を呼び、このたび一冊の書籍として出版されることとなりました。 本書『痩せない豚は幻想を捨てろ』の帯に描かれているのは「読めば誰もが痩せてしまう! 前代未聞のダイエット本が誕生」という言葉。いったいどんな斬新なダイエット法を教えてくれるのかと、思わず身を乗り出した方もいるのではないでしょうか。 けれど、本書に書かれているダイエット法は、むしろスタンダードなものといえるかもしれません。たとえば、食事であれば糖質制限か脂質制限をする、水は一日に1.5~2リットル飲むなど。運動であれば、傾斜をつけて早歩きする、筋肉の部位ごとに分割してトレーニングするなどです。 テキーラ村上さんが提唱しているのは「痩せやすく太りにくい体を作る」という基礎的なこと。では、なぜここまでテキ村式ダイエットは支持されるのでしょうか? それは「テキ村式ダイエットの最も重要なポイントは、そもそも手法ではなくメンタリティにある」(本書より)ということなのです。 「その言い訳がましいデブ根性、オレが責任もって叩き直す」「まずは脳から痩せろ、話はそれからだ」「デブを極めきった、デブエキスパートのお前に今一度言う」「クソの役にも立たない部分痩せの幻想を捨てろ、今すぐにだ」など、本書にはテキ村語録とでもいうべき名言が満載。これまでの「我慢せずとも痩せられる」という幻想を打ち砕く「真実の言葉」が書かれているのです。これこそがテキ村式ダイエットの真髄であると言えるでしょう。 とはいえ、ただの罵詈雑言ではなく、その根底にあるのはテキーラ村上さん自身が「元デブ」で、試行錯誤して体脂肪率一桁台という現在の身体を手に入れたからこその愛あるメッセージなのです。 「ダイエットは明日から」「楽して痩せたい」――そんな考え方が染みついたダイエッターをガツンと目覚めさせてくれる本書。テキーラ村上さんに罵られる覚悟ができたら、あとは読んで実践するだけです!

豆花、かき氷、朝ごはんまで 素朴でやさしい「台湾スイーツ」のレシピにほっこり
近年、日本からの旅行先としてますます注目を集めている「台湾」。人気の理由のひとつとして"食"があるかと思いますが、その中でもどこか素朴でホッとする味わいのスイーツに魅了される人も多いようです。 そんな台湾のおやつのレシピが記されているのが本書『台湾スイーツレシピブック 現地で出会ったやさしい甘味』。著者の若山曜子さんは、パリのパティスリーなどで経験を積んだ菓子・料理研究家で、夫が台湾に2年ほど駐在したことから、台北のみならず台湾各地の甘いものを食べ歩き、日本で作れるレシピのストックを増やしていったといいます。 本書に掲載されている台湾スイーツは約60種類。豆花(トウファ)、冷たいもの、QQ、粉もの、朝ごはん、台湾の洋菓子という章立てになっています。豆花やタピオカミルクティー、パイナップルケーキといった日本でもよく知られるものから、なつめの春巻き、ピーナッツソルベ、タピオカパンケーキなど、日本ではまだそれほどメジャーじゃないものまでさまざま。食感ひとつをとっても、つるん、もっちり、ふわふわ、サクサク、とバラエティ豊かで食欲を刺激されます。 ただし、通常のレシピだと日本で作るには難しい部分も。たとえば豆花は、台湾では食用石膏(硫酸カルシウム)と地瓜粉(さつまいもでんぷん)で固めるそうですが、日本ではなかなか手に入れにくいですよね。その代わりとなる材料を教えてくれるのも、本書の良さと言えるでしょう。また、豆花といえばトッピングを好きなだけ選べるのが台湾流。本書ではレモン豆花やマンゴー豆花に加え、トッピングもあずき、緑豆、黒米、なつめ、黒糖ウーロン茶ゼリーなど10種類が紹介されていて、眺めているだけでもワクワクした気持ちになれます。 本書のレシピの中には、若山さんが現地でお気に入りのお店を訪れ、実際にお店の方に話を聞いて、秘密だった作り方を踏み込んだところまで教えてもらったものもあるのだそう。巻末には「SHOP LIST」として、こうしたお店の名前や写真が掲載されているほか、「台湾で必ず買うもの」としてお菓子や雑貨などのおみやげ品が紹介されています。そのため、本書をガイドブック感覚で楽しむこともできます。 本場の味を自宅で楽しむためのレシピブックとして使ったり、台湾のお店めぐりをしているような気分でページをめくったり。レシピ本でありながら、いろいろな楽しみ方ができるのも本書の魅力。台湾を旅するような気分で、本書に漂うあたたかくて優しい空気を感じ取ってみてください。

必死に生きないと決めたらいろんなことが見えてきた! 韓国で話題のベストセラーエッセイ
