ケニア、アンボセリ国立公園の夕暮れ。ヌーが休む前を、ゾウの群れが夜をすごすキリマンジャロ山麓に向けて移動を開始する(撮影:水口博也)
ケニア、アンボセリ国立公園の夕暮れ。ヌーが休む前を、ゾウの群れが夜をすごすキリマンジャロ山麓に向けて移動を開始する(撮影:水口博也)

クジラを追いかけてきた水口さんがアフリカを訪れたわけ

 一方、「黄昏というと、アフリカのサバンナがあまりにもきれいなので、その写真をたくさん入れることにしました」。

 今回、とても意外だったのは、クジラ類の作品で知られる水口さんがこれほど多くの陸上動物、しかもこれまでの作品とは関係なさそうなアフリカのサバンナで撮影してきたことだった。しかし、その理由を聞くと、(やっぱり、水口さんだなあ)と、納得した。

 話は恐竜時代が終わった後、約5000万年前にさかのぼる。それまでクジラの祖先は陸上に住んでいたという。その後、彼らは海に入り始め、初期のクジラが生まれた。

「クジラの祖先にもっとも近いといわれている動物がカバなんですよ。それから、ゾウの社会のかたちと、マッコウクジラの社会のかたちがものすごく似ているんです。だから、カバとゾウを見たいというのが、そもそものアフリカ行きの大きっかけだったんです」

 マッコウクジラは血縁関係のあるメスだけで緊密な群れをつくるという。子どもは母親だけでなく、群れ全体で面倒をみる。メスの子どもは成長しても群れに留まる一方、オスは群れを離れ、1匹で暮らす。

「それが、ゾウとそっくりなんです。だからゾウの社会を勉強すると、クジラの社会が想像できる。全部見えるじゃないですか、水中にいるクジラと違って。だから、ゾウを見ていると、すごく楽しい」

「それで写真集の2枚目の写真をゾウにしたんですか?」と、たずねると、満面の笑みで、「はい」。

針葉樹の深い森が茂る島々を散在させるアラスカの沿岸水路。陰に沈む森を背景に、シャチのポッドが背びれを連ねる(撮影:水口博也)
針葉樹の深い森が茂る島々を散在させるアラスカの沿岸水路。陰に沈む森を背景に、シャチのポッドが背びれを連ねる(撮影:水口博也)

「ぼく自身がめちゃくちゃCO2を出して自然に影響を与えている」

 では、出だしの1枚は、というと、これまた、とても意外だったのだが、北海道・美瑛で写した黄昏の風景なのだ。

「去年までは1年の半分を海外で過ごしていたんですが、今年はこんな状況で、一気に国内取材が増えました。日本の森を回ってみると、楽しくて。森やきれいな水と空気。それはものすごく貴重な日本の宝。これまで、クジラとかを啓蒙的な意味合いを持って撮影していましたけれど、それ以上の意味を持つと思いました。今回の写真集はそのテーマに向けての第一歩でもある」

 冒頭、あとがきについて触れたが、ここではコロナ禍を背景に<「旅」をはじめとする自分自身の取材や仕事のしかたについて、じっくりと考えなおす時期>だったと書いている。その一つが温暖化への影響だ。

 2000年以降、南極半島では温暖化の影響が目に見えるかたちで進んだという。その現場に水口さんは通ったわけだが、「ぼく自身がめちゃくちゃCO2を出して自然に影響を与えている。年に何十回も海外に行くんですよ。空撮だ、といって、ヘリや飛行機を使う。サファリカーを乗り回す。ですから、普通の人よりもCO2をはるかに出している」。

 コロナをきっかけに国内に向かい始めると、そこには興味深いテーマがあった。エネルギーをあまり使わない取材方法にも合致していた。

「実は、この写真集はそんな大きな過渡期の1冊になったとも思っているんです」

                  (文・アサヒカメラ 米倉昭仁)