人生経験のつもりでパチンコ店に入り、いきなり7万勝ったことがある。ビギナーズラックだ。でも、その後は勝ったり負けたり、というか負けてばかり。「金がなくなるばかりだ! つまらん!」と感じて止めてしまったが、あのままパチンコ依存症になっていたかも知れないと思ったりもする。もう少し軍資金があったら……もう少し家と店とが近かったら……。
 著者によれば、日本は約20人に1人がギャンブル依存症だという。そしてこの数字は「諸外国とくらべても驚くほど高い数値」である。ドレスコードがある大人の社交場が海外のカジノだとすれば、サンダル履きで行けるのが日本のギャンブル場。私服に着替えてしまえば、未成年の学生でも潜り込める。しかも、競馬などの公営競技では、親子連れでも楽しめる工夫がなされていたりもする。実は最もギャンブルにアクセスしやすい国、それが日本なのである。
 問題なのは、依存症患者へのケアが不十分であること。ギャンブル好きが勝手に堕落していったと考えられ、身内の恥として隠蔽されてしまうが、それでは何も解決しない。「実際のところ、ドーパミンの過活動が大きな原因のひとつになっています。そのように本人の意志だけではなんともできない病気だという認識を持つことが大切です」とあるように、これは立派な病気なのである。アルコール依存症とは違い、身体的には健康であり、ギャンブルをしている時以外は有能な社会人だったりするが、だからといってそのままにしておくと、人を殺してしまったり会社の金を横領したりといった犯罪が高確率で起こる。恐ろしいことだ。
 著者は「祖父、父、夫がギャンブラー」であり、自身もギャンブル依存症になった過去を持つ。だからだろうか、高い専門性を保ちながらも、語り口はあくまで柔らかく親しみやすい。ギャンブル依存症について知るための、とても良い一冊だと思う。

週刊朝日 2015年11月6日号