韓国で話題のエッセイ『あやうく一生懸命生きるところだった』の著者でイラストレーターのハ・ワンさんは、会社員とイラストレーターという二足のわらじで奔走する毎日を送っていました。しかし次第に「なんのために必死にがんばっているのかわからない」という気持ちになり、40歳を目前にしてなんのプランもないまま会社を辞める決断をします。 これまで幸せになるために全力で走り続けてきたけれど、幸せになるどころかどんどん不幸になっている気がする......。そこで彼は「今日から必死に生きないようにしよう」と決心します。果たして、この実験はうまくいくのでしょうか? 「一生懸命生きない」を実践しはじめたワンさんは、たくさんのことが見えてきます。たとえば「やる気はすり減る」ということ。やる気は誰かに強要されて作り出すものではなく「やる気がないならないなりに、目の前の仕事をこなせばいい」「いつかはやる気を注ぎたくなる仕事に出合えるはずだし、そのときのために自分のやる気を大切にしよう」(本書より)とワンさんは言います。他人にどう見られるかを気にせず、自分のやる気は自分でコントロールしていい。日本でも「やりがい搾取」という言葉が流行っただけに、ワンさんのこの考え方に心が軽くなる人もいるでしょう。 「何もしない一日を大切にする」というのも、ワンさんが会得したことの一つ。会社員時代は「自分のやりたいことがたくさんあるのに時間がなくてできない」と感じていたワンさんですが、いざ会社を辞めて自由な時間を手に入れると、やりたいことが見つからない。彼はこれを「自分の時間をほしがっていた理由は、何かをしたいからではなく、何もしたくなかったからではないか」と分析します。日がな一日ソファーにもたれてぼーっとしているような「何もない時間」も大切なものです。「時間は、何かをしてこそ意味があるわけではない」「時には、何もしない時間にこそ大きな意味がある」(本書より)とワンさんは記しています。 本書から一貫して伝わってくるのは「自分の人生は自分のために使っていいんだよ」「必死に生きないことこそ幸せへの近道なのではないか」ということ。そんなメッセージが詰まった本書は、韓国で25万部を超えるベストセラーとなり、東方神起のメンバーの愛読書としても話題になりました。韓国人のみならず、日本人も読めばきっと共感することでしょう。

「なぜ風邪を引くの?」「血液型占いは信じられる?」 阪大教授による病理学の超・入門書
昔に比べ、治らなかった病気が治せるようになったり、選べる治療法が増えたりと、大きく進歩している医療の分野。その分、患者自身に大事な選択や決断がゆだねられるようになった部分が多いそうです。間違った判断をしないために、私たちはある程度、自分たちでも体の仕組みについて知っておく必要があるのかもしれません。 その助けとなってくれるのが仲野 徹さんの著書『からだと病気のしくみ講義』。本書では、血液系、循環器系、呼吸器系、消化器系という4つのシステムを取り上げ、そのつながりや体と病気の仕組みなどについて解説しています。 病理学の本と聞くと分厚くて難解なイメージを抱く人も多いかと思いますが、本書はそんなことはありません。医学的な専門用語などは使われておらず、活字も大きく読みやすい。さらに、大阪大学大学院で病理学の教授を務める仲野さんの大阪弁がいたるところに出ていて、非常にとっつきやすいです。気のいいおじさんの話を面白おかしく聞いているような、そんな気分で読み進められます。 たとえば第1章「血液の中身のはなし」では、赤血球や血小板などの基本的な説明がされているのはもちろんのこと、「『免疫力を上げる』ってどういうこと?」や「血液型占いは信じられる?」といった項目も。身近な話題が取り入れられていて興味をそそられますね。 ちなみに血液型占いは「まったく根拠がないことがわかっています」と仲野さん。「なのによく『お前は変わってるからB型やろ』と言われて閉口しています。ホンマにB型やから余計に腹が立ちます」(本書より)なんて書かれていて、思わず笑ってしまいます。これには全力でうなずきたくなるB型の人が多いのでは......? わずか100ページほどの本書について、仲野さんは「短い本なので、本当に基礎的なこと、入り口みたいなことしか書けません」(本書より)と「おわりに」で記しています。しかし、一般向けの病理学の本が少ない中で、これほどコンパクトにわかりやすくまとめられた本は貴重でしょう。 自身の体を知るための一冊として、病理学の超・入門書の本書を皆さんも読んでみてはいかがでしょうか? 本書の終わりでは、「からだのことをもっと知るためのブックガイド」として、仲野さんによるおすすめ書籍も紹介されているので、これを機にさらに知識を深めるのもおすすめです。
