適正技術とは、例えば先進国の技術を発展途上国に移転する場合に、現地の社会的、経済的、文化的な側面を配慮し、受け入れ可能とした技術のことであり、同時に公害や資源浪費、人間疎外などを生み出さないよう配慮された技術のことも指すという。
 1960年代から80年代にかけて盛んに論じられた言葉を今持ち出すのは、著者がいま、まさに「適正技術」をインドネシアで実践しているからだ。
 水質汚濁が深刻なインドネシアにおけるヤシの繊維を利用した小規模な回転円板式排水処理装置やバイオマス廃棄物を利用したガス化実証プラントの設計など、現地での取り組みが語られるが、著者の現場の体験をもとにしたそれは、非常に具体的で興味深い。
 終章では、化石燃料消費量や再生可能エネルギー導入可能量、経済成長の可能性などから、マクロな視点できたるべき「代替的な社会の方向性」が論じられる。3・11以降、エネルギーへの不安が高まるなか、具体的な実践によって、新たな目を開かせてくれる本である。

週刊朝日 2012年11月2日号