撮影:山岸伸
撮影:山岸伸

「カメラマンが初めて写真家としての壁にぶつかったんですよ」

 それは古希を迎えたベテラン写真家とは思えぬ一言だった。
「僕の場合はこれまで人物にしても、神社や馬にしても、被写体ありき。タイトルそのものでした。ところが、高岡さんと向き合ううちに、女性の肌と刺青が織り成すアートの部分にクローズアップしようと思いました。そこからは今まででいちばん自然に撮影できましたね」

 結果、今回展示する作品は山岸さんのスタジオで撮られた写真がほとんど。被写体(モデル)、撮影者のレンズワーク、そしてライティング(照明)という極めてシンプルな構成要素になった。ほとんどがモノクロ写真なので、肉体と刺青の造形美が際立っていて、時に抽象的な美しさを感じる。

撮影:山岸伸
撮影:山岸伸

 ところで、今回の写真展会場は東京・銀座の吉井画廊。油彩、彫刻などの展示で知られる老舗のギャラリーだが、実は写真家による個展は極めて珍しい。開催のきっかけは吉井画廊の吉井長三社長が写真展「瞬間の顔」を見に来たことだった。その後、山岸さんがFacebookで撮影中の高岡さんの写真を投稿したことが吉井社長の目にとまり、話が進んだという。

「刺青でヌードもあるので思わず『大丈夫ですか?』と聞きましたよ(笑)。画廊ですから写真を販売することになります。これまで雑誌や写真集、インターネットで写真を出してきましたが、これからの時代、写真家は自分の作品を販売することにもっと積極的でないといけないと思うんです。作品として残せるものはきちんと残しておかないと」

 山岸さんがこう話す背景には昨今の出版業界やカメラ業界の低迷がある。今年6月に休刊したアサヒカメラの例を待つまでもなく、写真家が作品を掲載するメディアは減り、カメラ雑誌や写真家を支えてきたカメラメーカーも業績不振にあえいでいる。今や写真家の「自立」が問われている。

「実はモデルとなった高岡さんも、写真展会場で知り合ったんです。僕の場合、『瞬間の顔』シリーズで815人のポートレートを撮影してきたこともそうですが、たくさんの出会いに恵まれました。そうした人々との出会いがきっかけになって次の作品づくりにつながっていく。ごく自然なことかもしれませんが、本当にありがたいことです。やっぱり写真は『人』なんですよね」

                       (AERA dot.編集部)

【MEMO】
山岸伸写真展「酒呑童子」
2020年11月2日~14日 吉井画廊
https://www.galerie-yoshii.com/
東京都中央区銀座8-4-25 
平日10:00~19:00、土曜日11:00~18:00
(日曜・祝祭日休み)