特集special feature

いじめや虐待などの「犯罪」をなくすため... 子どもにもわかりやすい「法律の本」
皆さんの中には「法律」と聞いて、ややこしくて難しいものというイメージを抱く方が多いかもしれません。それだけに、「子どもは知らなくても問題ない」と勝手に思ってしまってはいませんか? しかし、いじめ、肉体的・精神的な虐待、SNSでの誹謗中傷、お金や持ち物を奪われるなど、子どもの世界にも「犯罪」は存在します。もし被害に遭ったとき、自分を守る武器となるのが、社会のルールである「法律」です。 山崎聡一郎さん著『こども六法』の出版元である「弘文堂」のウェブサイトには「子どもは法律を知りません。誰か大人が気づいて助けてくれるまで、たった一人で犯罪被害に苦しんでいます。もし法律という強い味方がいることを知っていたら、もっと多くの子どもが勇気を出して助けを求めることができ、救われるかもしれません」と書かれています。法律を知ることが、子どもにとっても非常に大事なことだとわかりますね。 では、本書にはどんなことが書かれているのでしょうか。 「六法」とは通常、日本国憲法、刑法、民法、商法、刑事訴訟法、民事訴訟法の6つの法律を指しますが、本書では子どもとあまり関係のない商法の代わりに、少年法、いじめ防止対策推進法を合わせた計7つを法律ごとに章立てで紹介。子どもが読むことが前提なので、小学生でも読めるように漢字にはすべてルビをふり、難しい用語もできる限り噛み砕いて解説されています。 たとえば、第1章「刑法」では「刑法は破ったら国から罰を受けるルール」「罰金は国に払うお金だよ」「裁判でうそをついてはいけないよ」、第2章「刑事訴訟法」では「現行犯逮捕は誰でもできるよ」「どんなに軽い犯罪でも裁判になっちゃうの?」などの項目が、見開き形式でイラストを交えてわかりやすく説明されています。 第3章「少年法」には「子どもだからといって謝るだけでは許されない」「14歳以上は大人と同じ罰を受けることもあるよ」などの項目があり、第5章「民事訴訟法」には「いちばん大事なのはお互いに納得すること」「目に見えない心の傷も償ってもらうことができる」などがあります。ただ法律を説明するだけではなく、「苦しんでいる子どもの心に寄り添う本に仕上げよう」という著者・山崎さんの優しさが感じられます。 また、本書は特に「いじめ」に重きが置かれています。それは山崎さん自身が子どものころにいじめ被害に遭い、自身がいじめ加害者になったこともあるという中で、いじめ問題の難しさを実感してきたからなのでしょう。いじめは、外部から状況判断しづらいケースも多く、ときに子ども同士の「いじり」と誤って受け取られたり、事を荒立てず丸く収めるよう求められたりといったことも起きがちです。しかし、「いじめは犯罪である」「場合によっては法律で罰を受けることもある」という認識がもっと子どもたち、親たち、教育者たちの間に浸透すれば、いじめに対する流れも変わるに違いありません。 子どもたちに読んでほしいのはもちろんのこと、大人も一緒に本書を読んで、法律についていま一度確認してみてはいかがでしょうか。もし子どもが被害に遭ったときにどう対処すればよいか、本書が一つの指針になり得ることと思います。

NEWS・増田貴久主演でドラマ化! あの「レンタルなんもしない人」がTwitterには書けなかった話
「なんもしない」人間1人分を貸し出すサービスを仕事にしている、「レンタルなんもしない人」(通称:レンタルさん)をご存じでしょうか? 「なんもしない人(ぼく)を貸し出します(中略)飲み食いと、ごくかんたんなうけこたえ以外、なんもできかねます」というTwitterのプロフィールの言葉通り、貸し出すのは自分自身です。2018年6月にTwitterに登場してからというもの、今やフォロワーは25万5000人以上。メディアで取り上げられることも多く、4月8日(水)からは、NEWSの増田貴久さん主演のドラマ『レンタルなんもしない人』(テレビ東京系)がスタートすることも話題沸騰となっています。 今回ご紹介する最新刊『レンタルなんもしない人の"もっと"なんもしなかった話』は、そんなレンタルさんの活動を、2019年2月からドラマ化決定までの約1年半分を時系列でまとめたもの。本書に登場するのは、『ポケモンGO』の同行、子連れでの電車移動の同行、「会食恐怖症」なので他人と食事するための練習など、さまざまな依頼です。 本書のあとがきでは「書いていない話はめっちゃいっぱいあります」(本書より)と、文字数の制約や依頼内容によって、Twitterには書きたくても書けない話が多数あることを明かしています。 