邪馬台国はどこにあったのか。因幡のシロウサギ伝承はなぜ出雲なのか。本書は歴史や神話の舞台を実際に歩き、そこに眠る謎を解き明かそうと試みる。
 興味深いのは、一見、相反する二つの書物を取り上げている点。中国から見た日本の様子を淡々と記述した『魏志』倭人伝、神話化することで歴史事実を曖昧化した『古事記』。当時の国家権力の介入が少ないからこそ、事実が見えやすく、実際、関連する多くの風景や遺跡、出土品と出会う。
 大量の青銅器が出土した「出雲」では、鉄や勾玉の原料が豊富なこと、またそれを加工する生産技術が発達していた事実を知る。ものづくりを軸に独自の交易を続け、ヤマトを脅かす経済力を築いていたのだ。日本海の先の顧客に向けて、地道に技術を磨いていた職人が日本の礎を築いたと思うと感慨深い。
 古代日本には、我々が想像するよりもはるかに活力に満ちた人々が生きていたことがわかる。彼らの残した息遣いを追い、ロマンと名のつくひとつの「真実」に出会う著者の旅に同行してみては。

週刊朝日 2013年1月18日号