介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さん
介護・暮らしジャーナリストの太田差惠子さん

 老老介護、独居高齢者、認知症……団塊世代が75歳の後期高齢者となり、介護をめぐる問題が噴出すると言われる2025年まであとわずか。実際にいま起きている失敗事例をもとに、どう準備すればよいか、専門家に聞きました。現在発売中の週刊朝日ムック『高齢者ホーム2022』から抜粋して紹介します。

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■2人暮らしは無理 医師に言われて

 この2人に、介護をしているという認識はありませんでした。81歳のA子さんは、夫(脳血管疾患で言語能力が低下し、つえ歩行)と二人暮らし。訪問介護を利用しながら、遠方に住む娘が月2、3回様子を見に来ていました。娘はそこで、A子さんのおかしな行動を目撃します。たとえば、配食サービスのお弁当を火にかける。真夏に冬物の布団で夫を寝かせる。トイレを掃除せず悪臭が漂う……。検査の結果、A子さんはアルツハイマー型認知症でした。夫の世話もままならず、互いの体力も衰弱していきました。

 ある日、夫が高熱を出し、娘は両親の元へ。主治医からは「これ以上2人で暮らすのは無理」と忠告され、両親を家に引き取ります。夫はまもなく肺炎を起こし、病院で死去。残された認知症のA子さんは、娘の家に残りました。

 その後もA子さんの「事件」は続きました。室内で失禁、洗濯済みの洋服をトイレットペーパー代わりに使うなど、娘は疲れ、苛立ちが募りました。もう少し早めに両親の介護の方針転換をしていれば、現状は変わっていたかもしれません。

 在宅介護エキスパート協会代表の渋澤和世さんはこう言います。

「認知症などの病気がよほど重度でない場合、親が子の支援を遠慮して我慢してしまい、病気が悪化してしまうケースも。また高齢の場合、脳血管疾患などで倒れてしまうと、わりとすぐに要介護状態になってしまうことがありえます」

■介護の多くは想定外 今のうちに準備を

 朝日生命保険相互会社の2012年の調査では、介護をしている人のうち4割が、相手の人が要介護状態になることを想定していなかったことがわかりました。

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片道1.5時間の介護 無理は禁物