撮影:山岸伸
撮影:山岸伸

写真家の山岸伸さんが11月2日から写真展を開催する。場所は日本画などの美術品展示で知られる東京・銀座の吉井画廊。そしてテーマは「刺青」。この写真展に込めた思いは? 山岸さんに話を聞いた。

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 墨一色で表現された刺青は「カラス彫り」と呼ばれる。刺青自体をおどろおどろしいと受けとめる向きもあるが、カラス彫りには墨の濃淡が織り成す独特の立体感があり、描写が精緻であれば、図柄は生き物のような躍動感を見せてくれる。

 そんなカラス彫りを背中一面に施したのがモデルの高岡千恵さんだ。描かれているのは酒呑童子(しゅてんどうじ)と呼ばれる伝説の鬼。写真家の山岸伸さんは高岡さんを1年半かけて撮影したという。

 山岸さんといえば、1980年代から雑誌や写真集などでアイドルや女優のグラビアを多数手がけてきたことで知られる。近年はライフワークとして、政財界などで活躍する男性の肖像写真(ポートレート)の写真展「瞬間の顔」シリーズを10年以上続けているほか、北海道帯広市の「ばんえい競馬」や京都・上賀茂神社(賀茂別雷神社)、球体関節人形の“ポートレート”など、人物写真の枠を超えて活躍している。そうした多岐に渡る活動が評価され、2016年には日本写真協会作家賞を受賞した。

撮影:山岸伸
撮影:山岸伸

 今回の作品の被写体は「刺青を施した女性」。再び女性の肖像写真に挑む「原点回帰」と思いきや、そう単純な話ではないようだ。

「撮り始めた頃は女性の身体を撮ることが中心になっちゃって、どうもグラビア的になってしまったんです。写真としては『刺青をした女性のグラビア』。僕はずっとグラビアでポートレートを撮ってきたから、どうしてもそうなってしまう。何かが違うなと思いながら、いろいろ試してみたんです」(山岸さん、以下同)

 筆者は撮影当初からの写真を見せてもらったが、肌をごつごつした岩や沖縄の風景と対照的に描いてみたり、ペインティングしてみたりと、確かに試行錯誤を繰り返した痕跡があった。

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カメラマンが初めて写真家としての壁にぶつかった