また、今回のドラマ化にあたり、以下のように述べているのも見逃せません。 「僕も『レンタルなんもしない人』を演じているところがあるんです(中略)俳優さんに演じてもらうことで改めて、自分が『レンタルなんもしない人』という別人格を生み出した、それが自分の中から出てきたものではあるけど、自分とは別の人格だった。ということを再確認・再認識できたような気がします」(本書より) 今でこそフットワーク軽く、いろいろな人と初対面で会う活動をしているレンタルさんですが、実は子どもの頃はコミュニケーションをとることが不得手で、固定された人間関係が苦手だったそうです。 「......場面緘黙(かんもく)症だったんだと思います......そのような幼少期でしたけど......初対面の人とはわりと話せることにこの活動を始めて気がつきました...」(漫画版『レンタルなんもしない人』より)。 「場面緘黙症」とは、自宅などの安心できる環境では問題なく会話できるにもかかわらず、学校などの社会的場面では声が出せない状態が長期にわたって続く症状で、不安障害の一種とされています。 そんなレンタルさんの生き様は、類を見ない壮大なフィールドワークであり、社会的実験レポートとも言えるでしょう。レンタルさんの4冊目の著書となる本書を含め、一連の著書でその軌跡をたどってみれば、ドラマの世界観も、より一層リアルに感じられるのではないでしょうか。

【速報】「本屋大賞2020」は、凪良ゆう『流浪の月』に決定!
本日4月7日、全国の書店員が選ぶ「2020年本屋大賞」が発表され、作家・凪良ゆうさんの『流浪の月』(東京創元社)が大賞に輝きました。 本作に登場するのは、父親が亡くなり母親も家を出ていき、親戚から性的虐待を受けてきた小学4年生の家内更紗(かない・さらさ)と、「更紗を誘拐した小児性愛者」といわれた大学生の佐伯 文(さえき・ふみ)。世間からは「被害者と加害者」と見られている更紗と文ですが、実は2人にしか分からない感情があったのです。それは恋愛とも友情ともとれない複雑な感情。時が経ち、少女は大人へと成長し、2人は再会します。そこからふたりが再び織りなす関係とは――。 受賞した凪良さんは、1973年生まれ滋賀県出身。2006年に中編小説『恋するエゴイスト』が雑誌に掲載され、2007年に出版された『花嫁はマリッジブルー』で本格的に作家としてデビューを果たしました。以降は、男性同士の恋愛を題材にした「ボーイズラブ(BL)」小説の分野でも活躍し続けています。 本屋大賞は、出版業界活性化のため、全国の書店員が、年に1度、「一番売りたい本」を投票で選ぶもので、第17回目となる今回は、「2018年12月1日~2019年11月30日に刊行された日本のオリジナル小説」が対象となりました。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、発表会は受賞者や報道関係者が出席しない無観客で実施されました。 ■本屋大賞公式サイト http://www.hontai.or.jp/

【「本屋大賞2020」候補作紹介】『流浪の月』――世間から受け入れられないふたりが織りなす「新たな人間関係」とは
BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2020」ノミネート全10作の紹介。今回、取り上げるのは凪良ゆう著『流浪の月』です。 ****** 2006年のデビュー以来、長らくBL(ボーイズラブ)の分野で執筆を続けてきた凪良ゆうさんですが、本書『流浪の月』は、2017年に発表した『神様のビオトープ』に続く非BL作品です。世間から受け入れられない、世間とは相容れない者たちの関係が、静謐(せいひつ)ながらも圧倒的な筆力で描かれています。 父親が亡くなり、母親も家を出ていき、親戚の家に預けられることとなった小学4年生の家内更紗(かない・さらさ)。同居する従兄から性的な嫌がらせを受け、家に帰るのが辛い日々が続きます。そんなとき、公園で声をかけてきたのが大学生の佐伯 文(さえき・ふみ)。更紗はそのまま彼の家へついていってしまいます。 文の家での生活は居心地がよく、更紗は両親と暮らしていた頃のような自由をしばし満喫しますが、けっきょくは見つかってしまい、更紗は元いた親戚の家へ戻ることに......。そして世間では「ロリコン男が少女を連れ去った誘拐事件」として大々的に報道されてしまいます。 その後、更紗は文への罪悪感と会いたい気持ちを抱え続けたまま大人になり、恋人と同棲しながら淡々と仕事に励む日々を送っていました。