また、厚生労働省による19年の調査によれば、入院してから退院するまでの「平均在院日数」は、一般病床で16.0日となっています。つまり、病気になって入院しても、早い場合は約2週間で退院しなくてはならないことになります。

 淑徳大学総合福祉学部の結城康博教授はこう話します。

「厚生労働省は3カ月間の介護休業を取得できる制度を定めていますが、この短期間では親の入居先を決めることはできません。このため親の介護で仕事を辞める『介護離職者』は年間10万人もいます。子どものためにも、介護のことは早めに考えておきましょう」

「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者になり、介護だけでなくさまざまな問題が懸念されている「2025年問題」の到来まであとわずか。今のうちに老後の課題を整理しておくことが必要です。

■片道1.5時間の介護 無理は禁物

 この距離なら、頑張れば通えるんじゃないか――。都内に住むBさんは、横浜市内に住む80代の両親の面倒を見るために、片道1時間半の距離を毎週のように往復しています。新幹線や飛行機を使う必要もなく、時間も交通費もそれほどかかりません。しかし、母からは「電球が切れたから来て」「腰が痛いから来て」と頻繁に連絡がきます。時には仕事終わりの時間にくることも。

「近いとはいえ、遠い……」

 Bさんは次第にそう感じ、疲弊してしまいました。

 介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さんはこう話します。

「これから介護を受ける世代は、都心の周辺に住んでいることが多く、都心部に住む子どもが『近いから自分で世話をしなければ』と考えることも。ただ、仕事をしながら片道1、2時間の距離を往復するのは困難です。遠距離介護と同じと考えたほうがいいでしょう」

「独居」「おひとりさま」とも呼ばれる高齢者の単身世帯は年々増えています。近所に子が住んでいる場合は支援を受けられるかもしれませんが、遠距離の場合や、前出のように中距離の場合、子にかかる負担は少なくありません。「一人の老後」にはどのように備えればいいのでしょうか。

65歳以上の高齢者のいる世帯数のデータ。このうち高齢者の単独世帯は2018年に27.4%あり、4人に1人以上が「おひとりさま」「独居」の状況にある。データは内閣府の「令和2年版高齢社会白書」から
65歳以上の高齢者のいる世帯数のデータ。このうち高齢者の単独世帯は2018年に27.4%あり、4人に1人以上が「おひとりさま」「独居」の状況にある。データは内閣府の「令和2年版高齢社会白書」から

「『どうしようもなくなったら』では遅い。自分で身の回りのことや重要な決断ができなくなる前に、周囲に相談しておくべき」と、太田さんは話します。どこで暮らしたいのか(自宅かホームか)、もしホームに入ることになったら家はどうするのか……今は困っていなくても、自分の考えを共有したり、ホームの見学などをして情報を集めたりすることで、家族が介護をスムーズにおこなうことができます。

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「遠距離独居」で有利なことも