うつ病を克服するまでの闘病記でもあり、平成を振り返る政治学の本でもある。教育についての提言でもあり、哲学書のようでもある。きちんと章立てされながらも混然とした内容の豊かさと、著者が自身をさらけ出すようにして紡いだ言葉の圧倒的な誠実さによって本書は際立っている。

 著者は自身の躁とうつの経験を基に、「言語」と「身体」という二極の視点からリベラルの凋落を考察する。また病で自己の能力を失った経験から、弱肉強食の新自由主義ではなく、人々の能力差を認めながら共存するための新しい新自由主義が必要であると説く。「既存の社会に『いかに適応するか』ではなく、『いかに疑うか・変えていくか』という、知性がほんらい持っていたはずの輝きを、とりもどそうではないか」。著者のねがいが本書には満ちている。

週刊朝日  2018年6月8日号