ひきこもりに関する著作などで知られる精神科医が、現代の若者を取り巻く風潮を「承認」というキーワードから読み解いた一冊。
 承認への渇望は、社会の至る所に溢れている。例えば就労動機の変化。著者によれば近年、若者の就労願望を支えるのは「食い扶持のため」といった義務感ではなく「仕事を通じて認められたい」という承認欲求だという。
 本書のミソは、このような欲求を「相互承認」という観点から捉え直す点にある。承認は、他者の存在抜きには得られない。それゆえ承認を欲することは、他者に依存すると同時に支配されることをも意味する。こうした葛藤を孕んだ相互承認は、病理と紙一重でもある。著者は「コミュ力」「コミュ障」といった言葉に示される近年の風潮を「コミュニケーション偏重主義」と名付け、2008年に生じた秋葉原無差別殺傷事件を事例に「承認」と「病理」の境界を丁寧に解きほぐしてゆく。
 若者への臨床経験豊富な著者だからこそ、単なる「評論」には留まらない。「承認」に悩める若者へのメッセージが随所に詰まっている。

週刊朝日 2014年3月28日号