■遠距離で一人暮らし 欠点ばかりじゃない

 また、家族と離れた場所に暮らしているということは、けっして悪いことばかりではありません。

「訪問介護は掃除・洗濯などの生活援助と身体介護の二つに大きく分かれますが、元気な家族と同居している場合、多くの自治体で、生活援助の利用はできません。一方、親だけで暮らしていると利用可能な場合が多いです」(太田さん)

 つまり家族が遠方に住んでいる場合、介護サービスを受けられやすい仕組みになっているのです。さらにホーム入居でも、遠距離介護であることが有利に働くケースがあります。

「特別養護老人ホームは要介護3以上の人でないと入れませんが、主たる介護者が被介護者と違う都道府県に住んでいることが特養で加点対象になる都道府県は多い。つまり入りやすい。要介護3でも在宅介護サービスをうまく利用すればやっていけないこともないと思いますが、4だと難しい。そんな時、高齢者の一人暮らし世帯は入居に有利です」(同)

 そして介護でなくても、自治体によっては緊急通報システムなど、高齢者の暮らしを支援するサービスを提供するところもあります。地域包括支援センターに相談してみましょう。

 一方で遠距離介護は、介護をする家族にとっても利点があります。

「同居してずっとそばにいると、嫌なことを言い合ってけんかになってしまうことも。しかしたとえけんかしても、もとの生活に戻ることで気持ちをリセットできるのが、遠距離介護の強みです」(同)

■専門家が一番に伝えたいポイント

<淑徳大学総合福祉学部教授・結城康博さん>

「介護は突然始まります。病気で入院してからの平均在院日数は短く、その間に退院後の介護プランを決断するのは困難。ホームがいいか在宅介護がいいか、また3カ月の介護休業をどう使うかも含めて、家族と早めに相談を」

<在宅介護エキスパート協会代表・渋澤和世さん>

「自分の気持ちを話すことを我慢しないで。望む介護を受けられず、からだを悪くして迷惑をかけてしまうことも。また介護をする側も、我慢して過労で倒れてしまわないよう、自分をいたわる『セルフケア』を意識しましょう」

<介護・暮らしジャーナリスト・太田差惠子さん>

「親が遠方に住む場合、介護のために仕事を辞めてしまう人も。しかし、親が100歳まで生きる可能性もある時代、親にお金を使い果たしたら子どもの老後が立ちゆきません。介護サービスをうまく利用して、子どもの人生も大切に」

(文/白石圭)
※週刊朝日ムック『高齢者ホーム2022』から