大阪市営地下鉄「動物園前」駅から徒歩数分のところに“異界”が広がっている。同じような造りの“料亭”が連なり、開け放たれた玄関の奥には、手招きするオバちゃんと、ピンクのライトに照らし出され、にこりと微笑むきれいな女性の姿。ここは旧遊郭の名残を色濃く残す飛田新地だ。
 会社から整理解雇され、父の保険金が入ったばかりの著者。突然、高校時代の先輩に「飛田の親方、やらへんか?」と持ちかけられる。「月、500万前後の儲けや」という。そんなわけがないと思いつつも、話を聞いた飛田経営者の「いかがわしい場所とか言われるけど、そういう場所で人間の道極めるのもオモロイで」という一言が心に残り、この世界に飛び込んだ。
 料亭の2階で行われている“自由恋愛”の実際や、女の子が飛田に来る理由、月300万円稼いでも割に合わないという親方稼業など、本書に綴られた赤裸々な内情に面食らう人もいるだろう。
 しかし、それらは飛田を彩るピンクの照明のように妖しい光を放ち、読み手の心の奥にぐいぐいと入り込んでくるのだ。

週刊朝日 2012年10月26日号