パソコンは左手の親指と唇でマウスを操作して動かす。コントの台本執筆や映像・音楽の編集まですべて一人で作業する(『あそどっぐの寝た集』より/撮影・越智貴雄)
パソコンは左手の親指と唇でマウスを操作して動かす。コントの台本執筆や映像・音楽の編集まですべて一人で作業する(『あそどっぐの寝た集』より/撮影・越智貴雄)

 一方の越智さんは「去年の初夢にあそさんが出てきたんですよね。2021年の紅白歌合戦の舞台であそさんがコントをやっていて。これは正夢になるなと思ったんです」と、こちらも笑いながら話す。何だかおかしな二人だ。

 あそどっぐさんは身長150センチ、体重24キロしかない。肺活量は成人男性の5分の1程度。本人いわく、「この病気で30歳を越えて生きた人は世界中探してもいないらしいですよ。僕ってすごいでしょ」。

 万が一、ストレッチャーから落ちたり、のどに食べ物や飲み物を詰まらせたりすると、死につながる可能性がある。にもかかわらず、撮影では、川の中にストレッチャーで入ったり、滝で写真を撮るために山を登ったりと危険な場所にも次々に行った。越智さんは言う。

「海岸で撮影していた時にストレッチャーから落ちたことがあったんです。ヘルパーさんが地面スレスレで受け止めてくれたので助かりましたが、あの時は本当に冷や汗が出た……。『死ぬかも』と思う場面が3回ぐらいありましたね」

 まさに命がけの撮影。ただ、あそどっぐさんは、そんなことは何も気にしていない様子。

「どこに行っても僕は寝てるだけですからね。寝たきりってラクなんですよ。周りの人は大変だったと思いますけど(笑)」

 これは本音なのかネタなのか……。あそどっぐ流の際どい表現に、周囲の人たちは彼の世界に取り込まれていく。

 今の二人の目標は、この本を売り切って第2作を出すこと。あそどっぐさんは福岡市内のライブハウスで定期的に出演し、依頼があれば全国各地に出かけて自作のネタを披露している。書店での売れ行きよりも、手売りの方が好調だという。ちなみに、あそどっぐさんは字が書けないので、手売り本ではサインの代わりにキスマークを付けている。

 それにしても、パラリンピックスポーツのカメラマンとして活躍する越智さんが、なぜあそどっぐさんの写真集を作った意味とは何か。越智さんは、こう話す。

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障害者は「かわいそうな人」という間違い