国内のビジネスマンを主対象に、中国人の関係の結び方を「グワンシ」というキーワードを用いて解説したもの。聞き慣れない概念だが、香港大学で教鞭を執るツェは、日本企業が中国進出に失敗する背景に、日本人のグワンシへの理解不足を指摘する。
 グワンシとは、自分を中心とした同心円にもとづく人間関係を指す。部外者と身内を区別し後者を重んじる行動原理でもあり、人口の多い中国において特に経済的混乱が見られる際、資源の再配分に関わる機能を担う。このことは日本が集団(会社や社会)のルールを優先して個人的な人間関係を後回しにするのに対し、中国では後者を優先させ前者を後回しにするという相違点にも結び付く。以上の点を理解した上で日本企業が行うべきは中国人従業員との“対話”だという。従業員に中国企業との違いを根底の文化差から伝え、納得してもらうことが中国進出成功の鍵となるのだ。
 グワンシについて学術研究を基盤としつつ、現状に即したアドバイスも交えたバランスの良い実践書である。

週刊朝日 2012年11月9日号