しかし、事件から15年が経ったある日、更紗は偶然、文と再会してしまうのです。そこからふたりが再び織りなす関係とは......? 私たちは、物事や関係性において、ルールや常識と照らし合わせてレッテルを貼りがちです。そのほうが生きる上で便利でラクだから。けれど、本書を読んで「私たちが決めつけていることは真実とは異なる場合がある」「本人同士にしかわかりえない感情や関係性だってある」ということを知らされるのです。 たとえば、いくら文が優しく理性的で、更紗にとって安心できる存在だったとしても、世間における事実としては、文は「少女をさらったロリコン誘拐犯」であり、更紗は「誘拐されたかわいそうな少女」でしかありません。更紗がどれだけ真実を語ったとしても、世間は奇異や同情の目で見るほかないのです。この絶望や無力感を読んでいる間、痛感させられるでしょう。 ふたりの間には、いわゆる「恋愛感情」はありません。けれど、ふたりにしか理解しあえない確かな結びつきがあり、それがふたりの生きる力になっています。一方で、世間的には「家族」や「夫婦」、「恋人」といった名前がついていても、中身のない空虚な関係性だってあるはずです。家族や夫婦であっても分かり合えないこともあれば、名前のつけられない関係性であっても分かり合えることもある。私たちがふだん気づかない、もしくは気づいていても目をつぶってやり過ごしてしまうことを、まざまざと突き付けてくる物語に、読後しばし呆然としてしまいます。 せめて願うのは、どうか更紗と文のふたりにとって幸せで安心だと思える日々がずっと続いてほしい、ということ。祈るような気持ちでページをめくるとともに、大切な誰かとの関係性に思いを馳せずにはいられなくなることでしょう。

【「本屋大賞2020」候補作紹介】『ライオンのおやつ』――33歳で余命宣告され...人生最後に食べたい「おやつ」をめぐる心温まる物語
BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2020」ノミネート全10作の紹介。今回、取り上げるのは小川 糸著『ライオンのおやつ』です。 ****** 『キラキラ共和国』や『ツバキ文具店』などの作品が本屋大賞にノミネートしてきた小川 糸さん。人の優しさや幸せ、人生のあり方を再発見でき、読後にはどこか温かい気持ちになる作風は、本書『ライオンのおやつ』でも健在です。 主人公は、がんの余命宣告を受けた33歳女性の海野 雫(うみの・しずく)。残りの人生を過ごす場所として選んだのは、瀬戸内海に浮かぶ「レモン島」にあるホスピスです。その名も「ライオンの家」。終末期の患者をケアする施設とはいえ、医療行為を完全にしないというわけではなく、延命治療をしないだけで、苦痛を和らげる最大限のケアは施してくれます。 雫は幼いころに両親を亡くし、育ての親である叔父には、自分の余命が残り少ないこと、がんであることを隠していました。叔父の平穏な生活を乱したくないという雫なりの精一杯の配慮であると同時に、叔父に告げても告げなくても、自分が死に向かっている事実は変わらないという気持ちも......。 そうした思いを抱えた雫を「ライオンの家」で迎えたのは、個性豊かで心優しいメンバーたち。「ライオンの家」の代表兼看護師のマドンナは、2つに分けて編んだおさげはほとんど白髪で、なぜかメイド服を着ています。ほかにも、叶姉妹を自虐ネタに使う調理担当の狩野姉妹、スケベオヤジの粟鳥洲(あわとりす)さん、入居者に自慢のコーヒーを振舞うマスター、島に移住してぶどうを育てる好青年のタヒチくん、雫の心の支えとなる犬の六花(ろっか)など。彼らとの交流から、雫の心は少しずつ変化していきます。 また、「ライオンの家」の習慣もユニークです。毎週日曜日、入居者たちがもう一度食べたいおやつをリクエストできる「おやつの時間」があり、毎回1つだけそのお菓子が再現され提供される仕組みで、おやつが何になるかは当日まで明かされません。 「おやつの時間」では、お菓子にまつわるエピソードがマドンナによって朗読されますが、おやつをリクエストした人の名前は伏せられたまま。それでも、かけがえのない思い出を聞けば自然と誰かということはわかるものです。しかし雫は、リクエストするお菓子をまだ決められていませんでした。一体、彼女は何を選ぶのでしょうか。 死を考えることは同時に生きることを考えることでもあります。死に向かう登場人物たちのおやつをめぐる話から、生きるとはどういうことなのかを改めて知れる貴重な機会となるでしょう。あなたなら人生最後のおやつ、何を選びますか?

