解体業の51歳男性。顎マスクは「すぐに上げられるようにという待機行動」だという(撮影/上田耕司)
解体業の51歳男性。顎マスクは「すぐに上げられるようにという待機行動」だという(撮影/上田耕司)

 通行人の中にはマスクをしていないが、腕章のように腕につけて歩いている男性、黒いマスクを手に持って歩いている女性も見かけた。「顎マスク」の人は10~15人に1人くらいの割合で見かけた。

 福岡から上京してビルの解体業をしているという51歳の男性は、電車で鎌倉へ向かう途中に新橋で下車したという。「顎マスク」で歩いていた。

「顎にマスクをしておくのは、すぐに上げられるようにという待機行動よ。電車の中ではマスクを上げて、しとるけん。人の目が気になるからしとるだけ。9割の人がマスクをしているのはしょうがないんじゃないの。僕はこだわりないけん。これまではマスクを忘れて自宅を出たら、駅前のコンビニで買って電車に乗っとったけど、これからは忘れても、わざわざお金使ってまで買わんね」

 同じく「顎マスク」をしていた51歳の会社員男性にも理由を聞いた。

「会社の中ではマスクを上げています。臨機応変に対応できるよう、顎にマスクをしています。人に迷惑をかけなければ、脱マスクでいいのではないでしょうか」

 一方で、「外したくても外せない」人たちもいる。マスクをしていた21歳の女性は、

「花粉がヤバくて、してないとくしゃみが止まんなくなるんですよ。花粉が終わったらもうマスクはしたくない。化粧がマスクに付着して、取れたり、崩れたりしちゃうんで、本音ではしたくないんですよ」

 もう一人、マスクをして歩いていた大学2年生の女性は、こんな事情を明かす。

「私は顔がもともと青白くて、目の下にクマがあるのでマスクを着けてごまかしています。私の知り合いの女性でも、顔の一部にコンプレックスがあって、マスク生活がやめられない子が多いです」

 今後はもっと脱マスク化が進むはずだが、コロナ前のような「顔を見せる社会」に戻るのはしばらく先になりそうだ。

(AERA dot.編集部・上田耕司)

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上田耕司

上田耕司

福井県出身。大学を卒業後、ファッション業界で記者デビュー。20代後半から大手出版社の雑誌に転身。学年誌から週刊誌、飲食・旅行に至るまで幅広い分野の編集部を経験。その後、いくつかの出版社勤務を経て、現職。

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