
いま、密かな話題を集めている一冊の写真集がある。アマゾンのレビューでは15人が評価を付け、すべてが最高評価の星5つ。レビュー欄でも、
「とにかく笑った♪」
「我が家では愛犬も大好きな一冊」
「めちゃくちゃ読み応えある写真集」
などなど、絶賛の声が相次ぐ。
その本のタイトルは『あそどっぐの寝た集』(白順社)。写真家の越智貴雄さんが、熊本市在住で自らを「寝たきり芸人」と称するあそどっぐさん(本名・阿曽太一、39)を撮った。
あそどっぐさんは、子供の頃から全身の筋力が低下する「脊髄性筋萎縮症」を患い、現在は顔と左手の親指しか動かない。車いすにも座れず、移動はストレッチャーが必須。介護は24時間365日必要だ。そんな日々の生活をあえて逆手に取り、障害者の日常を笑いにしたネタを披露している。
写真集の第一部のタイトルは「僕は笑がい者」。
〈九州生まれ、九州育ち、体悪そなヤツらはだいたい友だち〉
〈多目的トイレで順番待ちしてると、たまに若いカップルが出てくる。多目的〉
といった「障害者あるある」ネタが、あそどっくさんの写真とともに掲載。一瞬ドキリとさせられるが、ページをめくるたびに思わず笑ってしまう。
撮影を担当した写真家の越智さんは、パラリンピックスポーツのカメラマンの第一人者として知られ、選手や関係者からの信頼も厚い。2012年には、陸上の中西麻耶選手の競技資金を集めるためにセミヌードカレンダーを発表し、話題を集めた。14年には、義足の女性を撮影した写真集『切断ヴィーナス』を出版。日本だけではなく、英国などの外国メディアでも取り上げられた。
越智さんはもともとあそどっぐさんのファンで、撮影を依頼。半年間にわたって全国各地でネタ写真の撮影をした。自他ともに認める渾身の一冊だ。ただ、実際に本を手に取った人の評価とは異なり、売れ行きはボチボチだそう。
撮影経費のほとんどは越智さんが捻出した。これで写真集が売れ残ったら、数百万円の出費は越智さんの持ち出しとなる。こんな状況にあそどっぐさんは、
「寝たきりのおっさんの写真集なんて売れるわけないのに、越智さんは変わった人だなあと(笑)。撮影ではふだん行けない所にたくさん行けて、楽しかったです」
と、どこか他人事のように笑う。