【「本屋大賞2020」候補作紹介】『medium霊媒探偵城塚翡翠』――「すべてが、伏線」美少女霊媒師と推理作家コンビが難事件に挑む
BOOKSTANDがお届けする「本屋大賞2020」ノミネート全10作の紹介。今回、取り上げるのは相沢沙呼(あいざわ・さこ)著『medium霊媒探偵城塚翡翠』です。 ****** 著者の相沢沙呼さんは、2009年にミステリー作家の登竜門として名高い「鮎川哲也賞」を『午前零時のサンドリヨン』で受賞しデビュー。2020年5月には『小説の神様』が橋本環奈さんと佐藤大樹さんのW主演で映画化される「旬な作家」です。 本書はというと、本屋大賞ノミネートだけではなく、「このミステリーがすごい!」や「本格ミステリ・ベスト10」(ともに2020年版)、「2019年ベストブック」(Apple Books)の3冠を獲得。今、最も注目の本格ミステリー小説と言っても過言ではない作品です。 主人公の城塚翡翠(じょうづか・ひすい)は、魂を呼び寄せることで死者の言葉を伝えることができる霊媒師。まるで人形のように完璧に整った顔に、蒼白の肌、美しく長い黒髪、そして両目は碧玉(へきぎょく)色の瞳を持つ、どこかミステリアスな美少女です。 彼女の力は万能ではなく、非業の死の場合にはその人間の死んだ場所を特定しなければ、能力を発揮できません。加えて、致命的ともいえるのが、たとえ霊視によって犯人がわかったとしても証拠能力がないこと。それにより苦い思いをしたことも数知れず......。 翡翠の欠点を補いタッグを組むのは香月史郎(こうげつ・しろう)です。「警察の人間でも、探偵でもありません。ただのしがない物書きです」と話すように、彼の職業は推理作家。霊視でわかった犯人を追い詰めるため必要な証拠を集めるなど、論理の力で事件を解明します。 そんな2人が挑むのは、ここ数年、関東地方で起きている連続死体遺棄事件。一切の証拠が残っておらず、頼りになるには翡翠の力のみ。2人で挑んだ難事件の先に待ち受けていた衝撃の結末、そして明かされる翡翠の秘密とは......。 日本ミステリー界の巨匠である綾辻行人さんと有栖川有栖さんも絶賛した本書。4話構成で、1~3話では2人による謎解きが展開されますが、最終話でどんでん返しが起こるので、最後まで読み進めることをおすすめします。巨匠たちが絶賛する理由のみならず、「すべてが、伏線」というキャッチコピーの意味もきっと理解できるはず。ミステリー小説の完成度の高さが保障されている作品ともいえるでしょう。 著者がTwitterで「感想に困ったら、翡翠ちゃんかわいい、ってツイートしてください......」と投稿するように、帰国子女のお嬢様で美少女、しかもドジっ子の「翡翠ちゃんかわいい」。ネタバレ厳禁なので、それ以上の感想が出せないともいえます。あなたも、著者が仕掛けた罠に騙されてみませんか?